2015年6月10日星期三

狂獣化……?

「シルシュは落ち着くまで、しばらくそうして咥えているでゴザル」
「んむ……ふぁい……」

 返事をしつつも、コリコリと骨を齧るシルシュ。イギリス 芳香劑
 口いっぱいに頬張った骨は太く、喋りにくそうである。
 ラジャスの消滅した後に残ったのは、ショーテル。
 切れ味に特化する為、歪曲した刃を持つ曲刀だ。
 ショーテルを袋に仕舞っていると、遠くからレディアの声が聞こえてくる。

「ゼフっちぃ~っ終わったならこっちも手伝ってよぉ~」

 倒してくれても構わなかったが、流石にそれは厳しかったようだ。
 ダークサラマンダの魔力値は、まだ半分を残している。

「ウルクっ!」

 またもウルクを呼び出し、ミリィが突撃していく。
 相変わらずの脳筋戦法だが、まぁミリィに関しては好きに暴れさせてこちらでフォローする方が戦いやすい。

「それそれそれぇーっ!」
「グ……ガルゥ……」

 暴れ馬ウルクは天空高く飛び上がり、その強靭な足でダークサラマンダを踏み鳴らしていく。
 短い手足を振り回すが、すぐに空へと飛ぶウルクには届かない。

「ホワイトクラッシュハイネス」

 その隙に懐に潜り込んだセルベリエが、無防備な胴体に強化した魔導を叩き込む。
 ワシとセルベリエ魔導で強化したレディアとサルトビが、追撃を加えていく。

 ダークサラマンダ
 レベル125
 魔力値 4762575/12839975


「もうすぐ発狂モードに入るぞ、気をつけろ!」

 皆、わかっているとばかりにコクリと頷く。
 同じく異界の魔物であるダークゼルは、発狂モードになると逃げようとするが、こいつも同じだろうか。
 セルベリエはワシの言わんとする事を分かっているのか、それに対応する為に一歩引いて周囲に氷の壁を張り始める。
 もっとも、今はミリィのウルクがいる。そう簡単には逃げられないだろうが。

「ふ……っ!」

 サルトビの一撃と共に、バキン、とダークサラマンダの背に大きなヒビが入る。
 バキバキとその黒い身体にヒビが入っていき、地面に黒い破片が零れ落ちていく。

 まるで蛹から蝶が羽化するかのように、抜け殻となったダークサラマンダの背中から出てきたのは先刻より大分ほっそりとした黒トカゲ。

 ほっそりした身体と長く伸びた手足。
 先刻とは打って変わった機敏な動作で、首を小刻みに動かし、ワシらを油断なく見比べている。どうやら逃げる様子はないようだ。

「な、何か可愛くなったかも……」
「……趣味が悪いぞ、レディア」

 真っ黒いトカゲのように変体したダークサラマンダは、長い尻尾をヒュンヒュンと振り回している。
 そして大きく後ろに下げた後、無防備に骨を齧るシルシュに狙いをつけ、打ちつけてきた。

「……ち」

 サルトビが目にも止まらぬ速さで駆け、短刀で尻尾を斬りつけてその軌道を逸らす。
 しかしダークサラマンダはそれに怯まず、今度はサルトビに狙いをつけ、長い尻尾を器用に操りその身体に巻きつけた。

「サルトビっ!」
「っ!?」

 ダークサラマンダの尻尾がサルトビの小さな身体を締め上げていく。
 ミシミシと、肉と肉が軋む音が聞こえてくるようだ。サルトビの頭巾の下に、苦悶の表情が浮かぶ。

 タイムスクエアを念じ、時間停止中にホワイトスフィアを四回念じる。
 ――――ホワイトスフィアスクエア。

 ダークサラマンダの尻尾の付け根を狙って解き放つ。
 眩く光る光球がヤツの尻尾を焼き焦がしていく。しかしサルトビを解放するつもりはないようで、逆にその身体を強く締め付けていく。

「サルトビさんっ!」
「サルっち!」

 ミリィとレディアもサルトビを解放させるべく攻撃を加えていくが、素早い動きで攻撃を躱していく。
 くそ、こいつ素早いな。
 チロチロと赤い舌を出し、挑発するように目を細める。米国 Rush 芳香劑

「ぐ……ぬぬぬ……」

 サルトビが全身に力を込め、尻尾からの脱出を試みているようだが、あの細腕では厳しいのではないだろうか。
 やはりワシらが何とかするしか……そう思った瞬間、サルトビが自身の手をワシの方へ差し出してくる。
 これは……なるほど、そういう事か。

 即座に駆け出し、サルトビの手を握りタイムスクエアを念じる。
 時間停止中にホワイトウエポンを四回念じ、発動。
 ――――ホワイトウエポンスクエア。それをサルトビの両腕にかけたのである。
 白く輝く両腕でダークサラマンダの尻尾を掴む、サルトビ。

「ッアアアアアアーーッ!!」

 そしてサルトビが空へ向かって吠える。
 ザワザワと黒装束の中がざわめき、その瞳と頭巾から除き見える瞳と髪の色が真紅に染まっていく。
 狂獣化だ。

 尻尾に捕らえられていたサルトビが全身に力を込めていく。
 鋭い爪が肉を裂き、ゆっくりとではあるがダークサラマンダの締め付けが緩められていく。

「はあっ!」

 サルトビが気を入れると、尻尾の肉が弾け飛ぶ。
 ホワイトウエポンスクエアで強化した爪とはいえ、物凄い破壊力だ。
 バラバラに千切れた肉が地面に落ちては消えていく。
 たじろぐダークサラマンダを見据えたサルトビは、ゆらりと身体を傾ける。

「イク……ぞ」

 そして一本の赤い筋を残し、まるで黒い影のようにダークサラマンダに絡みつき、閃く斬撃がその身を抉っていく。

「グウッ!?」

 ダークサラマンダはサルトビの攻撃から逃れようとするが、あまりにも疾すぎて逃げ切れないようだ。
 その身にいくつもの斬痕を増やしていく。
 ウルクを戻し、魔力を回復させていたミリィが呟いた。

「すごい……」
「うむ」

 シルシュのものと全く違う、完全にコントロールされた圧倒的暴力。
 目にも止まらぬ連撃、その一撃一撃の重さ、完全にダークサラマンダを圧倒していた。
 だがその目はまだ、死んでいない。

「気をつけろ! サルトビ!」
「ギルル……」

 低い声を上げたダークサラマンダの身体に魔力が集まっていく。
 黒かった皮膚が徐々に明るく……赤く染まっていく。
 ――――何かやるつもりだ。気づいたサルトビはそれを防ぐべく、腰に指していた投擲用の短刀を抜き放つ。

「させぬでゴザル!」

 弾丸のように発射された短刀がダークサラマンダの眼と口に刺さり、その身体を少しよろめかせる。
 しかしダークサラマンダは怯む様子もなく、そのまま全身を真紅に染め上げていった。
 それだけではない。千切れた尻尾も完全に再生している。

「狂獣化……?」

 サルトビが驚愕に目を見開く。
 その様子を見て、ニヤリと口角を釣り上げたダークサラマンダは次の瞬間、その姿を消した。
 そして直後、頭上にあらわれたダークサラマンダの尾撃で、サルトビは地面へと叩きつけられた。
 大きく土煙が上がり、それに追撃を加えるべくダークサラマンダは跳躍する。
 マズいっ!

「ホワイトスフィアっ!」

 サルトビに飛び蹴りが突き刺さる直前、ワシの放った白い光球がダークサラマンダを吹き飛ばした。

「大丈夫か! サルトビ」
「へ……いきでゴザル……」

 セイフトプロテクションをかけていたのでダメージは大幅に軽減したハズだが、サルトビの髪も目も赤みが消えて、普段の黒目黒髪に戻りつつある。
 効いているな、これは。淫インモラル(脱裤)

「ギルル……」

 土煙の中から、ゆっくりと立ち上がる赤い影。
 真紅に染まった尻尾をくねらせながら、ダークサラマンダはまるで人のように二本の足で立っていた。

生まれたてのダンジョン
 ――――その日は教会で一晩を明かし、朝。
 サルトビを先導に、ワシらは街の付近に出来たダンジョンとやらに行く事になった。
 街を出てすぐ近くにある小さな森、ここが件の生まれたばかりのダンジョンである。
 なるほど、こんな町の近くにダンジョンが出来てはさぞかし不便であろう。
 そんな事を考えながらサルトビの後ろを歩いていると、ギロリとこちらを鋭い目で睨みつけてくる。

「……なんだよサルトビ、ワシの顔に何かついているか?」
「いいや? ただ昨晩は大層お楽しみだった、と思ってな」
「お楽しみ……? あぁ」

 せまくて寝る場所がなかった為、ワシとレディア、ミリィ、セルベリエは小さな部屋に押し込まれ、そこで眠っていたのである。
 起きた時、いつの間にか抱きつかれていて三人を引き剥がすのに苦労したのだ。

「おいおい、人の寝ているところを覗き見るのはあまりいい趣味とは思えないけどな?」
「あ~なんか視線を感じて寝苦しいと思ってたら、やっぱりサルっちだったかぁ~気配殺すの上手いねぇ~」
「ふむ、あれに気付くか。レディア殿は情報通り油断がならぬようでゴザルな」
「あっはは~そんなに警戒しないでよぉ~」

 警戒するサルトビとそれを追うように真後ろに立つレディア。
 サルトビは非常にウザったそうである。何かレディアっていつも皆に警戒されてないか?
 色々オープンすぎて、逆に警戒させてしまうのだろう。それでも最後は仲良くなるのは流石というべきだが。

「シルシュはこっちに来ても大丈夫だったの? 教会の方に魔物があらわれたりとかはしない?」
「今までそんな事はなかったので大丈夫だと思います。それにリゥイも大きくなって、戦えるようになりましたから」
「リゥイ君かぁ~結構格好良くなってたわね」
「ワシ程ではないけどな」
「ゼフったら、張り合ってどうするのよ……」

 ワシに呆れ顔を向けてくるミリィ。
 イケメンと言えばクロードはどうなったのだろうな。どこかに修行に行ったらしいが、きっと逞しくなっているのだろう。いや、案外すごい美人になっているかもしれない。
 色々と妙な輩にモテていたからな、あいつは。
 そんなことを考えていると、前を歩いていたサルトビの動きが止まる。

「……魔物だ」
「ブルーゲイルっ!」

 サルトビの言葉に即座に反応し、前方にブルーゲイルを放つミリィ。
 巨大な竜巻が吹き荒れて木々が揺れ、魔物が巻き上げられ、消滅していく。
 おいおい姿も確認せずに大魔導を撃つ奴があるか。先手必勝といっても程があるだろう、ミリィよ。

「ライトスネイクの群だな。いい反応速度でゴザル」
「えへへ、それほどでも……」

 照れながら頭をかくミリィに、セルベリエが注意を促す。

「あまり周りを確認せずに大魔導を使うのは非効率的だぞ」
「は、はいっごめんなさいセルベリエ……」
「……というかそれ以前に危ないだろ」

 突っ込むのも疲れるレベルだ。
 魔導師は魔物の属性に合せて攻撃するものなのだろうに。
 呆れていると草むらからガサガサと音が聞こえてくる。
 ミリィの奴め、討ち漏らしたか。

「シャアアアア!」

 あらわれたのは黄緑色の小さな蛇、ライトスネイクである。
 素早い噛みつきを躱し、スカウトスコープを念じる。

 ライトスネイク
 レベル25
 魔力値3222/3222

 攻撃力、防御力ともに大した事のない魔物だが、素早い動きと強力な毒を持っている。
 噛まれると身体がマヒしてしまい、大群相手だと一度攻撃を受けるのが致命傷になりかねない。
 群れで襲ってくることが多く、意外と侮れない魔物だ。情愛芳香劑 RUSH

 仲間を倒された恨みとばかりに、ライトスネイクが二匹、ミリィを狙って飛びかかってくる。
 しかしその牙はミリィへは届かない。一本の回転する棒に阻まれ、弾き飛ばされた。
 べちんと樹に叩きつけられて消滅していくライトスネイク。

「……させません」
「シルシュっ!」

 シルシュが両手に持っているのは一本の長い棒。ひゅ、ひゅと回転させた棒を掌で受け、構える姿はまるで演舞のようである。

 ――――棒術か!
 打ってよし、突いてよし、払ってよし、かつ刃も付いていないので加減もしやすい。シルシュにぴったりな武器だな。
 風切り音を鳴らしながら棒を回転させ、両手で長い棒を遊ばせている。
 うむ、見事な腕前だ。
 更に草むらから飛びかかるライトスネイクを見据え、シルシュは棒を振るう。

「はあっ!」
「ギィィ!?」

 回転する棒に打ち据えられたライトスネイクは地面に落ち、きらきらと光と共に消滅していく。
 よし、これで全部倒してしまったようだな。

「――――ふう」
「やるね~シルっち、前も杖で戦ってたけど、あの時とは見違えたよ~」
「あはは……サルトビさんの教え方が上手いのですよ」
「棒術は血を見ず、ある程度離れて戦える為、戦闘により狂獣化する事も少ない。経験の浅い原種には丁度いい武器でゴザル」

 なるほど然り、理に適っている。
 原種に対する知識、経験、対策……そして本人も原種と言う事を考えると、もしかしてサルトビは、原種ばかりが住む場所の出身なのだろうか。
 原種の住む隠れ里のような場所が異国の地にあると聞く。

「それにしてもまだ街から大して離れていないのに、こんなに魔物が出てくるとはな」
「うむ、早めに封じねば街に被害が出る恐れもある」
「どこがダンジョンの中心か、目星はついているのか?」
「それがわかれば苦労はないでゴザルよ」

 ヤレヤレとばかりに首を振るサルトビ。
 しかしセルベリエにはなにか考えがあるのか、手をかざし使い魔であるクロを呼び寄せる。

「ダンジョンは時間と共に大地の魔力を吸い、成長する。魔力が大きくなっている場所がダンジョンの中心だから、そこを目指していけばいい。生まれたてのダンジョンであれば、魔力の大きなポイントは索敵しやすい。クロで十分に探れるだろう」

 セルベリエの手の上で鎌首をもたげ、舌をチロチロと出し入れしている使い魔のクロは、北の方を向いている。
 あちらがダンジョンの中心か。
 セルベリエの使い魔クロ、相変わらず便利な能力である。

ケーキ●
「ごちそうさまでしたーっ」

 食事が終わると子供たちは手を合わせ、食事への感謝の言葉を述べる。
 ワシらもそれに倣うように手を合わせた。
 シルシュの作る食事は相変わらず質素なもので、野草や市場から貰ってきたくず肉のシチューや固いパンである。
 以前リゥイは足りない腹を満たす為、市場で物乞いの真似事をやっていたが、この量では食べ盛りの子供は満足しないかもしれないなぁ。

 ワシも少し物足りず、空腹を感じている。
 後で市場に行って、何か買って食べよう……そんな事を考えているとレディアが袋の中からごそごそと何かを取り出した。
 ワシらが座る大きな机の上に置かれたものは厚紙の箱、それを開けると中からあらわれたのはホイップクリームで彩られたまるで城のような菓子、ケーキである。

「実はケーキ作ってきたんだけど、みんな食べる―?」
「わぁーっ! たべるたべるーっ」
「レディアおねーちゃん大好きーっ」
「あっはは~喜んでくれてうれしいよ~」

 わらわらとレディアに抱きついていく子供たち。
 もみくちゃにされているレディアはうれしそうだ。子供人気を得る為にケーキを作ってきたのか……やるな。
 そのすぐそばにシルシュが近づいていき、ぺこりと頭を下げた。紅蜘蛛

「ありがとうございます、レディアさん。子供たちも喜んでいます」
「いいよいいよ、私がやりたくてやったことだし♪ シルっちも食べる? 好きでしょこーいうの」
「えと……私は……」
「尻尾が動いているぞシルシュ」
「はっ!?」

 遠慮しようとするシルシュの尻尾はブンブンとすごくうれしそうに動いていた。
 感情が隠せないのはある意味、不便なものだな。
 クスクスと皆に笑われ、シルシュはその髪も頬も、真っ赤に染まった。
 原種であるシルシュは感情が大きく動くと、髪の毛と目が赤く染まってしまうのだ。

「ま、まぁ食べましょ! いっぱい作ってきたから、遠慮しないで食べてね~」
「わ~い!」

 レディアがケーキを切り分け、子供たちに渡していくとすぐにぺろりと平らげてしまう。
 そして満面の笑みを浮かべ、おかわりをしてくる子供たちの顔を見て頬が緩むレディア。
 うーむこれはワシの分はなさそうだな……そんな事を考えながら部屋の隅で椅子に腰かけていると、ミリィが両手を後ろに隠しながら近づいてくる。

「え、えとねゼフ。これ……はいっ!」

 ミリィが差し出してきたのは小皿に乗ったケーキである。

「いつの間に手に入れてきたのだ?」
「……実はこれ、私が作ったんだ」
「ほぅ」

 見ると確かに、レディアのケーキとは少し違う。
 ミリィが作ってきたケーキは片手で持てるくらいの小さなもので、その形もレディアのモノと比べると少々不格好だ。
 それでもクリームで模様が描いてあったり上面にはハートマークなどで可愛らしくデコレーションされており、手がかかっているのがわかる。
 まさに手作りと言った感じだ。その微笑ましさに、ついワシの口元が緩む。

「な、なによ……」
「いいや、可愛らしいなと思ってな」
「っ……ば、ばか……いいから早く食べなさいよ」

 真っ赤になって目を逸らすミリィは、ケーキを乗せた皿をワシに押し付けてくる。
 自分で作って恥ずかしがっていては世話がないな。
 苦笑しつつ、ケーキをフォークで切り分けて口に運んでいくのを、余程気になるのかミリィがちらちらと見てくる。

「ど、どう……?」
「うむ……」

 もぐもぐと口を動かし、その味を確かめるようにじっくりと舌の上で味わう。
 その様子をじーっと目を大きく見開いて見てくるミリィ。た、食べづらいぞ。
 口に入れたケーキは最初は少し甘く感じられたが、滑らかなクリームの舌触りを楽しむ為に舌の上で転がしている内に甘みを残して溶けていく。
 その後に残るのはあっさりとした食後感、もう一口が欲しくなる。

「うむ、美味いぞミリィ。腕を上げたな」
「ほんとっ!」

 三年前はクッキーくらいしか焼けなかったが、レディアに色々習ったのであろう。
 その腕前はかなり上がっているようである。
 よしよしと頭を撫でてやると、うれしそうな顔で笑う。

「ミリィも食べてみるか?」
「へっ?」

 すっとんきょうな声を出すミリィの口に、一口サイズに切ったケーキを取り、近づけていく。
 しかし何故か赤くなり、ワシから顔を逸らした。

「いやっ、私は遠慮しとく……」
「ん? 自分で作ったモノなのだ、毒など入っておらぬだろう?」
「し、知ってるわよ!」
「では何故だ?」

 ミリィはきょろきょろと辺りを見渡している。
 どうやら皆の注意は大きなケーキを切り分けているレディアに向けられており、それにホッとしたミリィはワシに顔を近づけて呟いた。

「だってみんなが見てる前でゼフに食べさせられたら恥ずかしいじゃない……」
「なんだそんな事か」
「そんな事かって……ひゃっ!?」

 小さな悲鳴を上げるミリィを目の前の大きな机の下へと押し込んでやる。
 見られるのが恥ずかしいなら、見えないようにすればいいだけだ。
 机の下で隠れて食べればいいだけの話。

「ち、ちょっと……ゼフ……」
「あまり大きな声を出すと、見つかってしまうぞ」

 丁度ワシの足の間に挟まるように、ミリィがしゃがみこんでいる。
 戸惑いながらワシを見上げてくるミリィ。SPANISCHE FLIEGE D5

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