隠れ家に戻るといつも通りマオちゃんが飛びついてきた。もう外にでても大丈夫だから外に食事にでも行こうと誘うとみんな大はしゃぎで喜んだ。ずっとこんな所に閉じこめられていたから、やはり退屈だったのだろう。SPANISCHE
FLIEGE
街へ出ると食べられる場所を探す。よく考えたらこの街へ来てから焼き鳥しか食べてない気がする。そのまま街をみんなでブラブラとしていると繁盛しているらしき料理店を見つけた。昼時のせいか店員がせわしなく動いている。普段1人なら絶対入らないであろうが、マオちゃんがお腹すいたといってズボンを引っ張ってくるのでそのお店に入ることにした。ちなみに普段1人では絶対入らないというのは、俺は混んでいる店が嫌いだからだ。注文して5分以内にでてくるとか、客が殆どいないとかじゃないと、基本的にその店に入らない。待たされるのが何より嫌いなのだ。食事する店でゆっくりするということはまずしない。すぐ食べてすぐに出るという、お店からしたら時間単位の客単価を上げる上客だろう。
店に入ると1つだけ開いていたテーブルに座る。マオちゃん達に聞くと全員食べたい物が肉と言う。獣人は肉好きらしい。俺はお店のお勧めを聞いてそれを頼んだ。出てきたのは肉と太いパスタを短く切ったようなものが混ざった料理だった。そして一緒に出てきた食器に驚いた。
「これ……先割れスプーンじゃないか!?」
給食での食器の伝統、先割れスプーン。スプーンの先端がいくつかに別れてフォークの役割も果たすという、俺的食器業界の最先端アイテムだ。たしか王都にはフォークとか無かったし、おっちゃんも知らなかったからこういうのはないものだと思ってた。店の人に聞くとフォークも一応あるらしいが、王都にはまだあまり入っていないそうだ。ハンターは普段スプーンくらいしか使わないので、食器で食べるのはスープくらいで、後は手やナイフで食べるからそういう文化があまり浸透していないようだ。お店でナイフを出すのは切り分けるためくらいでそれで直接刺して食べるなんて一般人には無理だろうとのことで、代わりにだしたのがあのアイスピックのようなものだったらしい。まぁフォークがあったとしてもハンターが狩りの現場にわざわざフォークを持って行ってそれで食べるなんてマネはしないだろう。ハンターの多い国というだけのことはある。ちなみにフォークとかの食器類は隣国のヴァストークから輸入しているらしい。
ちなみにマオちゃん達は全員ラビのステーキを頼んだ。出てきたステーキに対していきなりマオちゃんは素手で肉をつかもうと肉を触り、「熱いにゃー」と叫んでいた。犬耳姉に聞いた所、亜人も基本はスープ以外は素手での食事らしく、ナイフとフォークのようなものを使う文化はないそうだ。俺はマオちゃんを膝の上に乗せ、手にナイフとフォークを持たせて切り方を教える。切った肉をそのままマオちゃんの口に放り込むと、とても美味しそうに食べている。犬耳姉妹もそれをお手本にして、ぎこちないが肉を切り分けて食べている。なんとかぎこちないながらもマオちゃんも一人で食べられるようになったので、俺はマオちゃんを椅子に降ろして自分の席に戻って食事を再開した。
食事を終え店を後にすると、その足で食料の買い出しに行く。支部長との約束の夕方まで時間があるのでのんびりと買い物をすることにした。しかし、お腹が膨ふくれたせいかマオちゃんと犬耳妹が眠そうにしていたので、適当に食材を買ってそのまま隠れ家へと戻ることにした。
マオちゃんを左に、犬耳妹を右に抱き抱えて歩く。途中寝ぼけたのかマオちゃんが首筋に噛み付いてきた。甘噛みではなく結構本気で噛み付いてきていたので、くっきりと歯形が付いてしまった。犬耳姉になんとか離して貰ったが、かなり痛かった。そう言えば昔、家で飼ってた猫も寝てるときに寝ぼけてよく噛み付いて来てたなぁ。噛み付いたまま足でゲシゲシ蹴って来るのはなんでだろう。アレは幼少期の行動をそのまま体が覚えてるって事なのかな? そんなことを考えつつ俺達は隠れ家へと戻った。もっとも隠れ家に隠れている意味もあまりないんだが、宿を使うと無駄に金を使ってしまうので、そのままここを使うことにした。後でサピールに聞いておくことにしよう。まぁダメとは言わせないけど。
隠れ家に着くとマオちゃんと犬耳妹をそのまま奥の部屋に行って寝かした。抱えたまま階段を上がるのは非常に大変だったが2人ともぐっすり寝てしまっている。
2人を寝かしているとサピールが帰ってきた。なんでも伯爵が魔物に襲われたらしい。そのせいで情報ギルドは情報収集に躍起になっていて、忙しくて洒落にならないんだそうだ。伯爵はどうなったのか聞くと、どうやら教会に連れて行かれ、回復魔法での治療を受けているそうだ。屋敷に連絡が行っても誰もいなかったために、そのようなことになったらしい。伯爵は近いうちに死ぬよとだけ言っておいた。サピールは諦めたような顔で「やっぱりお前だったか……」とぼやいていた。
「元凶の本人に話を聞いてるのに、何の情報も公開できないなんて俺は情報屋として――」
と、サピールは苦悶の表情で悩んでいた。現在までに分かっている情報を詳しく話を聞くと、伯爵の屋敷はすでにハンターギルドが調査を行っており、生存者は無しとのこと。屋敷は酷い有様で、上半身と下半身が別れた者、骨と皮だけになった者、衣服しか残されていない者等、人の形を保っている遺体は、地下にあった首を折られた遺体2人分だけだったそうだ。
屋敷は血と臓物が飛び散る惨状で、中には現場を見て吐いてしまう者も居たそうだ。建物の中も同じで、屋敷中が恐らく兵士の血であろうものによって真っ黒に染まっていたとの話だ。しかし、これだけの虐殺にもかかわらず特に金目の物が盗まれていることもないため、恐らく伯爵に恨みのある者達、多数による犯行ではないかというのが、当初のハンターギルドでの説だったそうだ。
しかし、情報ギルドでの現場周辺の聞き込みにより、当日屋敷の上空を魔物が飛んでいたという目撃情報や、奇妙な鳴き声を聞いたとの情報があがっており、現場のおおよそ人の手では不可能な程荒れた惨状は、魔物に襲われたものである可能性が高いと判断されている。その結果様々な憶測が飛び交い、事件についての真相は今も謎に包まれているそうだ。
そしてそれは伯爵本人についても同様である。事件当日の朝、ギルドで多数の目撃者が見守る中その姿を消し、そのまま消息が絶たれた後、翌日昼に何故か街中の大通りで裸で発見され、しかも魔物に襲われるという怪事件。当の伯爵本人は生きては居るが、虚ろな瞳で涎を垂らしたまま何も喋ることができない状態で、全く話を聞くことができなかったらしい。伯爵を襲った魔物は伯爵を襲った後、街の住人達が見守る中その姿を煙のように消してしまったため、詳細が全く分からない。目撃者の話では巨大な蜂のような姿だったとの情報があるが、解っているのはそれだけらしい。
サピールはその後、街で聞き込みを続けると伯爵家の使用人という人を見つけた。話を聞くと、事件のあった当日、伯爵本人の指示で全ての妾と使用人は屋敷から追い出されたということらしい。他の使用人や妾にも話を聞くために、現在この街にいる情報ギルドの人員全てを駆使して調査中なんだとか。じゃあお前はなにしてんだと聞くと
「事件の張本人に聞くよりたしかな情報があるわけないだろ」
とのこと。なるほど、もっともな話だ。じゃあなんで聞き込みをしてるんだと聞くと、
「一応、現在の街での情報はギルドに報告するのに必要だし、なによりお前が知りたがってると思ってな」
なかなか気が利いているやつだ。
「この事件は謎が多すぎて間違いなく迷宮入りだよ」
サピールはあきらめたような表情でそう呟いた。何せ真実を聞いている本人ですら、その現実を受け入れることができないのだから。こんなこと例え公表したところで誰が信じるのだと。間違いなく言った自分の頭がおかしくなったと思われて終わる。信頼がなくなる所の話ではない。
まず伯爵自身が直接、使用人達を屋敷から遠ざけていること、襲われた事は確実であるのに、その襲った側の遺体などの情報が何一つないこと、伯爵が突然昼間に裸で街に現れたこと、街中で突然魔物に襲われていること、現状どれ一つ解ることがない。蒼蝿水(FLY
D5原液)
今回の事件はあまりに謎だらけのため、町中に様々な噂が広まっているそうだ。この事件は後にイリスィオスの惨劇といわれ、後世にまで伝えられることとなる。
夕方になりギルドへと向かった。ギルドで支部長から話を聞き、紹介された場所へと向かう。そこは鍛冶場とでも呼ぶような場所で、奥の方から金属を叩くような音がひっきりなしに聞こえてきている。
「こんなとこに何か用か?」
中を覗いていると男の声が聞こえた。辺りを探してみるが姿が見あたらない。
「ここだここ、下だ」
そう言われて下を見ると背のやたら低いおっさんがいた。これは所謂いわゆるドワーフとかホビットとかいうやつなのか? この世界ならなんでも有りだろうと思い、気にしないことにする。
「すみません、ハンターギルドの支部長に紹介されて、馬車を見に来たんですが」
「おお、お前があいつの言ってた期待の新人か」
そういってじっと俺を見つめてくるちびおじさん。男に見つめられて喜ぶ趣味はないので目をそらす。
「なるほど、ただもんじゃねえな」
いえ、ただのサラリーマンです。何を持ってただ者じゃないのか問いつめたいが、面倒くさいので何も言わないでおいた。
「こっちだ、ついてこい」
言われるがままにちびおじさんに付いていく。建物の一番奥へと連れて行かれるとそこにはよく分からない金属のような四角い塊が鎮座していた。
「こいつは魔鉱石を使った馬車の中心部分だ。見た目より非常に軽くて丈夫なんだ」
おっさんはそう言いながらポンポンと塊を叩く。どこをどうみても金属塊で馬車には見えない。
「ここは両側がドアになっててな」
そういって四角い塊を開ける。開いたドアはスライドして馬車の外側に収納された。反対側も同じようだ。
「襲われたときにさっきみたいに扉を閉めることで、馬車の中にいるやつは安全ってわけだ」
なるほど。護衛する側も護衛対象に気を取られなくて済むし、流れ矢なんかに当たる可能性がなくなるわけか。
「でもこれじゃ馬車動けなくならないですか?」
護衛対象が逃げないと相手を殲滅するまでその場を動けなくなる。これは逆にまずいのでは?
「御者側の扉には隙間があるんだ。そこから手綱を中にいれて動かせる。まぁこの辺は使ってみて貰わないとなんともいえんな。理論上は問題ないはずなんだが」
扉の中をみると鍵は扉の上端と下端に2つ付いている。隙間から手を入れられても鍵は外からは開けられないということか。問題はこの隙間からうまく馬車を動かせるかどうか。隙間は手綱用と恐らく視界用の2つがある。視界用はかなり狭くて周りをみることなんてできないので、これはかなり馬任せになりそうだ。
「締め切っちゃうと中はかなり暑くないですかね?」
「あくまで一時的なものだからな。長時間締め切って過ごすことは考えてない」
そりゃそうか。荷馬車に快適さを求めてもしょうがないか。しかし
「中の温度を調節できるようになれば、商人が生物を鮮度を保って運べるから大人気になるんじゃないですかね」
そういうとちびおじさんは目を見開いてこちらを見てきた。
「たしかにそうだな……しかし、どうやってそれを実現するか……」
「床の部分を厚くして温度を下げたりするような魔道具を隙間にいれられないんですか?」
「温度調節用の魔道具か……氷を作ったりするようなのはあるんだが、調節用ってのは聞いたことがないな」
「それでいいんじゃないですか?」
「どういうことだ?」
「こぼれないように密封した水を床下に敷き詰めてその下に凍らせるような魔道具をしいて、常時凍らせ続けるようにしたら、結構違うんじゃないですかね」
「そうか! しかし、重量的にいけるかどうか……その辺は試してみないことには何とも言えないか。早速やってみよう!」
「って、ちょっとまった!! それ作るのにどれくらい掛かります?」
「魔道具集めからだから最低一ヶ月はかかるな」
「それはまた次回作ってことで。今回はこれをテストしますからそっちは別で作って下さい」
さすがにそんなに待ってられない。伯爵の最後を見届けたらすぐにでも出発するつもりだ。
「そうか、残念だ。まぁいい、とりあえずこいつを使って貰うとしよう。しばらく使ってみて問題点があったら言ってくれ」Motivat
「わかりました。いつ出来ます?」
「後はちょっと調整して車輪つけるだけだから明後日にはできるぞ」
「では、明後日またきます」
「あー、馬は付いてないから馬は2頭そっちで用意しといてくれよ」
「わかりました。明日にでも探しておきます」
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺は鍛冶ギルドのギルド長をしてるフェヘイロだ」
「銅1のハンター、キッドです」
「銅1? 銅7だって聞いてたが」
銅7だって? 俺はハンターカードを見てみた。するとそこには7と書かれていた。
「なぜ!?」
依頼5回も受けてないのに7とか意味がわかんねえ。受付嬢も何にも言ってなかったし……。疑わしいのは支部長か。まぁ金ランクとかじゃないし目立たないだろうから別にいいか。ランクなんてどうせただの飾りだしな。しかし、馬はどうしよう……。帰ったらサピールにでも聞いて見るか。
その後、隠れ家に戻るといつも通りマオちゃんが飛びついてきた。どうやら起きたようだ。みんなまだ夕食を食べてないらしいので、そのまま夕食にした。夕食を取っているとサピールが帰ってきたので馬について話す。
「明日、馬屋に連れて行ってやるよ」
どうやら馬専門店があるようだ。選び方なんかもよく分からないのでサピールに任せよう。ちなみに伯爵についてはなんの進展も無いそうだ。ただ、王都から調査班がこちらに向かっているとのこと。あの屋敷の遺体はどうするんだろう。到着まってたら腐るし、片付けちゃうのかな。現場の惨状がわからなくなると思うけど。
「サピールって元々伯爵調べてたんじゃなかったっけ?」
「ああ」
「伯爵あんなことになってるけどどうすんの?」
「今回の事件については、報告するにも謎としか言えないが、屋敷を調べた所、奴隷の購入についての書類が見つかってるから、一応それを依頼人には渡しておくさ」
「購入相手はだれになってる?」
「たしか、ラトロー奴隷商会だったな。パトリアで一番大手の奴隷商会だ」
どうやら結構大きな組織のようだ。まぁ国が公然とやってる産業なんだから当然か。
「パトリアは奴隷が多いらしいけど人間の奴隷もいるのか?」
「人間はまず見かけないな。違法のやつはわからんが、大抵亜人ばかりだ」
「ん――――パトリア潰すか」
「おい、今なんかやばいこと言わなかったか?」
「気のせいだ」
別に奴隷がどうこうとは言わない。犯罪者の抑制のためとか、借金の形にとか、奴隷という仕組みが社会に必要というなら特に問題とは思わない。犯罪奴隷以外に最低限の人権なんて物があればだが。だが、普通に生活してる者を誘拐して無理矢理奴隷というのは納得ができない。それならば亜人だけでなく、人間も同じようにいきなり誘拐されて奴隷にされるリスクを持っているべきだ。それがなく、人間だけ国が保護するなんてのは迫害以外の何物でもない。まぁ地球人もよくやってきたことだけどな。今現在も進行形でやってる国もあるが。
とりあえずパトリアの王族とか有力貴族、奴隷商人を全部奴隷にしてみようかな。そうすれば亜人の気持ちが分かるだろうか。まぁパトリアでの亜人の立場や生活なんかを知らないからなんともいえないが、今のところ俺は亜人の味方だ。理由としてはこの子達がかわいいからで十分だろう。別に俺は正義の味方でも無ければ人間の味方って訳でもないしな。そんなことを考えつつ眠りについた。
翌朝、みんなが起きる前に隠れ家の外に出る。路地に行き、辺りに人がいないことを確認してカードを引く。
No034UC:流星砲撃 上空に魔力の塊を作り出し攻撃する。術者の魔力量により作成される塊の数は変動する。
No050UC:魔銃作成 専用の魔弾を発射する銃を作り出す。銃は術者以外撃つことはできない。専用の魔弾をセットしなければならない。合計30発撃つと銃は消滅する。
No095C:万死一生 対象は死亡する攻撃を食らった場合に1度だけそれを防ぐことが出来る。但し毒等の継続されるダメージには効果無し。
No158C:裁之審判 対象か術者の生命力が半減される。確率は7:3 生命量は0にはならない。
No216C:自動光弾 術者の周りに光球を4つ作り出す。防衛と攻撃の2つのモードを自由に変更できる。デフォルトは防衛。北冬虫夏草
No261C:木偶部隊 謎の金属で出来た人形100体の部隊を召喚する。人形はそれぞれランダムの弱点を持つ。人形は術者の命令しか受け付けない。人形の個々の戦闘能力もランダム。
なんか色々とやばそうなのがてんこ盛りだ!? 34はなんだろう、メテオっぽいの連発なのかな? 大規模殲滅用という感じか。まぁあまり使う機会なんか無さそうだ。軍隊とか魔物の群れとかでも相手にしないかぎりは……。
50は銃を作るのか。どんな銃かはわからないけど、30発で壊れるって使い捨てにも程があるだろ! しかも専用弾しか撃てないってかなり使い勝手が悪そうだ。しかもその弾も引かないといけないのがきつい。これも弾を引くまでは使えないからしまっておこう。
95は継続するかどうかが問題だ。使ったら死亡攻撃を食らうまで効果が永続するんなら、保険として使っておけばかなり安心だ。確かめたくはないが。
158はギャンブルすぎるので自分が死にかけの時だけ使おう。運次第じゃ結構えげつないよなこれ。
216はよくわからないな。魔法の弾で攻撃と防衛ができるってことか? これも効果時間と強さを確認してみないことには何とも言えないなぁ。
261は……なんか軍隊っぽいものが呼べるのか? 謎の金属って…… 弱点も強さもランダムだとかなり使い勝手が悪そうだ。まぁ弱くても囮くらいには使えるだろう。強さが一体どれくらいなのかわからないが。効果時間とかもわからないし、なんか使ってみないとわからないカードが多いな。
その後、隠れ家に戻り、起きてきたみんなといっしょに朝食を取る。朝食後はみんなで馬を買いに馬屋とやらに向かった。伯爵の屋敷とは反対方向に進んだ街の外れに大きな牧場らしきものがあった。若干大きさや形なんかは違うが、鶏らしき生き物がいる。これが噂のガルニャとかいう鳥だろうか。サピールは牧場に隣接して建っている建物に入っていく。俺達はその後をついて建物に入っていった。
中にはいると、小さな受付が一つあり、そこに受付嬢が1人いた。茶色い髪をのばし、左右でおさげを結っている田舎っぽい娘だ。顔は至って普通。この世界では普通だが、基本の基準が高すぎるだけで、地球でいえば美人のほうに該当されるだろう。まぁ人の顔なんて不変的な価値基準のない流動的なものだから、判断する人によって価値なんて変わってしまうが。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」
特に田舎っぽい訛なまりがあるわけでもなく、流暢りゅうちょうな言葉で話しかけてきた。まぁそんなように翻訳されているだけで実際は訛っているのかもしれないけど。
「明日までに馬を2頭買いたい」
サピールがそう言うと、少々お待ち下さいと受付嬢は奥へと下がった。代わりに登場したのは帽子を被った厳ついおっさんだった。
「どんなやつがいい?」
開口一番そう尋ねてきた。ゴマすりも世辞も何もなくいきなり要点から切り出す辺り、俺的にはかなり好感が持てる人だ。
「馬車用だ。長旅なんで丈夫なやつがいいな」
「そうか、それならスレイプニルがいいだろ。多少、気は荒いが力もあって体も丈夫だ」
「見せてくれるか?」
「ちょっとまってろ」
そう言っておっさんは外にでて、馬に乗ってどこかへ行ってしまった。
しばらく待っているとおっさんが戻ってきた。何やら巨大な黒い馬のようなものを2頭連れて……。
「こいつらが家で一番いいやつだ」
かなりでかい。普通の馬の1.5倍はあるであろう、その黒く輝く巨体は普段、世紀末覇者が乗っていそうな雰囲気だ。しかも足が6本ある。走るのに邪魔にならないのかなあれ。
「かなり気性が荒いから注意しろよ」
おっさんがそう言って忠告するが、時すでに遅くサピールが近寄って噛み付かれそうになっていた。
「うおお!? 気が荒いにも程があるだろが!!」
サピールはそう叫びながら尻餅をついて後ずさっていく。後ろで見ていたマオちゃん達も怯えて俺の後ろに隠れてしまった。
「やっぱり無理か。いい馬なんだけど、何分気が難しくてなかなか売れないんだ」
そういっておっさんは残念そうな顔をする。2頭ともこちらをにらみ付けてきている。喧嘩売ってるのか? よし、買ってやろう。人間様なめんなよ! 俺はそのまま馬達に近づいていく。
「おい、兄ちゃんあぶねえぞ!」
おっさんの忠告も無視してそのまま馬に触れられる場所まで歩いていく。馬達はいきり立って襲ってきた。左右から噛み付こうとしてきたがそのまま俺は微動だにしなかった。攻撃を加えてきたら殴る。その覚悟を決めていたが、馬達は噛み付く直前になって止まってしまった。
「どうした? やらんのか?」
俺がそう呟くと馬達は後ずさり頭を下げた。まるで死刑執行を待つかの様に。2頭の頭に触れて撫でると2頭とも気持ちよさそうにしている。levitra
「こりゃ驚いた。お前さん何者だ? こいつらが俺以外に従ったのは初めてだ」
そんな馬連れてくんなと問い詰めたかったがなんとか堪えた。
「ふう、無事で良かった」
サピールが安堵のため息をつく。
「俺が馬にやられるかよ」
「お前じゃねえよ。馬のほうだよ」
なん……だと……
「お前が馬に向かっていく時、まるで空気が氷みたいに固まっちまった見たいな、とんでもない重圧を感じたからな。素人の俺でさえ声がでなくなるくらいだから、動物なら機敏に察知しただろう。どう見てもお前、馬を殺しに行くようにしか見えなかったぞ」
酷い言いぐさだ。動物好きな俺が殺すわけないじゃないか! まぁ殴る気ではあったが。人をなめている動物は殴って解らせたほうが手っ取り早くていいんじゃないかと思っただけだ。最近では学校で教師が生徒を叩けないとかよく聞くが、小さい子供なんて動物と一緒だから叩いて解らせないといけないこともあると思うんだ。少なくとも俺が子供の頃はめっちゃくちゃ殴られた。頭の形が変わるんじゃないかってほどに。いたずらしたり忘れ物をしたりするたびに拳骨落とされてた。少なくともそれを暴力だと思ったことはないし、今では悪いことをして怒って貰えるのはありがたいことだと思っている。
間違えたことをしても、叩かれるというリスクが子供にない場合、全く反省しない可能性がある。何をしても謝る振りをすればいいだけだから。子供の場合は精神的、社会的なリスクについてはなかなか想像できないため、まず最初に肉体的なリスクを考えるようになる。こういう事をすると叩かれる、という痛みにおいて悪いことを体で覚えさせるわけだ。それができないと悪いことをしても、特に何のリスクもないから、ただ説教されるだけなら別に続けてもいいやと考え始める子供が出てきてしまう。親を呼ばれてもその親が子供を叱るどころか教師を攻撃しかしてこないんじゃ話にならない。最近は自由と自分勝手を間違えているやつが多すぎる。中学生以上になれば、停学や退学なんて考えもでてくるから少しは社会的なリスクについても考えるようになると思うんだが、小学生はそこまで考えられないからな。暴力はいかんが愛の鞭は必要だろう。線引きが非常に難しい所だが……
おっと、また思考がそれてしまった。本来馬はとても臆病な生き物のはずだが、どうみてもアレは馬というよりモンスターだからな。あれ本当に草食なのか? 普通に小動物とか食ってそうなんだが……。ひょっとして地球でいう馬とは違うのかもしれないな。とりあえずこの手の凶暴な動物は、自分より上という存在を解らせておくのが一番だ。噛まれる前に馬の顎を殴る自信があったのでためしてみたが、幸い噛まれずに済んだようだ。
後ろの3人を見るとマオちゃんだけは平気そうにしているが、後ろの犬耳姉妹は若干怯えたような表情をしている。まぁしょうがないか。しかし、何にもしてないのに怯えるとか、全く戦いの素人の俺が殺気の類を出しているとでもいうのだろうか。わからん。この世界に来てから思考もちょっと変わってきている気がする。しかし、気がするだけで自分ではこれが本来の自分と思っているため、なんとなく違和感を感じるくらいで確証はないが。
とりあえず、馬2頭は明日取りに来ることにして馬屋を後にした。かなり割引して貰ったにも関わらず値段は金貨12枚とかトンでもなく高かった。ちなみに以前貴族が来たときには一頭金貨30枚で買い取る話が来ていたそうだ。しかし、全く懐くことがなかったために、その貴族は断念したそうだ。それに比べれば1頭金貨6枚は破格と言えるだろう。その値段が正しいのかどうか判断する術はないんだけどね。
その後、サピールは仕事があるということで別れ、俺達は昼食をとりにまた先日の食堂へと足を運んだ。相変わらずみんな肉料理を頼んでいた。しかし日本人としては米が恋しくなってきた。まぁコンビニをまた引けば食べられるからいいか。そんなことを考えつつ食事を終え、ブラブラとみんなで散歩しながら隠れ家へと戻った。本当は日帰りできるような依頼を受けたかったが、見知らぬ土地にさらわれたこの娘達を放っておく訳にもいかないので、依頼はこの娘達を家に送り届けてから受けることにした。別に金に困ってないし、ランクにこだわりがあるわけでもないし問題ないだろう。
夕方になり、犬耳姉とリバーシをしているとサピールが隠れ家に帰ってきた。ちなみにマオちゃん達はお昼寝中だ。その後、起きてきたマオちゃん達と一緒に夕食をとり、今後について話をする。サピールは2,3日中に依頼の報告に王都へ戻るそうだ。俺達はどうするかな。明日馬車ができたら試運転がてらみんなを連れて2、3日どこか行ってみるのもいいか。それならついでに依頼を受けてみるのもいいかな。この子達もいっしょに連れて行けるような依頼なら問題ないだろう。明日ギルドにいっていい依頼を探してみるか。K-Y
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