ぼくたちのフォーメーションは、楔型だ。
たまきを先頭とし、少し後ろにぼく。
さらにぼくの周囲を四体のファイア・エレメンタルが囲む。
斬り込み役のたまきが、オークの群れに突撃する。田七人参
銀の剣を振るい、すれ違いざま、斬り捨てていく。
まるで時代劇の殺陣を見ているかのようだった。
剣術ランク6となっているたまきにとっては、すでにエリート・オークすらも敵ではない。
青銅色の肌のオークが、鎧袖一触、蹴散らされていく。
たまきは調子に乗って、さらに勢いよく斬り込む。
「さあ、どんどん来なさい! 片っ端からやっつけてあげるんだから!」
って、おいこら。
前に出過ぎだ。
こっちのフォローができないほど突出すると……。
オークの群れに阻まれて、たまきの姿が見えなくなった。
ああもう、ちくしょう。
これじゃあファイア・エレメンタルで背中を守ることすらできない。
そのファイア・エレメンタルたちは、手にした曲刀を振るってオークたちを倒し、地道に道を切り開く。
ファイア・エレメンタルに近寄るオークたちは、全身を包む炎によって焼かれ、悲鳴をあげる。
この炎、ぼくやたまきにとっては、まったく熱くない。
これはレジスト・エレメンツ:火をかける前からだ。
どういう仕組みになっているのか気になるところだが……。
ファイア・エレメンタルの炎は、仲間に影響を及ぼさないようなのだ。
MMORPGのフレンドリィ・ファイア設定のようなものかもしれない。
いまのところ自分たちにとって一方的に有利なのだから、まあどうでもいいか。
炎のむさ苦しい男たちに四方を囲まれ、ぼくは前進する。
そして、レベルアップ。
白い部屋へ。
※
白い部屋には、ぼくとたまきのふたりしかいなかった。
もしアリスが同じパーティのままなら、彼女もこの場にいるはずなのだが……。
予想通り、パーティを解除していたか。
まあ、いい。
これはきっと、シバにいわれたことだろうから。
それはさておき。
「こら、たまき。先に出過ぎだ」
「ごめんなさいっ」
たまきは両手を顔の前で合わせ、恥ずかしそうに笑う。
ああもう、反省しているんだか、していないんだか。
こいつはいつも、調子に乗るなあ。
「普段はそれでもいいんだけどな。きみの隣には、いつもアリスがいて、きみのフォローしてくれるんだから」
「うー、わかっているわ。わたしはいつも、アリスにフォローしてもらってるってこと。アリスには、誰よりも感謝してる。ひょっとしたらカズさんよりも、アリスのことを大切に思っているわ」
うん、そうかもなあ。
たまきの場合、アリスにお世話されてるって感じがすごいもんな。
アリスも、たまきの世話をするのが好きそうだし。
きっと彼女たちは、ふたりでひとつのような関係なのだろう。
ひょっとすると、ぼくの方が、彼女たちの間に割り込む異分子なのかもしれない。
まあ、別にそうだとしても、遠慮する気はさらさらないけど。
アリスを取り戻して、今度こそぼくのものにする。
そのうえで、もうひとつ。
たまきもぼくのものとして宣言する。
これは決定事項だ。
欲張りで、ひどくモラルに欠ける行為で、ふたりにはちょっと我慢させることになるかもしれない。威哥十鞭王
だけど、ぼくたちがぼくたちのままでいるためには、こうするしかないんだろう。
互いが互いに、とことんまで依存するべきなんだろう。
ぼくも、たまきも、弱い人間なのだから。
そう、今回のことで、つくづく思い知った。
ぼくはどこまでも弱い人間だ。
ひとりではなにもできない人間だ。
それが結果的にアリスのため、ぼくのため、さらにはたまきのためだというなら、ぼくはもう、迷わない。
だからといって……。
ぼくはたまきを睨む。
「アリスと合流する前にきみが倒れちゃ、本末転倒なんだからな。きみは強いけど、ぼくたちにはいま、回復役がいない。背中を守れるアリスもいない。ファイア・エレメンタルとの連携を崩すな。いいね」
「わかったわ、カズさん!」
元気よくうなずくたまき。
うん、元気だけはいいんだ、こいつ。
ぼくはため息をつき……。
スキルには手をつけず、エンターキーを押しこむ。
もとの場所へ戻る。
和久:レベル17 付与魔法5/召喚魔法5 スキルポイント4
※
白い部屋から戻ってほどなく、オークの海をかきわけ、というか邪魔するオークを切り伏せまくって、たまきが戻ってくる。
ふたたび隊列を組み直し、前進を再開する。
背の高いファイア・エレメンタルに、アリスの方角をそのつど教えてもらう。
ついでに、時々飛びあがってもらい、周囲の状況を確認させる。
アリスの位置は左手前方であるという。
そして、まずいことに右手前方からアリスの方角へ、黒い巨大な犬が迫っているという。
ヘルハウンドだ。
ぼくは焦る。
レジスト・エレメンツ:火がかかっていないいまのアリスが、ヘルハウンドのブレスを喰らってしまえば……。
「たまき、状況が変わった。一気に道をつくれ」
「あいあいさーっ!」
ぼくは再度、ディフレクション・スペル+ヘイストをかける。
全員の身体が赤く輝く。
ぼくたちは、一丸となってオークの海を漕ぎ進む。
たまきが突進し、できた穴をファイア・エレメンタルが押し広げる。
ぼくも、少々強引に突破を図る。
後ろの方に一体、ファイア・エレメンタルを配置し、背中の安全だけは確保する。
途中で一度、たまきがレベルアップする。
スキルポイントは貯めておいてもらう。
彼女には、最速で剣術のランクを7にしてもらいたい。
ランク7になれば、ジェネラルとも互角に渡り合えるだろうからだ。
すぐ、白い部屋を出る。
たまき:レベル14 剣術6/肉体1 スキルポイント6
レベル14になってからも、たまきはオークを斬り伏せ続ける。
さしものオークたちも、あまりの損害の多さに足並みを崩す。
一部が恐慌状態になって逃げ始める。
ぼくたちが側面から突入したのも効果的だった。
敵軍は期せずして二方向から挟まれる形となったからだ。
そして、待ちかねたものが来る。老虎油
第一男子寮の屋上から、派手に花火があがったのだ。
コンビニで買えるロケット花火だった。
だがそれは、異世界の双月の空を裂き、派手な爆発と共にカラフルな火花を散らした。
花火の真下に、ひとりの男がいた。
忍者装束に身を包んだ男が、妙なポーズをつけている。
棒きれのような、バトンのようなものを高々と振り上げている。
きっと、ミアの腕だ。
よし、ありがとう、結城先輩!
でもそのスパイダーマンのポーズはどうかと思います。
これで、あとは……。
花火を新手の魔法とでも思ったか、いっそう慌てるオークたち。
異形のモンスターが逃げまどう。
そして一瞬、ぼくたちとオークの群れの間に隙間ができる。
アリスの姿が見えた。
アリスは、接近してくるぼくたちを見つけ、驚いた顔になる。
ぼくは、彼女をまっすぐに見て、腹の底から叫ぶ。
「アリス、戻ってこい!」
いてもたってもいられず、アリスに向かって駆けだす。
「あ、ちょっと、カズさん!」
たまきの慌てた声。
知るか。
さっきたまきの軽挙妄動を怒ってたぼくだけど、実際にアリスの姿を見たとたん、足が動いてしまう。
フィジカル・アップとヘイストのちからを使って、オークの群れの間を一気に駆け抜ける。
オークも、突然の乱入者に対して身動きが取れなかったようだ。
アリスに対するオーク包囲網の内側に飛び込む。
そして、気づく。
オークの群れを割って、ヘルハウンドが飛び込んできていることに。
ヘルハウンドの喉もとにある袋が、風船のように膨らむ。
ブレスの兆候だ。
まずい、来る。
「アリス!」
ぼくはアリスに覆いかぶさる。
直後、紅蓮の炎がぼくの視界を包み込む。
灼熱の業火に背中をさらし、ぼくは苦悶の声をあげる。
だけど、そんななか、同時に。
ぼくの腕のなかで縮こまるアリスを見下ろして。
ぼくは、微笑む。
「か、カズ……さんっ」
「ミアの腕は、取り返した。戻ってこい」
「で、でも、わたし……っ」
「ぼくがきみに戻ってきて欲しいんだ、戻ってこい!」
「は、はいっ!」
ブレスが終わる。
振り向けば、こちらに向かって突進してくるヘルハウンドの姿がある。
巨犬が地面を蹴って跳躍し……。
ぼくは、アリスに接触したまま念じる。
パーティを組む、と。
抵抗は、なかった。
「はい」
アリスの、静かな声。
ぼくはよし、とうなずく。
ほぼ同時に、オークの群れから飛び出したたまきが、宙を高く舞う。
空中で、ヘルハウンドと交錯する。
銀の剣が、ヘルハウンドの胴を薙ぎ払う。麻黄
「アリスを、カズさんを、傷つけるなっ」
全長三メートルもの巨体を誇るヘルハウンドが、たまきの一撃で吹き飛ばされ、地面を転がる。
そうとうな深手を負ったのか、よろめきながら立ち上がろうとするが……。
たまきが着地と同時に追撃する。
立ち上がろうとするヘルハウンドの首めがけて、剣を一閃。
銀の軌跡が魔犬の首を刎ねる。
すごいな、あの銀の剣。
ヘイストがまだ効いているとはいえ、たいした威力だ。
いや、もちろんたまきの技量もすさまじいんだけど。
そして……。
レベルアップの音が、ぼくの耳もとで響き渡る。
どうやら、ぼくはレベル18になったようだ。
※
白い部屋。
そこにいるのは、ぼくを含めて三人。
ぼく、たまき、そしてアリス。
アリスが、不安そうな顔でぼくたちを見る。
まずたまきが駆けだし、ぎゅっとアリスを抱きしめる。
「アリス! バカっ、心配したわ!」
「た、たまきちゃん……ごめんなさい、わたし」
アリスに頬をすりつけるたまき。
そんな彼女の様子に、苦笑いするアリス。
ああもう、すっかりアリスは、たまきのお母さんだなあ。
ぼくはアリスに声をかけ、ゆっくりと歩み寄る。
アリスがぼくを見て、わずかにひるむ。
「おかえり」
「あ、あの。……カズさん、どうして、ここに」
「いろいろあったんだ。だけど、いまは、きみがここにいる。それだけで、いい」
アリスは少し戸惑ったあと、ぼくをまっすぐに見つめてくる。
「なにが、あったんですか。わたしが……いない間に」
「アリス。ぼくはね、きみがシバと会うところを見てしまった。リパルション・スフィアのなかでね」
その言葉だけで、アリスは状況を理解したようだ。
さっと顔色を青ざめさせる。
「違うんです。そ、それは誤解で、わっ、わたし、シバ従兄さんがミアちゃんの左腕を……」
シバ従兄さん、か。
ぼくは胸の痛みを覚える。
それを表情には出さないよう、必死で平静な様子を保つ。
「知ってる。あのときは、知らなかった。いまは全部、知っている。きみがシバの従妹だってことも」
アリスはうつむいた。
桜色の唇を、きつく噛む。
「ごめんなさい。わたしが昨日、シバ従兄さんのことをきちんと説明していれば……。シバ従兄さんは、いったんです。わたしが従兄さんについていけば、ミアちゃんの腕を返すって。ジェネラルを倒すまでの間だけ、手伝ってくれればいいって……」
なるほど、そういう条件か。超強黒倍王
だけど、あいつがそんな約束を守るわけ……。
いや、守るか。
ぼくは気づく。
シバのやつは、外道で非道なやつだけど、約束は破らない。
そこがヤツのなにより狡猾なところだ。
ヤツの味方になった者は、彼の言葉を信用できる。
次第に、ヤツのいいなりになっていく。
麻薬のようなものだ。
シバの言葉を受け入れた者は、シバ依存症になっていく。
アリスも、その罠に囚われかかっていた。
だけどその罠は、食い破られた。
ぼくが食い破った。
「それはいい。いまはいい。うん、以前に起こったことは、もう全部うっちゃっていい」
ぼくはアリスの頬に手をあてる。
アリスが顔をあげる。
涙にうるんだ瞳でぼくを見つめる。
ぼくはアリスに口づけする。
たまきのすぐそばで、アリスと舌を絡めるキスをする。
顔を放す。
アリスは、喘ぐように空気を求める。
頬を朱に染めて、ぼくを見る。
「カズさん、わたし」
「きみは、ぼくのものだ。これからも、ずっとだ」
「はい」
そのうえで、とちらりとたまきを見る。
不安そうにぼくを見返す金髪の少女の頭をぐしぐしと乱暴に撫でる。
きょとんとしてぼくたちの様子を見るアリス。
いまのうちに、説明しなきゃいけない。
いま話さなきゃ、きっといつまでも隠しとおす羽目になる。
だからぼくは、少しいい辛いことを、正直に全部語る。
自棄になって夜の森をさまよったこと。
オークたちを片端から殺したこと。
ぼくを、たまきがひとり、追いかけてきてくれたこと。
そんなたまきに、ぼくは命を救われたこと。
そのときに起きたこと、すべて。
そして、そのあとの話し合いのこと、すべて。
「それも、全部、わたしのせい、ですね」
「ぼくの心が弱かったせいでもあるよ」
「でも、よかったです。わたしは……少し、嬉しいです。それで、あの……」
ぼくは、アリスとたまきを両方一緒に抱きしめる。
ちから強く、抱きしめる。
これでもかと、強く強く、ふたりの体温と臭いを感じる。
「ぼくは、ふたりがいないと、ダメみたいだ。頼む。ふたりともぼくを愛してくれ」
いった。
ひどいことをいった。
鬼畜外道なことをいった。
でもたぶん、これがいま、ぼくたちにとって必要なことだった。
みんなで一緒じゃないと、ぼくたちはこの先、きっと生き残れない。
今日一日で、何度もギリギリの戦いをくぐりぬけた。
そのすべてに紙一重で勝利できたのは、ぼくたちが互いの絆を信じていたからだ。
ぼくはその絆を強めるために、あらゆる手を使う。
もちろんそれは、ぼくの弱い心をカバーするためでもある。
正直、アリスとシバの密会を見てしまったときのぼくは、最悪の状態だった。
自分がここまで脆いとは思わなかった。
少し冷静に考えることができれば、いくらでも解釈のしようはあったはずだ。
でも、それができなかった。
ぼくは、ぼく自身の脆弱な部分を受け入れて、対策を講じなきゃいけない。
そのためには、アリスとたまきのふたりが必要だった。
ひとりでは、ダメなのだ。
そう理解してしまえば、あとはふたりの気持ちだけだった。
はたして、ふたりの少女は。
一度、互いの顔を見たあと、ぼくに向き直り……。
揃って、うなずく。
「わたしたちは、カズさんのものです」
アリスがいう。
「わたしたち、ふたり一緒に、あなたにあげるわ」
たまきがいう。
「わたしたちの弱いところ、カズさんの弱いところ、少しずつ埋め合わせなきゃいけないのね」
「ああ、そうだ。ぼくは弱い。弱すぎる。だけどその弱さを放置するわけにはいかない」
「わたしたちが、支えます。カズさんのこと、ずっと、支えてみせます」
ぼくはふたりに、順番にキスをした。
それからもう一度、強く抱擁する。ペニス増大耐久カプセル
ぼくたちは白い部屋で、長いこと抱き合った。
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