「あ、ごしゅじんさまー!」
本島の宿に戻ってきた所でフィーロが何故か魔物の姿で俺を出迎える。
宿では人型でいろと言ったはずなのだが。V26即効ダイエット
「じゃあね。言っとくけど馴れ馴れしくしないでよ」
「分かってる」
女1はビッチ達と合流する為に別れた。
「何かあったのか?」
「えっとね。ラフタリアお姉ちゃんが怒ってるの」
「怒ってるって……」
元康の奴、等々問題を起こしたな。
そう思っていると元康本人が何か、頬をすぼめて放心して座っていた。
なんだろう。心ここにあらずって感じだ。
「モトヤス様?」
女1も元康を見つけてなんか唖然としている。
……状況が理解できん。どうしたんだ?
「フィーロ、何があったんだ?」
「ん~? フィーロわかんない」
だよな。
フィーロに聞いた俺が馬鹿だった。
しょうがないので元康は女1に任せて、ラフタリアを探す。
居た。後ろを向いているけどラフタリアだと分かる……のだが、遠めでも分かる位ラフタリアが怒っている。
尻尾の毛が逆立って膨れ上がっていて、体から放出される魔力が空気を振動させている。
「た、ただいま」
俺が声を掛けるとラフタリアは振り返り、怒気を四散させた。
「お待ちしていました!」
今にも泣きそうな表情でラフタリアが俺に向って駆け寄る。
「な、何があったんだ?」
強姦されたとかじゃないことを祈る。
元康の反応から無いとは思うが、何があったのか全く見当が付かない。
「それが――」
ラフタリアが事情を説明した。
この先の出来事はラフタリアの視点で俺が話すとしよう。
「なにが始まるの?」
俺が出て行った後、フィーロは不安そうにラフタリアに尋ねた。
「大丈夫ですよ。明日の夕方まで別の勇者様と一緒に魔物を倒しに行くだけですよ」
「ふーん。ごしゅじんさまとは?」
「もう少し先よ」
と、フィーロに説明しつつ、ラフタリアは元康がやってくるのを、腕立てしながら待っていた。
俺が普段。当たり前のように見ているから忘れがちだけど、ラフタリアは暇さえあると体を鍛えているんだよな。
馬車の旅とかでも魔物の皮をなめすとかの作業をさせていない時は、腕立てや懸垂とかをしている。
最近だと、腕力が上がった所為で片手の指一つでも腕立てが出来るようになってしまったらしい。
こう言った肉体強化は地味にステータスに影響を及ぼす。僅かずつだけどステータスが伸びるのだ。
「お待たせー!」
元康が花束片手に部屋に入ってきた。
「むにゃ……」
そのとき、フィーロは昼寝をし。
「677……678……」
ラフタリアは腕立て伏せに無心していた所だったらしい。
パサッと元康はその光景に花束を落とした。
ま、女の子が待つ部屋に入ったら、待っていないかのように寝ていて、腕立てなんかしていたら絶句するよな。V26Ⅱ即効減肥サプリ
「えっと……」
「680……あ」
ラフタリアは腕立てをやめて元康に顔を向けたそうだ。
「ようこそ。ほら、フィーロ起きなさい。来ましたよ」
「むー……フィーロ眠い」
「あ、ああ……」
花束を拾いなおし、元康は部屋に入ってきたそうだ。
「明日までよろしくお願いしますね」
「よろしくー!」
「ああ、会った事はあるけど改めて自己紹介をしよう。俺は北村元康! 槍の勇者をしている。よろしく」
「ラフタリアです」
「フィーロ」
元康はキザったらしくラフタリア達に花束を渡した。
「可愛い君達には花がよく似合う」
「はぁ……」
花を受け取ったラフタリアだけど考えていたことは、何に使えるか、どれ位で売れるか、だったそうだ。
女の子としてはアレだが、効率主義に育てた俺が悪いのか?
尚、ラフタリアが花は薬になるでしょうか、と聞いて来た。
芳香剤位にはなると思う。
「あんまり美味しくないね」
フィーロは花を口に入れた。
ま、フィーロは花より団子だよな。
「では早速Lv上げに行きましょうか?」
「その前に市場で買出しに行こう」
「そうですね」
こうして元康と一緒にラフタリア達は市場へ向かった。
「ここの店……閉まってますね」
「おかしいなぁ。さっき見た時はアクセサリーが売っていたのに」
元康の奴、見ようと思っていた店が閉まっていたらしい。
というか、来るのが遅かったのは下見をしていたのが後に明らかになる。
「まあいっか、他にも色々と回ろうよ」
「あ、はい」
こうして元康と一緒に様々な店に入っては物色を繰り返した。
市場で数時間。
しかも可愛い女の子が居ると話しかけ。
「えー! 槍の勇者様なんですかー!」
「ああそうだよ。君達、俺に聞きたい事はないかい?」
ワザとらしく槍を見せ付けて勇者アピールをして話に花を咲かせていたそうだ。
で、結果、女の子達が泊まっている宿の名前を一々メモしていた。
ナンパだな。
優しい男アピールをしていたんだろうが、ラフタリアの元康に対する評価は確実に低下中っぽい。
そして、買い物……もうショッピングで良いだろう。
ショッピングがやっと終わったと思ったら元康は市場を抜けて、船着場とは間逆の方向に歩き出した。
「あの……市場を抜けてしまいましたが」
「良いの良いの、見て回ろう」
「え? でも、今回はLv上げが……」
「所でフィーロちゃん。天使の姿になってくれないか?」
「や!」
フィーロは宿から出ると魔物の姿で付いてきていた。
その後、カルミラ本島の観光地を次々と巡り、夕日が出始めた頃になってやっと別の島に移動した。
夕日の出ている海を小船で渡る最中。
「さっき店で良いものを見つけたんだ」
貝殻で作られた観光土産をラフタリアに手渡した。
「あの……」
「気にしないで、ちょっとしたプレゼントさ」
ちなみにフィーロは船の隣を魔物の姿で泳いでいたらしい。
安易に想像できる状況だな。
俺はその話を微妙な表情で聞いている。
最初のビッチの暴挙を除けば、俺達は静かだったからな。フィーロがいなくてよかった。
「ほら、夕日が綺麗だろう」
「ええ、綺麗ですね」
大海原の夕日というのはラフタリアにとっても綺麗だと思う景色だった。水生の魔物が夕日に重なるように海から飛び出し、ムードは若干あった。日本秀身堂救急箱
ぼんやりと夕日を見つめていると元康がラフタリアの手を握る。
バッと拒絶するかの如く、ラフタリアは手を離した。
元康は気にしないで良いよと言うかのように肩を竦ませた。
ラフタリアはこの時、頭に青筋が浮かぶくらいにイラっとしたそうだ。
一応、笑顔で対応したが、その後元康に手を握らせなかった。
島に着いた後。
夕日も落ちきってしまい。これから魔物を倒すとなると夜間戦闘だとラフタリアが準備をしていると元康の奴、颯爽と宿に入った。
「あの……」
「ん? どうしたんだい?」
「Lv上げに行かないのですか?」
「もう日が落ちてるじゃないか。そんな危険な状況で戦ったら危ないだろ」
「ま、まあ……ですが」
「さ、今日は宿でゆっくりと休んで食事を取ろう。晩御飯は俺が作るから楽しみにしていてくれ」
市場で何か色々と買い込んでいたのは料理をするためだったのかとラフタリアは納得した。
それまでラフタリアはヒール軟膏などの軽い薬を買い込んでいるのかと思っていた。
「ごはん?」
「そうだよフィーロちゃん。だから天使の姿に」
「や!」
元康の奴、魔物の姿のフィーロに警戒していた。
股間を何度も蹴っ飛ばしたからな。
それから元康は宿の厨房で料理をする所を見せ付けるかのように二人を厨房の片隅で待たせた。
ラフタリアは俺なら宿の料理を食べるだろうな、と考えていたらしい。
まあ料理は野外じゃないとしないな。宿なら薬かアクセサリー。最近だと魔法の勉強だったな。
「俺って料理も出来るんだ」
「へ、へぇ……」
じゅうじゅうと音を立てて、元康は沢山の料理をラフタリア達に披露した。
ラフタリアは少しずつ元康の料理をついばみ、フィーロは豪快に食べた。
「ごしゅじんさまのより美味しくないね!」
「しっ! 槍の勇者様が気にするでしょ……」
元康の奴が頬を引きつらせて笑みを浮かべたそうだ。
「そんなに、美味しそうに食べられたら作った方も嬉しいよ。所でフィーロちゃん、天使の姿に」
「やー!」
どんだけ、天使好きなんだよ。
それから別々の部屋に入る。その頃になってようやくフィーロは人型になっていた。
まあ、宿の中限定でフィーロは人の姿になれと命令したが、理由は床が抜けるからだからなぁ。
「もう寝るのかい?」
「いえ……」
寝る前にラフタリアは魔法の勉強とストレッチをする。
「わ! フィーロちゃん、天使の姿可愛いね」
「ちかづかないで!」
フィーロの奴、元康の事嫌ってるなぁ。
元康、何かフィーロに嫌われる様な事したか……している。
以前、フィーロが成長途中の頃、大爆笑しながらダサイを連呼した。
更にその後、デブ鳥と罵り、ブサイクとも言っていた。嫌われない方がおかしい。
「大丈夫、何もしないよ」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
「むー……」
疑いながらフィーロはベットに横になり、寝息を立てる。
しかし頭のアホ毛は逆立っており、熟睡はしていなかったらしい。
「……」
元康が無言でフィーロに近づく。
「……何をするつもりですか?」
「フィーロちゃんの寝顔を見るだけさ」
元康の行動に不信感を抱きつつあるラフタリアは眉を寄せる。簡約痩身
「じゃあさ、フィーロちゃんが寝ている間に酒場で少し酒を飲まないかい?」
「は?」
「ああ、酒を飲んだことがないんだね。大丈夫、少しくらい嗜んだ方が大人の魅力があるよ」
「魅力……ですか」
フッとラフタリアは魅力という言葉に釣られて元康と酒場に行ってしまった。
酒場の席に座り、元康は酒を注文する。
しばらくして酒が届いた。
ラフタリアにとって初めての酒だ。赤い酒だったそうだ。
元康がコップに酒を注ぐ。
「君の瞳に乾杯」
「……」
キザったらしくウィンクをした所でラフタリアの中で何かがプツンと切れた。
「明日があるので帰りますね」
酒を飲まず、怒りを押し殺し、笑顔で言うが、体内から放出する魔力でコップが微弱に振動する。
「え? あ――」
そのまま宿に帰って部屋の鍵を掛けて寝たそうだ。
で、翌朝。
「おはようございます」
一応、昨日の事は忘れたつもりでラフタリアは元康へ挨拶に行った。
「あ、おはよう。ラフタリアちゃん。フィーロちゃんも」
「おはよー」
若干眠そうにフィーロはあくびをしながら挨拶をする。
それから軽めに宿の朝食を取り、やっと魔物退治へ出かけたのだという。
だが……。
「君達の強さは分かったよ」
魔物退治をして暫くした時だったという。
あまり魔物も強くなく、奥へ行けば行くほど強くなるならもっと奥へ行きたいと思っていた所で元康が呼び止める。
「はい?」
「可愛い君達に血生臭くて汚いLv上げの戦いは似合わない。俺が戦っているから見ていてくれないか?」
「はぁ!?」
現れた魔物を相手に元康が一人で戦うと告げて走り出す。
ちなみにフィーロなら秒殺出来る程度の雑魚だったという。
そりゃあ元康なら一撃レベルの雑魚だろうよ。
「流星槍!」
確かに、元康は強かった。
だけど何かあるとカッコを付け、色目を送り、汗を煌かせ、ウィンクをしてキザったらしく魔物を屠っていった。
「どうだい?」
「――――――っ!」
ついにラフタリアは我慢の限界に達した。
「知りませんし、いい加減にしてください!」
その後の事は頭が真っ白になっていて覚えてなく、気が付いたら元康が怯える子羊の様な瞳で震えていたという。
湧き上がる怒りを押し殺しつつ、本島の宿に戻ったのが丁度、昼になる少し前くらいだったそうだ。
ちなみにラフタリアとフィーロのLvは2しか上がらず、現在42だ。
おいおい、俺は昨日今日で6Lv上がって44なんだが。
なんで俺よりラフタリア達がLv低いんだよ……。
元康……期待をしていなかったのにそれを下回るとかどういう事だよ。
何か陰謀を感じる様な気もするが、話を聞く限りはそういうのは無いと思う。西班牙蒼蝿水口服液+遅延増大
ともあれ、ラフタリアの中で槍の勇者は致命的に評価が下がったという。
2014年4月30日星期三
2014年4月28日星期一
ピンポンダッシュ
『ぐぬ……思いのほか新しい身体の意思が強い。だが時期がくれば……』
前にもこの声を聞いた様な気がする。
なにやら悔しそうな声を漏らしている。
『ククク、幸い近くに二つも我が半身がある。一つでも手に入れば……』簡約痩身美体カプセル
なんか中二病っぽいな。
主に雰囲気が。
『なに? ……これはウィンディアの気配? 生きていたのか! だが――』
ラフタリアが山籠りに入って六日目。
その朝。
「はぁ……」
またか。
アトラが最近俺のベッドに潜り込むようになった。
フィーロが時々俺のベッドに寝ている時に入ってくる事があって、またフィーロだろうと思って寝なおすのだけど、最近じゃアトラになってきている。
その度にフォウルを呼ぶのだけど、徐々にフォウルの方にも変化が出てきた。
二日目の朝。
寝ているはずだとフォウルは勘違いしていた。
なんかベッドの中にダミーが施されていたらしい。
その翌日は睡魔に襲われて熟睡。
おそらく、アトラが用意したおやつの中に睡眠薬が混じっていたのだろう。
入手経路はガエリオンからだとか。
睡眠のブレスが使えるようになったらしい。
で、その翌日は……物理的に寝かされていた。
既に負けているじゃないか。
今日はなんだろうな。
「ナオフミ様ー! ただいま帰りました!」
バアンと事もあろうにラフタリアがタイミング悪く帰ってきた。
凄く懐かしそうに再会を喜んでいた顔がキョトンと変わる。
「最近、どうも入ってくるんだ。どうにか出来ないか?」
「えっと……何も起こっていないのですよね」
「何が起こるんだ?」
ベッドにもぐりこまれるのは本当に困っている。
フィーロはやめろと言っても潜り込むし、アトラも変わらない。
おそらく卑猥だとかで潔癖なラフタリアは怒っているのだろう。
まったく、事もあろうに俺がそんな真似をすると思っているのか?
「はぁ……そうですよね。ナオフミ様はそういう方です」
「フォウルを呼んでくれ、むしろフォウルの方が心配だ」
「はい」
本日は簀巻きになって寝かされていた。
動く事も出来ず、家で腹ばいになってもがいていたそうだ。
「ナオフミ様? どうして拒まないのですか?」
「昨日は出ていけと注意して追い出したぞ。外で寝ていた。その前は奴隷紋を起動させて潜り込んで来たら罰するようにしたのに入っていた」
「鬼ですか!?」
昨日は追い出した。そしたら家の前で寝ていやがった。で、奴隷紋の方は、元々病気で全身痛かったらしいから慣れであんまり効果が無いらしい。平然と寝ていた。
有言実行とはこの事だ。
フォウルに滅茶苦茶怒られた。
どうすれば良いんだよ。
要するに二回、フォウルは寝かされた訳で。
「そうでした。ナオフミ様はそんな方でした」
「本日二回目だな。だから俺も同じ事を言う。何を言っているんだ?」
「ん……どうしたのですか尚文様?」
目を覚ましたアトラが白々しく尋ねてくる。
お前の事で悩んでいるんだよ。
「……わからないのか?」
「寝所にご一緒する事がそんなに嫌なのですか?」
「正直困る。お前も痛いだろ」
「痛みよりも心が温かいです。何故一緒に寝てはダメなのですか?」
「お前の兄が五月蠅い」
「アトラ! なんでそんな奴の所へ行こうとするんだ!」
「ほらな」
「お兄様は気にしないでください。私が尚文様をお慕いしているだけなんですから」
「何を言っているんですか!?」
ああもう、アトラはどうも騒ぎを起こすなぁ……。
一体どうしたんだ? いや、考えられる可能性が一つある。
「ラフタリア、それとフォウル」
「なんです?」
「なんだ!?」
「もしかしたらイグドラシル薬剤の副作用かもしれない」
「「は?」」
そうだ。そうとしか思えなくなってきた。
万能の薬にも厄介な副作用、服用させた人間を信じすぎると言う物があったんだ。
そうとしか考えられない。
「戦闘顧問を見てみろ。俺の事を聖人様と慕ってくるじゃないか。きっとイグドラシル薬剤には飲ませた相手を惚れさせる効果があるんだ。奴隷紋すら克服してしまっているのかもしれない」日本秀身堂救急箱
万能の薬にも唯一の欠点があったんだ。うん。
薬の効果が凄いアトラはババアよりも副作用が強いんだろう。
奴隷紋もこれ以上掛けると危ない。最悪死ぬ。
「とりあえず薬の副作用が切れるまで警戒を解けない状況だ」
「そ、そうですね!」
「はぁ!?」
ラフタリアが俺の説に同意するがフォウルは意外そうな声を出す。
「何か不満なのか?」
「い、いや! そうだな! 絶対に副作用だ! アトラを全快にさせるほどの薬だった訳だし、きっと副作用に違いない!」
「違います尚文様! 私は心から尚文様をお慕いして――」
「さ、アトラ、今日もLv上げに行くぞ!」
「ああ、尚文様ぁああああ!」
アトラがフォウルに連れられて家を出て行った。
いつもとは逆パターンだな。
ちょっと新鮮だった。
なんだかんだで兄妹なのかもしれない。
「さて、ラフタリア。山籠りは終わったか?」
「いえ……ちょっと移動で立ち寄っただけで……」
「聖人様ーラフタリア門下生がこっちに来てませんですじゃ?」
外からババアが声をあげて尋ねてくる。
門下生……。
「そうか……」
「まだ……山籠りをしなくてはいけなさそうです」
変幻無双流だったか。
修行も大変そうだな。
もしかして俺もやらないといけないんだろうか。
まあやらないといけなんだろうな。
防御力に比例する攻撃なんか受けたら一発で死ぬぞ。
うん。暇な時間を見繕って自分でもやり方を模索しておこう。
「む……お主、更なる強さが欲しいと思わんか?」
外を見るとババアが事もあろうにフォウルを勧誘している。
……女騎士が若干羨ましそうにフォウルを遠くから見つめていた。
休みをとってまで、ババアに付いて行っているのに、教えて貰っていないのか?
「お、俺は妹の面倒を見なくてはいけないんだ!」
「伸び盛りなのにそのような甘い理由で逃げる事は許さんわい。聖人様の為、更なる強さを得るのじゃ!」
「あ、アトラ! お、俺は! 俺はぁああああ!」
結局フォウルはこうなる運命なのか。
……ダメだこりゃ。
フォウルがいないんじゃ、アトラをどうやって俺のベッドに潜り込むのをやめさせるんだ。
ん? アトラがこっちを向いて手を振っている。
きっと。
『これで気兼ねなく寝所を共にできますわ』
とか考えているんだろう。
これは早急に対策を取らないといけないな。
「とりあえず、色々と手配するのでナオフミ様は安心してください!」
「ああ、わかった。頼りにしている」
「はい。ナオフミ様の為にも絶対に間違いは起こさせません」
ラフタリアが何をしてくれるのか期待するしかない。
あんな子供と間違いって何が起こるんだよ。
その後、朝食を終えてからラフタリア達はまた旅立ってしまった。
しかもフォウルまで連れて行かれた。
コンコン。
またか、最近、この家をノックして逃げるいたずら。俗に言うピンポンダッシュをする奴隷がいるらしい。
俺が出て、誰もいないのを確認する楽しみを覚えた馬鹿がいるようだ。
だから昼食時、奴隷共が集まってから俺は奴隷項目にチェックを入れて注意する。
「最近、俺が在宅中にいたずらする者は名乗り出ろ」V26Ⅱ即効減肥サプリ
……誰も手をあげない。
しかも奴隷紋も作動しないと来たものだ。
奴隷じゃないのか?
じゃあ。
と、兵士とか村に来ている魔法屋とか洋裁屋を睨む。
全員、首を横に振る。
……誰なんだ?
とりあえず確認。
扉を開けてー、良しいない。
一日に三回くらいやるんだこの犯人は。
見張りを立たせた事もあるが、そうするといたずらしない。
だからと言ってこんな悪戯をする奴を俺は放置するわけにはいかない。
コンコン。
ちなみに前日は扉の前で待ち構えて、ノックされた瞬間に開けた。
キールだった。
しかもアトラと同じく、最初にノックしたらしい。
今日の献立は何? って、他の奴隷と一緒に来たから犯人ではないだろう。
そのキール達も今日は行商に出ていて留守だ。
実際、村に居るのは手先が器用な奴隷しか残っていないし、朝のうちに俺の所へは来るなと注意してある。
間違い無く犯人だ。
だが、今日は逃がさん。仮に犯人じゃないとしても捕まえてやる!
「シールドプリズン!」
扉を叩いた奴を盾の檻で閉じ込める。
俺は扉を開けてこんな悪戯をした奴を確認した。
ガツンガツンとプリズンが揺れている。トラップは成功だな。
「どうしたの? 伯爵」
「ラトか、お前こそこんな時間にどうしたんだ?」
「気分転換に散歩。それよりどうしたの?」
「最近、ピンポンダッシュをするいたずら者が居るのを朝、話したろ」
「そうね。じゃあここに?」
「ああ」
「どんないたずら者かしらね」
プリズンの効果時間が切れるのを待って、中身を確認する。
「キュアアアアア!?」
……。
俺とラトは同じ表情で呆れていたと思う。
うん。奴隷共じゃなかったら魔物を疑うべきだよな。だけどピンポンダッシュなんて真似を魔物がするとは思わなかった。
ピンポンダッシュ魔ことガエリオンが自由になって空へと逃げる。
俺は迷うことなく魔物紋の項目を出現させて罰を発動させた。
「キュアアアアアアア!?」
ガエリオンが落下して暴れ回る。
ちなみにガエリオンは尻尾を含めて全長2メートルちょっと。
見た目は完全にドラゴンっぽい生き物になっている。
若干、尻尾が太いかな。
目が大きく、可愛げが残っている。少しメタボだ。V26即効ダイエット
Lvは現在35。
成長もある程度なだらかになってきていた。思いのほか大きくならなかったなぁ。
谷子がガエリオンの悲鳴を聞きつけて走ってきた。
「ガエリオンがどうかしたの!?」
「昼のいたずら犯だ。現行犯で捕えた」
「え?」
さすがの谷子もガエリオンを擁護するか迷うように俺を見る。
「庇うなよ。悪さには躾も必要なんだから」
「わかった。ダメだよガエリオン。いたずらは、メッ!」
「キュアア……」
「どうしたのごしゅじんさま?」
フィーロも騒ぎを聞きつけてやってきた。
メルティとは遊んでいなかったのか。
「あー怒られてるー!」
フィーロがこれ見よがしにガエリオンが怒られているのを踊って楽しんでいる。
「ガーエリーオンが怒られたーざまああみーろ。ごーしゅじーんさーまを、背中にのせーるのはーフィーロ」
「ギャアアアウウウウウウウウウウ!」
馬鹿にされてガエリオンが怒りを露にしている。
ついでにフィーロにも罰。
「あきゃああああああああ! な、なんで?」
「相手の失敗を笑うな」
「ご、ごしゅじんさまも笑うのにー」
む……そういえばそうだった。
すぐに魔物紋の発動を止める。
ラフタリアの気持ちがこんなところでわかるとは。
やめる気はないがな。
「なに論破されてるのよ!」
「俺は他人の失敗を笑う。だから俺には言う資格が無い」
「あのねー……」
ラトが額に手を当てて呆れている。
俺はヴィッチやクズの失敗を笑い、勇者共の現状を笑っている。
そんな俺が正論を解いた所で説得力が無い。
やめる気はないがな。
「えっとー……ライバルだからってそういう事をしちゃいけません」
「ぶー」
「私を怒らせたらどうなるかわかってる?」
「やー!」
なんだこの茶番? フィーロには良いお灸みたいだけどさ。
「まったく、どうしてこんないたずらをしたの?」
谷子がガエリオンの顔を撫でながら尋ねる。
ガエリオンはキュアアアっと弱々しく鳴いた。
「あんたに遊んで貰いたかったんですって」
「はぁ?」
「あんまり遊んで上げてないでしょ。そこの鳥は構うのに」
「むー!」
フィーロと谷子が睨みあいを始める。
どうもフィーロはガエリオンの事となるとムキになるからな。
そもそも、別にフィーロを構っているつもりなんか無いんだが……。
「まてまて……つまり、俺が遊んでやらないと、またこんないたずらをすると?」
「キュア!」
頷きやがった。
かまってちゃんかよ。まったく……。
ラトの方を見る。
「スキンシップは大事よ。どっちもね」
そうですか。面倒くせー。
「じゃあフィーロとガエリオン。一日交替で少し遊ぶ時間を作ってやる。ただし、相手の邪魔をしたら交替なしだからな」
「むー!」
「キュア!」
双方が睨みあいながら抗議する。
「じゃあ両方無しだ」
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両者妥協し、この案で頷いた。V26Ⅲ速效ダイエット
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有言実行とはこの事だ。
フォウルに滅茶苦茶怒られた。
どうすれば良いんだよ。
要するに二回、フォウルは寝かされた訳で。
「そうでした。ナオフミ様はそんな方でした」
「本日二回目だな。だから俺も同じ事を言う。何を言っているんだ?」
「ん……どうしたのですか尚文様?」
目を覚ましたアトラが白々しく尋ねてくる。
お前の事で悩んでいるんだよ。
「……わからないのか?」
「寝所にご一緒する事がそんなに嫌なのですか?」
「正直困る。お前も痛いだろ」
「痛みよりも心が温かいです。何故一緒に寝てはダメなのですか?」
「お前の兄が五月蠅い」
「アトラ! なんでそんな奴の所へ行こうとするんだ!」
「ほらな」
「お兄様は気にしないでください。私が尚文様をお慕いしているだけなんですから」
「何を言っているんですか!?」
ああもう、アトラはどうも騒ぎを起こすなぁ……。
一体どうしたんだ? いや、考えられる可能性が一つある。
「ラフタリア、それとフォウル」
「なんです?」
「なんだ!?」
「もしかしたらイグドラシル薬剤の副作用かもしれない」
「「は?」」
そうだ。そうとしか思えなくなってきた。
万能の薬にも厄介な副作用、服用させた人間を信じすぎると言う物があったんだ。
そうとしか考えられない。
「戦闘顧問を見てみろ。俺の事を聖人様と慕ってくるじゃないか。きっとイグドラシル薬剤には飲ませた相手を惚れさせる効果があるんだ。奴隷紋すら克服してしまっているのかもしれない」日本秀身堂救急箱
万能の薬にも唯一の欠点があったんだ。うん。
薬の効果が凄いアトラはババアよりも副作用が強いんだろう。
奴隷紋もこれ以上掛けると危ない。最悪死ぬ。
「とりあえず薬の副作用が切れるまで警戒を解けない状況だ」
「そ、そうですね!」
「はぁ!?」
ラフタリアが俺の説に同意するがフォウルは意外そうな声を出す。
「何か不満なのか?」
「い、いや! そうだな! 絶対に副作用だ! アトラを全快にさせるほどの薬だった訳だし、きっと副作用に違いない!」
「違います尚文様! 私は心から尚文様をお慕いして――」
「さ、アトラ、今日もLv上げに行くぞ!」
「ああ、尚文様ぁああああ!」
アトラがフォウルに連れられて家を出て行った。
いつもとは逆パターンだな。
ちょっと新鮮だった。
なんだかんだで兄妹なのかもしれない。
「さて、ラフタリア。山籠りは終わったか?」
「いえ……ちょっと移動で立ち寄っただけで……」
「聖人様ーラフタリア門下生がこっちに来てませんですじゃ?」
外からババアが声をあげて尋ねてくる。
門下生……。
「そうか……」
「まだ……山籠りをしなくてはいけなさそうです」
変幻無双流だったか。
修行も大変そうだな。
もしかして俺もやらないといけないんだろうか。
まあやらないといけなんだろうな。
防御力に比例する攻撃なんか受けたら一発で死ぬぞ。
うん。暇な時間を見繕って自分でもやり方を模索しておこう。
「む……お主、更なる強さが欲しいと思わんか?」
外を見るとババアが事もあろうにフォウルを勧誘している。
……女騎士が若干羨ましそうにフォウルを遠くから見つめていた。
休みをとってまで、ババアに付いて行っているのに、教えて貰っていないのか?
「お、俺は妹の面倒を見なくてはいけないんだ!」
「伸び盛りなのにそのような甘い理由で逃げる事は許さんわい。聖人様の為、更なる強さを得るのじゃ!」
「あ、アトラ! お、俺は! 俺はぁああああ!」
結局フォウルはこうなる運命なのか。
……ダメだこりゃ。
フォウルがいないんじゃ、アトラをどうやって俺のベッドに潜り込むのをやめさせるんだ。
ん? アトラがこっちを向いて手を振っている。
きっと。
『これで気兼ねなく寝所を共にできますわ』
とか考えているんだろう。
これは早急に対策を取らないといけないな。
「とりあえず、色々と手配するのでナオフミ様は安心してください!」
「ああ、わかった。頼りにしている」
「はい。ナオフミ様の為にも絶対に間違いは起こさせません」
ラフタリアが何をしてくれるのか期待するしかない。
あんな子供と間違いって何が起こるんだよ。
その後、朝食を終えてからラフタリア達はまた旅立ってしまった。
しかもフォウルまで連れて行かれた。
コンコン。
またか、最近、この家をノックして逃げるいたずら。俗に言うピンポンダッシュをする奴隷がいるらしい。
俺が出て、誰もいないのを確認する楽しみを覚えた馬鹿がいるようだ。
だから昼食時、奴隷共が集まってから俺は奴隷項目にチェックを入れて注意する。
「最近、俺が在宅中にいたずらする者は名乗り出ろ」V26Ⅱ即効減肥サプリ
……誰も手をあげない。
しかも奴隷紋も作動しないと来たものだ。
奴隷じゃないのか?
じゃあ。
と、兵士とか村に来ている魔法屋とか洋裁屋を睨む。
全員、首を横に振る。
……誰なんだ?
とりあえず確認。
扉を開けてー、良しいない。
一日に三回くらいやるんだこの犯人は。
見張りを立たせた事もあるが、そうするといたずらしない。
だからと言ってこんな悪戯をする奴を俺は放置するわけにはいかない。
コンコン。
ちなみに前日は扉の前で待ち構えて、ノックされた瞬間に開けた。
キールだった。
しかもアトラと同じく、最初にノックしたらしい。
今日の献立は何? って、他の奴隷と一緒に来たから犯人ではないだろう。
そのキール達も今日は行商に出ていて留守だ。
実際、村に居るのは手先が器用な奴隷しか残っていないし、朝のうちに俺の所へは来るなと注意してある。
間違い無く犯人だ。
だが、今日は逃がさん。仮に犯人じゃないとしても捕まえてやる!
「シールドプリズン!」
扉を叩いた奴を盾の檻で閉じ込める。
俺は扉を開けてこんな悪戯をした奴を確認した。
ガツンガツンとプリズンが揺れている。トラップは成功だな。
「どうしたの? 伯爵」
「ラトか、お前こそこんな時間にどうしたんだ?」
「気分転換に散歩。それよりどうしたの?」
「最近、ピンポンダッシュをするいたずら者が居るのを朝、話したろ」
「そうね。じゃあここに?」
「ああ」
「どんないたずら者かしらね」
プリズンの効果時間が切れるのを待って、中身を確認する。
「キュアアアアア!?」
……。
俺とラトは同じ表情で呆れていたと思う。
うん。奴隷共じゃなかったら魔物を疑うべきだよな。だけどピンポンダッシュなんて真似を魔物がするとは思わなかった。
ピンポンダッシュ魔ことガエリオンが自由になって空へと逃げる。
俺は迷うことなく魔物紋の項目を出現させて罰を発動させた。
「キュアアアアアアア!?」
ガエリオンが落下して暴れ回る。
ちなみにガエリオンは尻尾を含めて全長2メートルちょっと。
見た目は完全にドラゴンっぽい生き物になっている。
若干、尻尾が太いかな。
目が大きく、可愛げが残っている。少しメタボだ。V26即効ダイエット
Lvは現在35。
成長もある程度なだらかになってきていた。思いのほか大きくならなかったなぁ。
谷子がガエリオンの悲鳴を聞きつけて走ってきた。
「ガエリオンがどうかしたの!?」
「昼のいたずら犯だ。現行犯で捕えた」
「え?」
さすがの谷子もガエリオンを擁護するか迷うように俺を見る。
「庇うなよ。悪さには躾も必要なんだから」
「わかった。ダメだよガエリオン。いたずらは、メッ!」
「キュアア……」
「どうしたのごしゅじんさま?」
フィーロも騒ぎを聞きつけてやってきた。
メルティとは遊んでいなかったのか。
「あー怒られてるー!」
フィーロがこれ見よがしにガエリオンが怒られているのを踊って楽しんでいる。
「ガーエリーオンが怒られたーざまああみーろ。ごーしゅじーんさーまを、背中にのせーるのはーフィーロ」
「ギャアアアウウウウウウウウウウ!」
馬鹿にされてガエリオンが怒りを露にしている。
ついでにフィーロにも罰。
「あきゃああああああああ! な、なんで?」
「相手の失敗を笑うな」
「ご、ごしゅじんさまも笑うのにー」
む……そういえばそうだった。
すぐに魔物紋の発動を止める。
ラフタリアの気持ちがこんなところでわかるとは。
やめる気はないがな。
「なに論破されてるのよ!」
「俺は他人の失敗を笑う。だから俺には言う資格が無い」
「あのねー……」
ラトが額に手を当てて呆れている。
俺はヴィッチやクズの失敗を笑い、勇者共の現状を笑っている。
そんな俺が正論を解いた所で説得力が無い。
やめる気はないがな。
「えっとー……ライバルだからってそういう事をしちゃいけません」
「ぶー」
「私を怒らせたらどうなるかわかってる?」
「やー!」
なんだこの茶番? フィーロには良いお灸みたいだけどさ。
「まったく、どうしてこんないたずらをしたの?」
谷子がガエリオンの顔を撫でながら尋ねる。
ガエリオンはキュアアアっと弱々しく鳴いた。
「あんたに遊んで貰いたかったんですって」
「はぁ?」
「あんまり遊んで上げてないでしょ。そこの鳥は構うのに」
「むー!」
フィーロと谷子が睨みあいを始める。
どうもフィーロはガエリオンの事となるとムキになるからな。
そもそも、別にフィーロを構っているつもりなんか無いんだが……。
「まてまて……つまり、俺が遊んでやらないと、またこんないたずらをすると?」
「キュア!」
頷きやがった。
かまってちゃんかよ。まったく……。
ラトの方を見る。
「スキンシップは大事よ。どっちもね」
そうですか。面倒くせー。
「じゃあフィーロとガエリオン。一日交替で少し遊ぶ時間を作ってやる。ただし、相手の邪魔をしたら交替なしだからな」
「むー!」
「キュア!」
双方が睨みあいながら抗議する。
「じゃあ両方無しだ」
「わ、わかったよう」
「キュアキュア」
両者妥協し、この案で頷いた。V26Ⅲ速效ダイエット
2014年4月24日星期四
優越感
その後は、作業に追われた。
あの施設で保護された亜人奴隷の治療、その他町での復興とやる事が多くて構わん。
隣町の方で商人が受けた損害に関してもある程度、補填をしなくてはいけなかったし。
まあ、アクセサリー商の一声が決め手になってみんな黙ってくれたけどさ。Xing霸 性霸2000
税収も安めだし、盾の勇者というこの国じゃ本来、悪魔である奴が作った町なのだからしょうがないと商人サイドも納得はしてくれた。
それ以上の儲けがここには眠っているらしい。
俺が管理しているフィロリアルの足の速さを頼りに行商での巡回ネットワークが確立してきているのを評価してとの事。
代理販売をすることで売り上げが向上してきているのだとか。
まあ、元康が何かあるとフィロリアルを買ってきて育てているから、フィロリアルは増える一方だし、問題は少なくなりつつある。
倒壊した建物の修復も一応進んでいる。
そんな合い間にも俺は料理したり、アトラと組み手をしたりと、忙しい状況だ。
そうして村に戻って三日目。
俺とアトラはリーシアがやっていた外から気を吸うというのを使えるようになってきていた。
「中々難しいよな。これ」
「はい……ですが、無双活性でしたか? それを長時間使えるようになりました」
そう、アトラはもう無双活性を長時間維持する事が出来るようになった。
だが、俺は外から気を吸う事は出来ても無双活性の方は全く上手く使える様子は無い。
「ごしゅじんさま、またやってるのー? フィーロも混ぜてー」
俺達が外から気を吸う練習の手本にフィーロを呼んでやらせていると、なんとフィーロも使えるようになってしまった。
俺の所の天才タイプは容易くしてくれるもんだ。
フィーロは魔力回復というポーズでこの外の気を吸うというのを使っていたが、気を吸いながら動く練習を一日するだけで、動き回れるようになってしまった。
勝手に強くなるとは……便利な奴だ。
しかもフィーロは無意識に無双活性を使っていたようで、前よりも機敏に動けるようになった。
何処まで強くなるんだよ、お前等は。
ただ、フィーロの方は点とか、変幻無双流の技は使えないけどさ。あまりある力で無理やりねじ伏せるとか出来るのだから良いだろ。
「ふぇえ……ナオフミさん達は師範から教わって無いのに使えるようになったんですかー」
「まあな」
リーシアが樹の世話をしている最中に通りかかる。
「あんなに頑張って覚えたのに、それは無いですよぉ……」
そりゃあ、リーシアからしたらアトラ達は天才だろうな。
でもあのババアはリーシアこそ逸材だと言っていたし、樹との戦いを見ると、お前も相当な天才だと思うぞ。WENICKMANペニス増大
アトラとフィーロの無双活性ってリーシアがしていた無双活性と何か違う気がするんだよな。
あくまで見よう見まねで、精度が違うと言うか。
それでも遜色はないとリーシアは言っている。
でもなんか違うような気がするんだがなぁ……。
ああ、そうそう。俺が無双活性が出来ないのと同じ理由なのか、リーシアは何故か無双活性が出来なくなったらしい。
それでも問題無く戦えると言うか前より戦いやすくなったとか。
勇者には使えない理由でもあるんだろう。
「じゃあ使えるようになった二人にはちゃんと注意しておきますよぅ」
「なんですか?」
「なーに?」
「あんまり長時間の無双活性は控えた方が良いですよ。じゃないと体が持ちません」
ああ、そう言うタイプのブーストな訳ね。
漫画やアニメとかだと長時間使用すると体に負担が掛って戦えなくなるとかそう言ったペナルティがあるんだよな。
主人公なんかは、重要な局面でそれを使って二度と戦えなくなるが、克服するとか、何か別の力に目覚めたりする。
まあ俺達はそんな都合良く行かないだろうけどさ。
おそらくだが、リーシアは外部から気を取り入れる事が天才的に上手いんだろう。
元々内部にある気……というか魔力はLvが上がった現在でも高い方では無いし、理由付けするとそれしか思いつかない。
後は、アトラやフィーロはどんなに長時間使用するにしても、限界時間があるみたいだ。
内部だけで使えば一分程度、外部からで五分程度、みたいな感じだった。
リーシアはその点、ずっと使っていたな。
「そうですね。体中の骨がビシビシと音を立てる時がありますし、ここぞと言う時以外は攻撃の瞬間にだけ使うのが良さそうです」
「そーだねー」
女騎士とかの無双活性は元々の効果が低く、持続時間もそこまで無いから気にする必要が無いという所か?
ふむ……見よう見まねだけど奥が深いな。procomil spray
「っと、そろそろ飯の時間か」
修業を中断して俺は昼飯の準備をする為に食堂へ向かった。
そして下ごしらえを任せていた奴隷と一緒に料理を作る。
川や井戸に流された毒の浄化は既にバイオプラントを改良して済ました。
まったく、三勇教の連中も碌な事をしないよな。
ああ、三勇教の連中は昨日処刑された。
代表のシスターはヴィッチと同じくフォーブレイの豚刑で、他の幹部はアイアンメイデンだ。
イメージの関係からか、民衆の前に俺は出ず、処刑人の一人の振りをして見せられた。
現代日本で育ったからか、やっぱり公開処刑を見るのはあんまり精神に良くなかったなぁ。
昨日は悪夢を見た。
民衆共は被害もあって、野次を飛ばしつつ、熱心に見ていた。
俺の世界の中世でもこう言った出来事は民衆のガス抜きに使われていたらしいというのを何かの本で読んだ覚えがある。
本当かは知らないけどさ。
本能的な解消と言うのだろうか?
焚き火を見るとなんか感じるような物に似ている気がする。
拷問器具であるはずのアイアンメイデンが処刑に使われるというのはどうなんだ?
叫び声が城下町の広場に轟いて、トラウマになりそうだった。
そうそう、鎧やその他、何処に居たのか知らない樹の元配下も処刑された。
皮肉な事に真鍮製の牛に入れられて燻製にされる処刑具。
俺の世界だとファラリスの雄牛だったか。
樹が使ったカーススキルだ。
鎧の奴、自分が今から殺されると知るや震えながら命乞いをし、腰が抜けていたっけ。
凄い絶叫が雄牛を象った像から聞こえてきた。
うん。やっぱり残酷な世界だよな。
悪人は処刑すべきだと思うけど、いざその光景に遭遇すると頭がクラクラとした。
爽快感も糞も無い。
自らの手で殺すとかだと……爽快だったのか?西班牙蒼蝿水
考えてみれば俺はブルートオプファーで教皇を殺しているんだよな……。
あの時は爽快感も糞も無く、体の痛みしかなかった。
やっぱり良く分からないな。
今更人殺し云々で悩む事は無いが、惨たらしい死に方を見るのはあまり気分が良い物じゃない。
う……昨日の事を思い出していたら肉料理が食いたく無くなった。
人が焼ける匂いがあの時はしてたし、血生臭いのはちょっと控えたいな。
「兄ちゃん! ご飯!」
ふんどし犬が興奮気味に俺が盛る飯を欲しがる。
「よし」
俺は別口で用意していた地に落ちたクレープを乗せた皿をふんどし犬の足元に置く。
みんな、俺の方を見て絶句している。
何を絶句しているんだ? 俺は決めた事はする男だ。
例え洗脳された状態だったとしても、あんな事を口走った奴に相応の罰を与えなければならない。
むしろこの程度の罰で済むだけ感謝してもらいたい位だ。
要するにふんどし犬だけ今日は貧相なクレープだ。
「忘れたとは言わせないからな。それが今日のお前の飯だ」
ちなみに他の奴等にはいつもより少しだけ豪華にしてある。
これで少しは自分がむざむざ敵に洗脳された事を反省するだろう。
もちろん、後で飯を分けてやるがな。
「兄ちゃんありがとう!」
「な――」
ガツガツとふんどし犬はクレープを犬食いし始めた。
他の奴隷共はふんどし犬に視線を向けて口をパクパクさせている。
「へへ」
すっげー優越感に満ちた目でふんどし犬は食堂にいる他の奴隷共を見渡す。
奴隷共は唾を飲む様にキールが完食した皿を見つめている。
谷子と一緒に飯を食べていた錬も、なんか絶句している。
「な、なんだ? なんて言うか、キールが食べた奴だけ凄く美味そうに、特別に作って貰ったかの様に見えてくる」
「うん」
「盾のお兄ちゃん。私もクレープ頂戴」
「俺も!」
「僕も!」
「そう言う意味で出した訳じゃねえから!」
お仕置きだよ!
なんでふんどし犬だけ特別に作ってやったみたいな状態になってんだ!
まったく、こいつ等は……前向きに取り過ぎだ!西班牙蒼蝿水口服液+遅延増大
あの施設で保護された亜人奴隷の治療、その他町での復興とやる事が多くて構わん。
隣町の方で商人が受けた損害に関してもある程度、補填をしなくてはいけなかったし。
まあ、アクセサリー商の一声が決め手になってみんな黙ってくれたけどさ。Xing霸 性霸2000
税収も安めだし、盾の勇者というこの国じゃ本来、悪魔である奴が作った町なのだからしょうがないと商人サイドも納得はしてくれた。
それ以上の儲けがここには眠っているらしい。
俺が管理しているフィロリアルの足の速さを頼りに行商での巡回ネットワークが確立してきているのを評価してとの事。
代理販売をすることで売り上げが向上してきているのだとか。
まあ、元康が何かあるとフィロリアルを買ってきて育てているから、フィロリアルは増える一方だし、問題は少なくなりつつある。
倒壊した建物の修復も一応進んでいる。
そんな合い間にも俺は料理したり、アトラと組み手をしたりと、忙しい状況だ。
そうして村に戻って三日目。
俺とアトラはリーシアがやっていた外から気を吸うというのを使えるようになってきていた。
「中々難しいよな。これ」
「はい……ですが、無双活性でしたか? それを長時間使えるようになりました」
そう、アトラはもう無双活性を長時間維持する事が出来るようになった。
だが、俺は外から気を吸う事は出来ても無双活性の方は全く上手く使える様子は無い。
「ごしゅじんさま、またやってるのー? フィーロも混ぜてー」
俺達が外から気を吸う練習の手本にフィーロを呼んでやらせていると、なんとフィーロも使えるようになってしまった。
俺の所の天才タイプは容易くしてくれるもんだ。
フィーロは魔力回復というポーズでこの外の気を吸うというのを使っていたが、気を吸いながら動く練習を一日するだけで、動き回れるようになってしまった。
勝手に強くなるとは……便利な奴だ。
しかもフィーロは無意識に無双活性を使っていたようで、前よりも機敏に動けるようになった。
何処まで強くなるんだよ、お前等は。
ただ、フィーロの方は点とか、変幻無双流の技は使えないけどさ。あまりある力で無理やりねじ伏せるとか出来るのだから良いだろ。
「ふぇえ……ナオフミさん達は師範から教わって無いのに使えるようになったんですかー」
「まあな」
リーシアが樹の世話をしている最中に通りかかる。
「あんなに頑張って覚えたのに、それは無いですよぉ……」
そりゃあ、リーシアからしたらアトラ達は天才だろうな。
でもあのババアはリーシアこそ逸材だと言っていたし、樹との戦いを見ると、お前も相当な天才だと思うぞ。WENICKMANペニス増大
アトラとフィーロの無双活性ってリーシアがしていた無双活性と何か違う気がするんだよな。
あくまで見よう見まねで、精度が違うと言うか。
それでも遜色はないとリーシアは言っている。
でもなんか違うような気がするんだがなぁ……。
ああ、そうそう。俺が無双活性が出来ないのと同じ理由なのか、リーシアは何故か無双活性が出来なくなったらしい。
それでも問題無く戦えると言うか前より戦いやすくなったとか。
勇者には使えない理由でもあるんだろう。
「じゃあ使えるようになった二人にはちゃんと注意しておきますよぅ」
「なんですか?」
「なーに?」
「あんまり長時間の無双活性は控えた方が良いですよ。じゃないと体が持ちません」
ああ、そう言うタイプのブーストな訳ね。
漫画やアニメとかだと長時間使用すると体に負担が掛って戦えなくなるとかそう言ったペナルティがあるんだよな。
主人公なんかは、重要な局面でそれを使って二度と戦えなくなるが、克服するとか、何か別の力に目覚めたりする。
まあ俺達はそんな都合良く行かないだろうけどさ。
おそらくだが、リーシアは外部から気を取り入れる事が天才的に上手いんだろう。
元々内部にある気……というか魔力はLvが上がった現在でも高い方では無いし、理由付けするとそれしか思いつかない。
後は、アトラやフィーロはどんなに長時間使用するにしても、限界時間があるみたいだ。
内部だけで使えば一分程度、外部からで五分程度、みたいな感じだった。
リーシアはその点、ずっと使っていたな。
「そうですね。体中の骨がビシビシと音を立てる時がありますし、ここぞと言う時以外は攻撃の瞬間にだけ使うのが良さそうです」
「そーだねー」
女騎士とかの無双活性は元々の効果が低く、持続時間もそこまで無いから気にする必要が無いという所か?
ふむ……見よう見まねだけど奥が深いな。procomil spray
「っと、そろそろ飯の時間か」
修業を中断して俺は昼飯の準備をする為に食堂へ向かった。
そして下ごしらえを任せていた奴隷と一緒に料理を作る。
川や井戸に流された毒の浄化は既にバイオプラントを改良して済ました。
まったく、三勇教の連中も碌な事をしないよな。
ああ、三勇教の連中は昨日処刑された。
代表のシスターはヴィッチと同じくフォーブレイの豚刑で、他の幹部はアイアンメイデンだ。
イメージの関係からか、民衆の前に俺は出ず、処刑人の一人の振りをして見せられた。
現代日本で育ったからか、やっぱり公開処刑を見るのはあんまり精神に良くなかったなぁ。
昨日は悪夢を見た。
民衆共は被害もあって、野次を飛ばしつつ、熱心に見ていた。
俺の世界の中世でもこう言った出来事は民衆のガス抜きに使われていたらしいというのを何かの本で読んだ覚えがある。
本当かは知らないけどさ。
本能的な解消と言うのだろうか?
焚き火を見るとなんか感じるような物に似ている気がする。
拷問器具であるはずのアイアンメイデンが処刑に使われるというのはどうなんだ?
叫び声が城下町の広場に轟いて、トラウマになりそうだった。
そうそう、鎧やその他、何処に居たのか知らない樹の元配下も処刑された。
皮肉な事に真鍮製の牛に入れられて燻製にされる処刑具。
俺の世界だとファラリスの雄牛だったか。
樹が使ったカーススキルだ。
鎧の奴、自分が今から殺されると知るや震えながら命乞いをし、腰が抜けていたっけ。
凄い絶叫が雄牛を象った像から聞こえてきた。
うん。やっぱり残酷な世界だよな。
悪人は処刑すべきだと思うけど、いざその光景に遭遇すると頭がクラクラとした。
爽快感も糞も無い。
自らの手で殺すとかだと……爽快だったのか?西班牙蒼蝿水
考えてみれば俺はブルートオプファーで教皇を殺しているんだよな……。
あの時は爽快感も糞も無く、体の痛みしかなかった。
やっぱり良く分からないな。
今更人殺し云々で悩む事は無いが、惨たらしい死に方を見るのはあまり気分が良い物じゃない。
う……昨日の事を思い出していたら肉料理が食いたく無くなった。
人が焼ける匂いがあの時はしてたし、血生臭いのはちょっと控えたいな。
「兄ちゃん! ご飯!」
ふんどし犬が興奮気味に俺が盛る飯を欲しがる。
「よし」
俺は別口で用意していた地に落ちたクレープを乗せた皿をふんどし犬の足元に置く。
みんな、俺の方を見て絶句している。
何を絶句しているんだ? 俺は決めた事はする男だ。
例え洗脳された状態だったとしても、あんな事を口走った奴に相応の罰を与えなければならない。
むしろこの程度の罰で済むだけ感謝してもらいたい位だ。
要するにふんどし犬だけ今日は貧相なクレープだ。
「忘れたとは言わせないからな。それが今日のお前の飯だ」
ちなみに他の奴等にはいつもより少しだけ豪華にしてある。
これで少しは自分がむざむざ敵に洗脳された事を反省するだろう。
もちろん、後で飯を分けてやるがな。
「兄ちゃんありがとう!」
「な――」
ガツガツとふんどし犬はクレープを犬食いし始めた。
他の奴隷共はふんどし犬に視線を向けて口をパクパクさせている。
「へへ」
すっげー優越感に満ちた目でふんどし犬は食堂にいる他の奴隷共を見渡す。
奴隷共は唾を飲む様にキールが完食した皿を見つめている。
谷子と一緒に飯を食べていた錬も、なんか絶句している。
「な、なんだ? なんて言うか、キールが食べた奴だけ凄く美味そうに、特別に作って貰ったかの様に見えてくる」
「うん」
「盾のお兄ちゃん。私もクレープ頂戴」
「俺も!」
「僕も!」
「そう言う意味で出した訳じゃねえから!」
お仕置きだよ!
なんでふんどし犬だけ特別に作ってやったみたいな状態になってんだ!
まったく、こいつ等は……前向きに取り過ぎだ!西班牙蒼蝿水口服液+遅延増大
2014年4月22日星期二
共闘
「一体どうなっているんだ!?」
再度樹に尋ねる。
「状況を報告しろ」
「わかりました!」
波から溢れ出る魔物の前に立って流星盾Ⅹを展開し、村の連中を守る。
そこに樹が大きく声を上げて報告してくれていた。簡約痩身美体カプセル
その隣でリーシアが投擲武器を投げて応戦している。
武器の姿が半透明からしっかりとした七星武器になっている。
まあ、盾の精霊とアトラが教えてくれた通り、七星武器を解放したお陰で、リーシアは投擲武器の七星勇者として正式に認定されたのだろう。
波の方はまだ全体を把握しきれないが、戦場が大々的に広がり、拡大してしまっているようだ。
波の根元はどうなっている?
一応、元康と三色フィロリアルがいるようだけど、遠くて、しかも魔物が多くて把握しきれない。
「僕達は波に参加したのですが、魔物のLvが高くて苦戦している、と言う状況です」
俺は次元ノと付く魔物のLvを確認する。
次元ノホロビドリ Lv220
「220!? いきなり数字が跳ね上がったな」
幾らなんでもこんな数字なら確かに苦戦するのも頷ける。
と言うかLv100帯では戦うのも危険な領域だぞ!
まあ、援護魔法さえあればその限りでは無いのだろうが。
樹の援護魔法で辛うじてみんな戦えていると言う状況か。
「それだけじゃないんだろ?」
シュンと言う音と共に後方に杖を持ったクズが現れた。
他にもメルロマクルの兵や連合軍を連れてきてくれた様だ。
「こ、これは……」
「調度良い所にきた! クズ、指揮を頼む。援護魔法は絶対に切らすなよ」
「わかりましたじゃ!」
クズは杖の勇者だから大抵の魔法を使う事が出来る。
それは勇者の魔法もだ。
俺は魔法屋から魔法書に魔法の書き方を教わって、クズに教えておいた。
まあ、一応概念的な物しか教えていないからリベレイションは唱えられないけれどドライファクラスなら唱えられるはずだ。
「戦場の方はどうなった?」
「メルロマルクと連合軍の圧勝、フォーブレイ軍は投降しておりますじゃ。緊急事態にワシ達とイワタニ様の有能な者達と連合軍でまだ戦える者達を連れてきました」
そこにはキールと谷子、ラトとミー君がいた。
「兄ちゃん! 俺、頑張ったよ!」
「そうか、よくやったな」
キールに労いの言葉を伝える。
これだけ元気という事は、きっと戦場では大活躍だったんだろうな。
ん? よく見ると谷子が見慣れぬ鞭を持っている。
ま、まさか……コイツ……。
いや、魔物好きだし、資質的にはありえるのか?
「どうやらこの子が次の鞭の七星勇者に選ばれたようじゃ」
「キュアアアー!」
ガエリオンが谷子に向かって飛んで行く。
戦闘中だぞ!
「そうだったのか。じゃあ任せたぞ!」
「違う……本当は私じゃない……」
谷子が何やら震えながら俺に答える。
「このババア! 事もあろうに私を盾にしたのよ」
「何言ってんのよ。その鞭はアンタを選んだんじゃない」西班牙蒼蝿水口服液+遅延増大
「絶対違う!」
「ラフー」
戦車型のミー君が二人を宥めようと声を掛けている。
同様にガエリオンが二人の真ん中に入って止めた。
何をしているのやら……。
「鞭の勇者なんて絶対イヤよ! 私は研究者だもの!」
「私も戦えたらいいと思ってたけど勇者の力なんていらないわ!」
鞭が淡い光を放ちながらラトと谷子を行き来している。
まだ確定していないのか?
戦力になってくれるなら、どっちでもいいけどさ。
精霊の方も大変そうだな。
「お前等……いい加減に戦え! 鞭に選ばれたんだろうが!」
「うー……」
まあ、二人揃って援護系だし、見た感じ援護能力が高そうな鞭なんだから良いじゃないのか?
目立ちたくないとかそういう事か?
勇者に良いイメージ無いだろうしな二人とも。
ラトは、鞭の勇者に国を追われた訳で、谷子は勇者に育ての親を殺されている。
そう言う事なんだろう。
そして鞭と言うのは魔物使い的なイメージが強い。
資格は十分と言う事か。
「キュア!」
ガエリオンの背に谷子は乗って波に向かって飛んで行く。
安心しろ。お前が今乗っているのは今までのガエリオンでは無い。
フォーブレイの竜帝から欠片を奪った、現在世界で一番竜帝の欠片を所持しているドラゴンだ。
「行け! ガエリオン!」
「キュアアアア!」
俺の命令に従って、ガエリオンが巨竜となって戦場に炎を巻き散らす。
おお、凄いパワーアップ。
谷子も鞭の力でガエリオンに援護スキルを使っているようだ。
後で講義してやらないとな。
ラフタリアやフィーロもそうだけど。
「で? 樹、どうなっているんだ?」
俺達は戦いながら口を動かす。西班牙蒼蝿水
それ位切羽詰まった状態だ。
「はい。ただでさえ、魔物が強くなっているのは元より……尚文さんからしたら前回の赤い砂時計の波で遭遇したグラスという敵までやってきました」
「やはりか……それで?」
「それから先は魔物が溢れてこうして分断されています。後は……波の根元で戦っている元康さんとフィロリアル達に聞いてください!」
「わかった!」
樹やリーシアも状況を全て察している訳ではないと言う事か。
砂時計の残り時間もかなり目減りしている。
警報のように点灯する砂時計が非常に危険なのだと俺達に教えてくれる。
「ラフタリア! フォウル! 波の根元に向かって突っ込む! ついてこい!」
「おう!」
「はい!」
「ラフー!」
俺の号令を汲み取ったのか、後方で戦車をぶっ放していたフィロリアルが、俺達の行く先をなぎ払う。
あれ……多分フィトリアだよな。
あの戦車……まあ良い。後回しだ。
高Lvの魔物を盾で押し込みながら俺達は波の根元に到着した。
「でりゃあああああああああ!」
「く……その盾……お前はナオフミ! やっと本物が到着ですか」
そこには、なんと元康とグラスが力を合わせて波の根源である亀裂に向かってスキルを放っている最中だった。
この二人を守りながら、見慣れぬ斧を所持したみどりが筆頭になって魔物を屠っている。
「いったい……何故お前が元康達と一緒に戦っている」
「最初は、私も命がけで突撃して来ました……ですが、今はそれ所ではありません! 早く波を抑えねば大変な事になります!」
「ああ……知っている。だが、俺は傷付ける術を持っていない。だから……みんなを守る為にここに居る!」
波とはどういう現象なのかを盾の精霊から聞いている。
それが本当なら……グラスが何故ここで味方として戦っているのかもある程度察する事が出来る。
今回は亀裂自体に直接攻撃か。
樹の情報が適応しないタイプか。
俺は盾に意識を集中し、気を込め同時に……放つ。
「流星壁Ⅹ!」
そう、このスキルはアトラが俺に授けてくれた慈悲の盾に内包されていたスキル。
効果は……俺が味方だと思う者全てに流星盾を展開すると言う高度なモノだ。
しかも陣形を組んでいるとその範囲は目に見えて拡大する。
今、波の根源に居る者達全てに掛り、元康をはじめ、グラス、みどりを筆頭としたフィロリアル全てに掛って、大きな結界が形成されている。
もちろん、デメリットも存在する。
この流星壁で受けるダメージの一部は俺が肩代わりする。
俺の防御力を超えられるのならな?
「これは……」
グラスは流星壁のバリアに驚いている。procomil spray
「これならば……輪舞無ノ型・無想!」
――直後グラスの体が消え、次の瞬間亀裂から大きな打撃音が響く。
ほんの一瞬だけ見えたが、グラスが瞬間移動の如く左右の手に握られた扇子で攻撃を繰り返していた。
その速度はリベレイション・オーラで上昇していた俺の視力でも追うのがやっとだ。
さすがは世界を守る者って事か?
今後どうなるかはわからないが、今は味方でよかったな。
と、思った直後、グラスを守っていた流星壁がバリンと砕ける。
スキルの効果か何かだろう。
実際、少しだけ俺にもダメージが入っている。
直前のグラスの態度から諸刃の刃的な技って所か。
俺は再度流星壁を使い、防御壁を張り直す。
「今だ! 出来る限り早く! 波を抑えろ!」
「わかりました、お義父さん! ブリューナクⅩ!」
「わかった! 輪舞閃ノ型・五月雨!」
「トールハンマー!」
「ラフー」
「キュアアアアア!」
「滅竜烈火拳Ⅹ!」
「アクセルスマッシュ!」
「雷撃鞭!」
それぞれ、波の根元にまで近付いた味方達が各々の必殺技を放つ。
亀裂に向かって大きな衝撃が与えられ、爆発にも似た攻撃が命中する。
しかし、波の亀裂は動じずに、広がろうとしていた。
「く……」
複数の魔物達の妨害から皆を流星壁で守っているが、徐々に厳しくなってきている。
腐っても最低Lv200以上はある魔物だ。
タクトや取り巻きの女共の比では無い程の力を秘めている。
単体ならどうにか出来るが、この数では厳しい。
まだ破られていないのが救いだな。
ブルートオプファーのあるラースシールドは慈悲の盾のお陰で今の所使えない。
タクトに攻撃された時は出来そうだったが、今は無理のようだ。
更にはエアスト・シールドやセカンド・シールド、フロートシールドなどを駆使して、俺は接近してくる敵を吹き飛ばしたり、攻撃に集中している味方を庇う。
それが盾の勇者である俺に課せられた事で、俺にしか出来ない事だ。
「ヘブンズジャッジメントⅩ!」
「クエー!」
後方からも援護射撃が飛んでくる。
ここに居る勇者総出だな。
そのお陰か、波の広がりが……ゆっくりとなり、止まった。
「よし!」
これで止まるはず。
そして……。
ピシっと嫌な音が世界に響いた。
白い閃光が波の根元から溢れだし、俺達は目が眩む。
「辛うじて、最悪の事態を抑えることが出来ましたが……」
グラスの言葉が耳に入る。
そして閃光が過ぎ去ったあと……俺達は波で何が起こったのか、俺が盾の精霊から聞いたことが真実であった事が証明される事となった。WENICKMANペニス増大
再度樹に尋ねる。
「状況を報告しろ」
「わかりました!」
波から溢れ出る魔物の前に立って流星盾Ⅹを展開し、村の連中を守る。
そこに樹が大きく声を上げて報告してくれていた。簡約痩身美体カプセル
その隣でリーシアが投擲武器を投げて応戦している。
武器の姿が半透明からしっかりとした七星武器になっている。
まあ、盾の精霊とアトラが教えてくれた通り、七星武器を解放したお陰で、リーシアは投擲武器の七星勇者として正式に認定されたのだろう。
波の方はまだ全体を把握しきれないが、戦場が大々的に広がり、拡大してしまっているようだ。
波の根元はどうなっている?
一応、元康と三色フィロリアルがいるようだけど、遠くて、しかも魔物が多くて把握しきれない。
「僕達は波に参加したのですが、魔物のLvが高くて苦戦している、と言う状況です」
俺は次元ノと付く魔物のLvを確認する。
次元ノホロビドリ Lv220
「220!? いきなり数字が跳ね上がったな」
幾らなんでもこんな数字なら確かに苦戦するのも頷ける。
と言うかLv100帯では戦うのも危険な領域だぞ!
まあ、援護魔法さえあればその限りでは無いのだろうが。
樹の援護魔法で辛うじてみんな戦えていると言う状況か。
「それだけじゃないんだろ?」
シュンと言う音と共に後方に杖を持ったクズが現れた。
他にもメルロマクルの兵や連合軍を連れてきてくれた様だ。
「こ、これは……」
「調度良い所にきた! クズ、指揮を頼む。援護魔法は絶対に切らすなよ」
「わかりましたじゃ!」
クズは杖の勇者だから大抵の魔法を使う事が出来る。
それは勇者の魔法もだ。
俺は魔法屋から魔法書に魔法の書き方を教わって、クズに教えておいた。
まあ、一応概念的な物しか教えていないからリベレイションは唱えられないけれどドライファクラスなら唱えられるはずだ。
「戦場の方はどうなった?」
「メルロマルクと連合軍の圧勝、フォーブレイ軍は投降しておりますじゃ。緊急事態にワシ達とイワタニ様の有能な者達と連合軍でまだ戦える者達を連れてきました」
そこにはキールと谷子、ラトとミー君がいた。
「兄ちゃん! 俺、頑張ったよ!」
「そうか、よくやったな」
キールに労いの言葉を伝える。
これだけ元気という事は、きっと戦場では大活躍だったんだろうな。
ん? よく見ると谷子が見慣れぬ鞭を持っている。
ま、まさか……コイツ……。
いや、魔物好きだし、資質的にはありえるのか?
「どうやらこの子が次の鞭の七星勇者に選ばれたようじゃ」
「キュアアアー!」
ガエリオンが谷子に向かって飛んで行く。
戦闘中だぞ!
「そうだったのか。じゃあ任せたぞ!」
「違う……本当は私じゃない……」
谷子が何やら震えながら俺に答える。
「このババア! 事もあろうに私を盾にしたのよ」
「何言ってんのよ。その鞭はアンタを選んだんじゃない」西班牙蒼蝿水口服液+遅延増大
「絶対違う!」
「ラフー」
戦車型のミー君が二人を宥めようと声を掛けている。
同様にガエリオンが二人の真ん中に入って止めた。
何をしているのやら……。
「鞭の勇者なんて絶対イヤよ! 私は研究者だもの!」
「私も戦えたらいいと思ってたけど勇者の力なんていらないわ!」
鞭が淡い光を放ちながらラトと谷子を行き来している。
まだ確定していないのか?
戦力になってくれるなら、どっちでもいいけどさ。
精霊の方も大変そうだな。
「お前等……いい加減に戦え! 鞭に選ばれたんだろうが!」
「うー……」
まあ、二人揃って援護系だし、見た感じ援護能力が高そうな鞭なんだから良いじゃないのか?
目立ちたくないとかそういう事か?
勇者に良いイメージ無いだろうしな二人とも。
ラトは、鞭の勇者に国を追われた訳で、谷子は勇者に育ての親を殺されている。
そう言う事なんだろう。
そして鞭と言うのは魔物使い的なイメージが強い。
資格は十分と言う事か。
「キュア!」
ガエリオンの背に谷子は乗って波に向かって飛んで行く。
安心しろ。お前が今乗っているのは今までのガエリオンでは無い。
フォーブレイの竜帝から欠片を奪った、現在世界で一番竜帝の欠片を所持しているドラゴンだ。
「行け! ガエリオン!」
「キュアアアア!」
俺の命令に従って、ガエリオンが巨竜となって戦場に炎を巻き散らす。
おお、凄いパワーアップ。
谷子も鞭の力でガエリオンに援護スキルを使っているようだ。
後で講義してやらないとな。
ラフタリアやフィーロもそうだけど。
「で? 樹、どうなっているんだ?」
俺達は戦いながら口を動かす。西班牙蒼蝿水
それ位切羽詰まった状態だ。
「はい。ただでさえ、魔物が強くなっているのは元より……尚文さんからしたら前回の赤い砂時計の波で遭遇したグラスという敵までやってきました」
「やはりか……それで?」
「それから先は魔物が溢れてこうして分断されています。後は……波の根元で戦っている元康さんとフィロリアル達に聞いてください!」
「わかった!」
樹やリーシアも状況を全て察している訳ではないと言う事か。
砂時計の残り時間もかなり目減りしている。
警報のように点灯する砂時計が非常に危険なのだと俺達に教えてくれる。
「ラフタリア! フォウル! 波の根元に向かって突っ込む! ついてこい!」
「おう!」
「はい!」
「ラフー!」
俺の号令を汲み取ったのか、後方で戦車をぶっ放していたフィロリアルが、俺達の行く先をなぎ払う。
あれ……多分フィトリアだよな。
あの戦車……まあ良い。後回しだ。
高Lvの魔物を盾で押し込みながら俺達は波の根元に到着した。
「でりゃあああああああああ!」
「く……その盾……お前はナオフミ! やっと本物が到着ですか」
そこには、なんと元康とグラスが力を合わせて波の根源である亀裂に向かってスキルを放っている最中だった。
この二人を守りながら、見慣れぬ斧を所持したみどりが筆頭になって魔物を屠っている。
「いったい……何故お前が元康達と一緒に戦っている」
「最初は、私も命がけで突撃して来ました……ですが、今はそれ所ではありません! 早く波を抑えねば大変な事になります!」
「ああ……知っている。だが、俺は傷付ける術を持っていない。だから……みんなを守る為にここに居る!」
波とはどういう現象なのかを盾の精霊から聞いている。
それが本当なら……グラスが何故ここで味方として戦っているのかもある程度察する事が出来る。
今回は亀裂自体に直接攻撃か。
樹の情報が適応しないタイプか。
俺は盾に意識を集中し、気を込め同時に……放つ。
「流星壁Ⅹ!」
そう、このスキルはアトラが俺に授けてくれた慈悲の盾に内包されていたスキル。
効果は……俺が味方だと思う者全てに流星盾を展開すると言う高度なモノだ。
しかも陣形を組んでいるとその範囲は目に見えて拡大する。
今、波の根源に居る者達全てに掛り、元康をはじめ、グラス、みどりを筆頭としたフィロリアル全てに掛って、大きな結界が形成されている。
もちろん、デメリットも存在する。
この流星壁で受けるダメージの一部は俺が肩代わりする。
俺の防御力を超えられるのならな?
「これは……」
グラスは流星壁のバリアに驚いている。procomil spray
「これならば……輪舞無ノ型・無想!」
――直後グラスの体が消え、次の瞬間亀裂から大きな打撃音が響く。
ほんの一瞬だけ見えたが、グラスが瞬間移動の如く左右の手に握られた扇子で攻撃を繰り返していた。
その速度はリベレイション・オーラで上昇していた俺の視力でも追うのがやっとだ。
さすがは世界を守る者って事か?
今後どうなるかはわからないが、今は味方でよかったな。
と、思った直後、グラスを守っていた流星壁がバリンと砕ける。
スキルの効果か何かだろう。
実際、少しだけ俺にもダメージが入っている。
直前のグラスの態度から諸刃の刃的な技って所か。
俺は再度流星壁を使い、防御壁を張り直す。
「今だ! 出来る限り早く! 波を抑えろ!」
「わかりました、お義父さん! ブリューナクⅩ!」
「わかった! 輪舞閃ノ型・五月雨!」
「トールハンマー!」
「ラフー」
「キュアアアアア!」
「滅竜烈火拳Ⅹ!」
「アクセルスマッシュ!」
「雷撃鞭!」
それぞれ、波の根元にまで近付いた味方達が各々の必殺技を放つ。
亀裂に向かって大きな衝撃が与えられ、爆発にも似た攻撃が命中する。
しかし、波の亀裂は動じずに、広がろうとしていた。
「く……」
複数の魔物達の妨害から皆を流星壁で守っているが、徐々に厳しくなってきている。
腐っても最低Lv200以上はある魔物だ。
タクトや取り巻きの女共の比では無い程の力を秘めている。
単体ならどうにか出来るが、この数では厳しい。
まだ破られていないのが救いだな。
ブルートオプファーのあるラースシールドは慈悲の盾のお陰で今の所使えない。
タクトに攻撃された時は出来そうだったが、今は無理のようだ。
更にはエアスト・シールドやセカンド・シールド、フロートシールドなどを駆使して、俺は接近してくる敵を吹き飛ばしたり、攻撃に集中している味方を庇う。
それが盾の勇者である俺に課せられた事で、俺にしか出来ない事だ。
「ヘブンズジャッジメントⅩ!」
「クエー!」
後方からも援護射撃が飛んでくる。
ここに居る勇者総出だな。
そのお陰か、波の広がりが……ゆっくりとなり、止まった。
「よし!」
これで止まるはず。
そして……。
ピシっと嫌な音が世界に響いた。
白い閃光が波の根元から溢れだし、俺達は目が眩む。
「辛うじて、最悪の事態を抑えることが出来ましたが……」
グラスの言葉が耳に入る。
そして閃光が過ぎ去ったあと……俺達は波で何が起こったのか、俺が盾の精霊から聞いたことが真実であった事が証明される事となった。WENICKMANペニス増大
2014年4月18日星期五
悪魔再び
サトゥーです。「腕に注意を払わねば」そう呟いていたのに途中から完全に忘れていたうっかり者のサトゥーです。
もっとも腕一本。さっくり潰して終わりにしましょう。巨根
「な、なんだこの腕は?!」
体の重要な臓器を鋭い爪で引き裂かれザイクーオンのデブ神官は即死した。
そして、その毒爪を揮ったウースは事態についていけないようだ……。
「あ、あの腕は!」
「やっぱり昨日の、ですよね?」
ゼナさんがコクリと頷く。
「何か知っているのか?」
「昨日、領主様の城を襲った上級魔族の腕です」
美中年神官が聞いてくるのに律儀に応えるゼナさん。
……どういう状況だ。
ウースが元から魔族だったっていう線は無いはず。
ならば、理由も方法も分からないがウースを宿主として寄生したか。
ウースの情報をもう一度チェックする。
……あった、「状態異常:悪魔憑き」。さっきここまで見ていれば!
チートも使いこなさなければ無意味か……いや反省は後だ。
問題はどう倒すかだ。
「力ずくで引き抜いたら、あの男も死にそうだし、どうしましょうか?」
「そんな悠長な事を言ってる場合じゃありません、すぐさま応援を呼ばないと!」
「足止めできるかやってみるぞ! ■■■■ ■■■■■ ■■ ■■■■■■……」
神官の詠唱って長い。
「ゼナさんは応援を呼びに行ってください。中央通りまで出て風魔法で声を届けるのが一番早いでしょう」
とりあえずゼナさんには安全圏に行ってもらおう。
すこし躊躇った後、ゼナさんは「すぐ戻ります」と言って駆けて行った。
毒爪はこちらを攻撃しようとするがウースが腰を抜かしてへたりこんでいるために、爪が届かない。
腕はウースの胸のあたりから生えている。
始めは1メートルほどだった腕だが少しずつ太く長くなってきている。
成長してるのか?
群集から投げられた聖石がウースの側頭部に当たる。けっこういい音がした。
今度は背後から飛来した一本の矢がウースの延髄に突き立つ。呆気に取られていると、続けてさらに3本の矢が突き立つ。
振り返ると物陰から2人の狩人が弓を構えていた。狼一号
「……獲物は倒せるときに倒しておくものだ」
君らいつの間に現れた。
しかし命の軽い世界だな~。とりあえず助かりそうか試さないんだね。オレが平和ボケしているだけかもしれないが。
倒れたはずのウースだった死体がキョンシーのように体の関節を曲げずビデオの逆回しのように起き上がる。その体からは黒い光?が漏れ出している。
「ムシケラよ、邪魔な宿主の脳を破壊してくれて助かった。ワガハイ感謝」
……悪魔君、キミ喋らない方がよかった。
「……■■■■ ■■■■■ 封魔の円陣《サークル・オブ・アンチエビル》!」
「こざかしい。ワガハイ失笑」
淡々と呪文を唱えていた美中年神官の魔法が発動し、腕悪魔を封じる光の魔法陣を作り出す。
失笑と言ってる割に腕悪魔は魔法陣から出れないようだ。
「ぐぬぬぬぬ。人間の喉では魔法が使えぬ! ワガハイ誤算」
美中年神官は次の呪文詠唱を始めている。
狩人達は矢で倒せない相手と判断したのか撤退して行った。
広場にいるのはオレと美中年神官、それと獣娘3人だけだ。
もっとも気にはなるのか広場の周りの建物の影から覗いている。
みんな逃げるの早いな~。
獣娘達は広場に打たれた杭に鎖で繋がれているので逃げれないようだ。
とりあえず獣娘達の安全を確保しないと。何のためにデブ神官と揉めたのか分からなくなる。
鎖を引きちぎったら、流石に目立ちそうなので、杭をズボッと抜いてそのまま広場から連れ出していった。さほど力を込めたように見えなかった筈だから地面が緩かったと思ってくれるだろう。
「危ないから、さっさと避難して。鎖を外せないから3人一緒に丈夫そうな建物の影にでも隠れてるんだ」三體牛鞭
「ムリ、にぇす」
猫人が、つかえながら恐る恐る言う。どうもウースに『この場所から動くな』と命令されているらしく逆らうと首輪がしまって死んでしまうらしい……。厄介な。
軍が到着するのを待つのは却下だな。前より戦力が落ちている上に、砲も運んでこれるだけの道幅がない。騎馬が助走する空間もない。魔法使いも激減している。
これじゃ到着を待っても悪戯に被害が増すだけだ。ゼナさんや三人娘をこんな所で散らせたくないしな。
仮面勇者に化けて、削れるだけ削ってから美中年神官の神聖魔法で止めを刺して貰う……で行くか。
腕悪魔がやっかいな事を始める前に『変身(笑)』だな。
「そこのキサマ。虫けらの分際で無視するとは、ワガハイ立腹!」
腕悪魔の方を向く。AR表示がウースから悪魔族に変わっている。名前も出ているが普通の文字ではなく発音記号が並んでいる。
完全にウースは飲み込まれたか。
腕悪魔を視界に入れたまま検索すると、獣娘達も『主人なし』に変わっている。
「キサマ、何者ダ? ワガハイ不快」
「とりあえず確認するが、あんたウースじゃなくて魔族だな?」
「ま、待ってくれ! 俺はウースだ! この腕を取ってくれ、死にたくない! 助けて!!」
あれ? 意識があるのか?
一瞬思考が空転した隙に、腕悪魔が毒爪を3本『発射』してきた!
「ムフフフッフ~。人間はこうやると同じ反応をするウ~。ワガハイ愉快痛快」
毒爪は手に持っていた鎖付きの杭で間一髪受け止めた。杭は見る見る変色してボロボロに砕け落ちる。
「うぬぬぬぬ、あれを受け止めルとは、ワガハイ驚愕!」
足元の聖石を拾う。これで削るか?
男の顎が狼男の変身シーンのようにぐぐっとせり出してくる。
変身完了前に石を顔に投げつけるが毒爪に弾かれる。
「フシュルルルル~。コレデ喋リやすクなた。ワガハイ感激♪」
こっちは聞き取り辛くなったぞ。
「■■■ 聖槍《セイクリッド・ジャベリン》」
空気と化していた美中年神官から光の槍が飛ぶ。男宝
「ワガハイ、笑止」
腕悪魔が一声吼えると闇色の障壁が生まれ光の槍の進路が反らされた。
やはり喋りやすくなっただけじゃなく魔法も使えるようになっていたか。
「みんな早く広場から離れろ! 攻撃魔法が来るぞ!!!」
必死に声を張り上げ、広場を覗き込んでいる民衆に伝える!
>「拡声スキルを得た」
「先程まデの騒ギ、恐怖、不安、偏見、傲慢、ジツに好ましい! ワガハイ満足」
オレは兎も角、このままだといずれ獣娘達が死んでしまう。
腕悪魔から一際大きく長い咆哮が轟く。
「故に、コノ地に我が巣穴を創ル。嬉シかロウ? ワガハイ勤労!」
獣娘達を担いで逃げるか? 目立つが仕方ないだろう。
結果的に、そんな心配は杞憂だったようだ、事態はもっと迅速に展開する。
足元の地面が昭和の特撮のように歪む。確かに硬い地面のままなのに、暗い紫色の光を放ちながら、ゆがみ、ねじれ、ひきのばされて行き……閃光が『黒く』染める。
光が収まると、そこは洞窟のような場所だった。地面はそのままなのに、それ以外が剥き出しの岩肌になっている。半径10メートルほどの空間か、壁の一つに出口が見える。
床からうっすらと紫色の光が漏れているので何とか見える。
この場所にいるのは鎖を持ったままだった犬娘と猫娘、それと肩に担ぎ上げた状態だった蜥蜴娘だけだ。
近くにいたはずの腕悪魔や美中年神官は居ない。
「ワガハイの迷宮にヨウコソ。マダ名前はないガ、魔物ハ今から創っテやル感謝スルガよイ。ワガハイ、勤勉!」
どこかから腕悪魔の声がする。テレパシーとかでは無さそうだが?
犬娘が天井の一角を指差している。どうもそこにある風穴から声が聞こえているようだ。
「ワガハイの完全復活のタメ存分に恐怖シロ! 殺シあえ! 奪イ合うガいい。ワガハイ、奨励!」
少し間をおいてから腕悪魔の声が続く。
「諦念ハ魂ガすかスかになる、ワガハイ嫌悪」
「故に全てノ部屋は、出口ト我ノ居室へト繋ガルヨウニシタ。ワガハイ公平」
「希望の後ノ絶望を期待スル。ハゲメ餌ドモ! ワガハイ激励!」
……なるほど。VVK
ゲームでいうところの強制イベント「迷宮からの脱出ミッション」発生!って感じか。
やれやれだ。
もっとも腕一本。さっくり潰して終わりにしましょう。巨根
「な、なんだこの腕は?!」
体の重要な臓器を鋭い爪で引き裂かれザイクーオンのデブ神官は即死した。
そして、その毒爪を揮ったウースは事態についていけないようだ……。
「あ、あの腕は!」
「やっぱり昨日の、ですよね?」
ゼナさんがコクリと頷く。
「何か知っているのか?」
「昨日、領主様の城を襲った上級魔族の腕です」
美中年神官が聞いてくるのに律儀に応えるゼナさん。
……どういう状況だ。
ウースが元から魔族だったっていう線は無いはず。
ならば、理由も方法も分からないがウースを宿主として寄生したか。
ウースの情報をもう一度チェックする。
……あった、「状態異常:悪魔憑き」。さっきここまで見ていれば!
チートも使いこなさなければ無意味か……いや反省は後だ。
問題はどう倒すかだ。
「力ずくで引き抜いたら、あの男も死にそうだし、どうしましょうか?」
「そんな悠長な事を言ってる場合じゃありません、すぐさま応援を呼ばないと!」
「足止めできるかやってみるぞ! ■■■■ ■■■■■ ■■ ■■■■■■……」
神官の詠唱って長い。
「ゼナさんは応援を呼びに行ってください。中央通りまで出て風魔法で声を届けるのが一番早いでしょう」
とりあえずゼナさんには安全圏に行ってもらおう。
すこし躊躇った後、ゼナさんは「すぐ戻ります」と言って駆けて行った。
毒爪はこちらを攻撃しようとするがウースが腰を抜かしてへたりこんでいるために、爪が届かない。
腕はウースの胸のあたりから生えている。
始めは1メートルほどだった腕だが少しずつ太く長くなってきている。
成長してるのか?
群集から投げられた聖石がウースの側頭部に当たる。けっこういい音がした。
今度は背後から飛来した一本の矢がウースの延髄に突き立つ。呆気に取られていると、続けてさらに3本の矢が突き立つ。
振り返ると物陰から2人の狩人が弓を構えていた。狼一号
「……獲物は倒せるときに倒しておくものだ」
君らいつの間に現れた。
しかし命の軽い世界だな~。とりあえず助かりそうか試さないんだね。オレが平和ボケしているだけかもしれないが。
倒れたはずのウースだった死体がキョンシーのように体の関節を曲げずビデオの逆回しのように起き上がる。その体からは黒い光?が漏れ出している。
「ムシケラよ、邪魔な宿主の脳を破壊してくれて助かった。ワガハイ感謝」
……悪魔君、キミ喋らない方がよかった。
「……■■■■ ■■■■■ 封魔の円陣《サークル・オブ・アンチエビル》!」
「こざかしい。ワガハイ失笑」
淡々と呪文を唱えていた美中年神官の魔法が発動し、腕悪魔を封じる光の魔法陣を作り出す。
失笑と言ってる割に腕悪魔は魔法陣から出れないようだ。
「ぐぬぬぬぬ。人間の喉では魔法が使えぬ! ワガハイ誤算」
美中年神官は次の呪文詠唱を始めている。
狩人達は矢で倒せない相手と判断したのか撤退して行った。
広場にいるのはオレと美中年神官、それと獣娘3人だけだ。
もっとも気にはなるのか広場の周りの建物の影から覗いている。
みんな逃げるの早いな~。
獣娘達は広場に打たれた杭に鎖で繋がれているので逃げれないようだ。
とりあえず獣娘達の安全を確保しないと。何のためにデブ神官と揉めたのか分からなくなる。
鎖を引きちぎったら、流石に目立ちそうなので、杭をズボッと抜いてそのまま広場から連れ出していった。さほど力を込めたように見えなかった筈だから地面が緩かったと思ってくれるだろう。
「危ないから、さっさと避難して。鎖を外せないから3人一緒に丈夫そうな建物の影にでも隠れてるんだ」三體牛鞭
「ムリ、にぇす」
猫人が、つかえながら恐る恐る言う。どうもウースに『この場所から動くな』と命令されているらしく逆らうと首輪がしまって死んでしまうらしい……。厄介な。
軍が到着するのを待つのは却下だな。前より戦力が落ちている上に、砲も運んでこれるだけの道幅がない。騎馬が助走する空間もない。魔法使いも激減している。
これじゃ到着を待っても悪戯に被害が増すだけだ。ゼナさんや三人娘をこんな所で散らせたくないしな。
仮面勇者に化けて、削れるだけ削ってから美中年神官の神聖魔法で止めを刺して貰う……で行くか。
腕悪魔がやっかいな事を始める前に『変身(笑)』だな。
「そこのキサマ。虫けらの分際で無視するとは、ワガハイ立腹!」
腕悪魔の方を向く。AR表示がウースから悪魔族に変わっている。名前も出ているが普通の文字ではなく発音記号が並んでいる。
完全にウースは飲み込まれたか。
腕悪魔を視界に入れたまま検索すると、獣娘達も『主人なし』に変わっている。
「キサマ、何者ダ? ワガハイ不快」
「とりあえず確認するが、あんたウースじゃなくて魔族だな?」
「ま、待ってくれ! 俺はウースだ! この腕を取ってくれ、死にたくない! 助けて!!」
あれ? 意識があるのか?
一瞬思考が空転した隙に、腕悪魔が毒爪を3本『発射』してきた!
「ムフフフッフ~。人間はこうやると同じ反応をするウ~。ワガハイ愉快痛快」
毒爪は手に持っていた鎖付きの杭で間一髪受け止めた。杭は見る見る変色してボロボロに砕け落ちる。
「うぬぬぬぬ、あれを受け止めルとは、ワガハイ驚愕!」
足元の聖石を拾う。これで削るか?
男の顎が狼男の変身シーンのようにぐぐっとせり出してくる。
変身完了前に石を顔に投げつけるが毒爪に弾かれる。
「フシュルルルル~。コレデ喋リやすクなた。ワガハイ感激♪」
こっちは聞き取り辛くなったぞ。
「■■■ 聖槍《セイクリッド・ジャベリン》」
空気と化していた美中年神官から光の槍が飛ぶ。男宝
「ワガハイ、笑止」
腕悪魔が一声吼えると闇色の障壁が生まれ光の槍の進路が反らされた。
やはり喋りやすくなっただけじゃなく魔法も使えるようになっていたか。
「みんな早く広場から離れろ! 攻撃魔法が来るぞ!!!」
必死に声を張り上げ、広場を覗き込んでいる民衆に伝える!
>「拡声スキルを得た」
「先程まデの騒ギ、恐怖、不安、偏見、傲慢、ジツに好ましい! ワガハイ満足」
オレは兎も角、このままだといずれ獣娘達が死んでしまう。
腕悪魔から一際大きく長い咆哮が轟く。
「故に、コノ地に我が巣穴を創ル。嬉シかロウ? ワガハイ勤労!」
獣娘達を担いで逃げるか? 目立つが仕方ないだろう。
結果的に、そんな心配は杞憂だったようだ、事態はもっと迅速に展開する。
足元の地面が昭和の特撮のように歪む。確かに硬い地面のままなのに、暗い紫色の光を放ちながら、ゆがみ、ねじれ、ひきのばされて行き……閃光が『黒く』染める。
光が収まると、そこは洞窟のような場所だった。地面はそのままなのに、それ以外が剥き出しの岩肌になっている。半径10メートルほどの空間か、壁の一つに出口が見える。
床からうっすらと紫色の光が漏れているので何とか見える。
この場所にいるのは鎖を持ったままだった犬娘と猫娘、それと肩に担ぎ上げた状態だった蜥蜴娘だけだ。
近くにいたはずの腕悪魔や美中年神官は居ない。
「ワガハイの迷宮にヨウコソ。マダ名前はないガ、魔物ハ今から創っテやル感謝スルガよイ。ワガハイ、勤勉!」
どこかから腕悪魔の声がする。テレパシーとかでは無さそうだが?
犬娘が天井の一角を指差している。どうもそこにある風穴から声が聞こえているようだ。
「ワガハイの完全復活のタメ存分に恐怖シロ! 殺シあえ! 奪イ合うガいい。ワガハイ、奨励!」
少し間をおいてから腕悪魔の声が続く。
「諦念ハ魂ガすかスかになる、ワガハイ嫌悪」
「故に全てノ部屋は、出口ト我ノ居室へト繋ガルヨウニシタ。ワガハイ公平」
「希望の後ノ絶望を期待スル。ハゲメ餌ドモ! ワガハイ激励!」
……なるほど。VVK
ゲームでいうところの強制イベント「迷宮からの脱出ミッション」発生!って感じか。
やれやれだ。
2014年4月16日星期三
お茶会の日々
サトゥーです。小さい頃に読んだ少女マンガでは、頻繁にお茶会をするシーンが描かれていましたが、現実では一度も見かけた事がありません。現代のお茶会は、ファミレスのドリンクバーなのかもしれませんね。花痴
あの舞踏会の翌日から、多忙な日々が始まった。
予定していた工房見学のスケジュールはそのままに、貴族のお嬢様方からお茶会のお誘いを受けれるだけ受けて訪問している。
もちろん、ローティーンの貴族の少女達が目的なのではない。もしそうなら、アリサを同行させたりしていないだろう。
あの王子からは、意外に根に持ちそうな小物感を感じたので、今後も絡まれそうな気がしている。
なので、何か変な陰謀に巻き込まれた時に、味方になってくれそうな人脈を増やそうとアリサに提案されたので、それに乗ったわけだ。
お茶会には、クレープでは無く冷めても美味しいモノを選択した。薄いパンケーキに生クリームとグルリアンの粒餡や漉し餡をサンドした、洋風の餡巻きを作って持っていく事にした。餡巻きは、ムーノ市の新銘菓という触れ込みにしてある。レシピは、ムーノ男爵宛に手紙をしたためてカリナ嬢に預けてある。ゲルトさんならレシピの再現もできるだろう。ムーノ市で入手し辛い材料については、行商人を雇って配達を依頼してある。
毎回、同じものを持っていくわけにも行かないので、オレとアリサの記憶からスイーツをメモに書き出して作れそうな品を試作して良さそうなモノを選んでいる。試作品の試食はアリサ達だけでなく、お世話になっているウォルゴック前伯爵一家にも頼んでいるのだが、なかなか好評だ。試食のし過ぎでアリサがポッチャリして来た様なのが少し心配だ。
お茶会には、カリナ嬢も連れて行こうと思ったのだが、リザ達と修行に励んでいて取り付く島もなかった。せっかくカリナ嬢に貴族の友人を作ってもらおうと思ったのだが、なかなか上手く行かないものだ。
カリナ嬢やリザ達の訓練には、トルマの紹介で軍の教練をやっていたアラサーの女性教官を雇ってある。闇雲に組み手をするよりは、修行になるだろう。オレも偶に見学させて貰っている。もちろん、カリナ嬢の特定部位では無く、訓練の仕方をだ。
お茶会の余禄として、見学を断られていた工房の見学の口利きをしてもらったり、お菓子のお礼に珍しい食材を分けてもらったりとなかなか想定外のメリットがあった。
工房見学も順調に消化して、残りは巻物工房と結界柱工房の2箇所だけだ。
昨日見学させてもらった、翠絹(かわせみきぬ)の工房は、子犬ほどもあるイモムシが吐く糸から絹糸を作っていた。このイモムシの吐く絹糸が名前の通り光の反射で翠がかっており、この糸で織った布は鉄製の鎖帷子並みの防刃性能があるらしい。
こっそりAR表示で解析させてもらった所、イモムシの餌に秘密があるようだ。主食は、普通の葉っぱだが、他にミスリル・スラグ――ミスリルを精錬した後に出る屑――を食べさせていた。翠絹の緑色の成分は、ミスリルなのかも知れない。同じ種類のイモムシは、森の奥地にそれなりに居るみたいだから、一度試してみるのもいいかもしれない。
「へ~、なかなか良い席ね」
「そうだな、闘技場の一般席の混み方を見ると、貴賓席は天国だな」
せっかく貴賓席を確保してもらっているのに一度も使わないのは悪いので、今日は初めて利用させて貰っている。闘技場は予想より広く、東京ドームの倍くらいはあるだろう。集団での馬上試合を開催する事もあるので、それなりの広さが必要なのだろう。福源春
本来なら貴賓席付きの使用人が付くらしいのだが、自前の使用人がいるから、と言って断った。
「マスター、狙撃対象を確認しました。許可を」
「ダメ」
「再考を要求します」
ナナの視線を追うと、闘技場に入場してきた選手の片方だった。
ああ、前にアシカ人族の子供を蹴っていたヤツらの兄貴分みたいな白い虎人族の男だ。いや、あいつ自身はオレに斬りかかっただけで、子供には何もしていないだろう?
対戦相手は人族で、タンという美味しそうな名前の探索者の魔法剣士だ。オレと同じミスリルの剣とバックラーの様な小盾を持っている。本戦出場枠をかけた試合だけあって、双方レベルが高い。タン氏が42レベル、白虎人が37レベルだ。戦いの水準(レベル)も高いのを期待したい。
「う~ん、この距離だとステータスが見えないわね。前評判だと魔法が使えるタンの方が勝ちそうよね」
「アリサ、そうとも言えません。白虎殿の巨躯に加え、あの巨大な大剣の射程と威力は侮れません。虎人族は、素早さと力強さを兼ね備えた武闘派の種族です。魔法を使わせて貰えるかで、勝負の行方が決まるでしょう」
おお、リザが饒舌だ。
白虎君の武器は、リザと同じような魔物の部位を使った大剣だ。攻撃力はリザの槍に劣る。前から少し疑問だったのだが、リザの槍は即席で作ったにしては強力過ぎる気がしてならない。素材がレアだったのか、場所がレアだったのか、その両方だったのかもしれない。
「サトゥー、あ~ん」
ミーアが両手に抱えていたおやつの1つをオレの口に入れてくれる。
これは、細いステック状のアメかな? この公都は砂糖が安い、ここの砂糖は黒砂糖だ。クハノウ伯領の街で買ったウギ砂糖の半額くらいだ。大河の下流でサトウキビを栽培しているので安価らしい。それでも市民に手が出せる価格ではなかったりする。
「どうしたんだ、これ?」
「買った」
「貴賓席向けに売り子の方が来ていたんです」
ミーアの小遣いの使い道は飲食関係ばかりだな。
ルルに続いてポチとタマも帰ってきた。
「タコ串~」
「イカ串も買って貰ったのです」
2人とも両手に3本ずつ持っている。ちゃんと皆の分もあるらしく、1本ずつ配っていっている。
そろそろ試合が始まるみたいだ。
あ、目が合った。
闘技場の白虎人が、大剣をこちらに向けて伸ばして睨み付けて来る。よく覚えているもんだ。本戦に出場できた亜人はいないそうだから、是非とも頑張って欲しい。
闘技場の中央付近に1メートルほどの円が50メートルほど離れた場所に2つ描いてあり、それぞれに対戦者が入る事で試合開始の合図が出るらしい。魔法自体は使用が禁止されている訳ではないが、あくまで「武闘大会」なので、遠距離から魔法で一撃で倒すとかは反則になるらしい。勃動力三体牛鞭
2人が円の中に入った所で、係員が開幕を知らせる角笛を吹く。
「白い人が突撃したのです!」
「むぐむぐ~」
「タマちゃん、食べ終わってから喋りましょうね」
ポチが食べ終わった串を振りながら解説し、タマは口の中を一杯にしたまま何か言って、ルルに怒られている。
「人族の方はバフ系の魔法で強化してから戦うみたいね」
「牽制」
「ん~、あの大剣だったら、ヘタな牽制くらい切り裂いて突っ込んでくるんじゃないかな~」
「膨張」
「あの体重と速度なら止められるか微妙ね」
「むぅ」
アリサとミーアは、魔法使いとしての視点からの考察みたいだ。
お、魔法剣士は水系の身体強化みたいだ。3秒で唱え終わったみたいだが、あの呪文は普通に唱えたら倍くらい時間が掛かるはずなんだが、標準の呪文よりも詠唱が短くなるようにアレンジしてあるみたいだな。あとは「詠唱短縮」のスキルのお陰だろう。
「ご主人様、ごーっと来て、ガツンとあたったのです」
「リザなら勝てる~?」
「むざむざ殺られるつもりはありませんが、真正面からでは、ちょっと勝てる気がしませんね」
ポチとタマがエキサイトしすぎているので、リザの両脇に縫いぐるみみたいに抱えられている。2人は抱えられた状態でも気にせずに、グリングリンと顔を動かして観戦している。振り回している尻尾と腕が千切れそうだ。
「う~ん、凄いわね、あの大剣を捌きながら呪文の詠唱を一度もしくじってないわよ」
「冷静沈着」
ミーアの買ってきたお菓子をボリボリ食べながら魔法剣士の闘い方を観察している2人。こぼれた菓子屑は、ルルが丁寧に掃除してあげている。
「マスター、私もあのような動きが出来るのでしょうか?」
「身体強化を上手く使えば出来るんじゃないかな。カリナ様も、似たような動きをしていただろう?」
「タマならできる~」
「ポチも頑張るのです!」
2人の戦いは、一見、白虎さんが優勢に見えるが、有効打が全て防がれている。魔法剣士は防戦一方だが、徐々に強化魔法(バフ)が揃ってきている。あとは纏わり付く霧(ステッキーミスト)あたりで、白虎の動きを遅くすれば勝負アリだろう。蒼蝿水
そのまま予想通りの展開で、魔法剣士の勝ちで勝負は終わった。ただ、白虎の動きを遅くしたのは、水魔法ではなく、雷の魔法付与(エンチャント)を武器に付与した一撃による麻痺だった。
その後も3試合ほど行われたが、戦士同士の地味な立会いだったのでミーアとアリサの2人は、早々に飽きて寝落ちしてしまった。玄人好みだったらしく、年配の観客が野太い声援を送っていた。
「あのハカマでしたか? あの装備は素晴らしいですね。あれほど足運びが隠せるとは思いませんでした」
リザが先ほどの試合に出ていた和装の美女の事をしきりに褒めている。
地面に下ろして貰ったポチとタマが、2人して羽織袴の剣士の真似をしていたが、上手く出来ないようだ。羽織袴の人は黒髪だったが、特に日本人とかでは無いらしい。
靴を脱いで足運びを実演してみせる。前にマンガで読んだ記憶なので、正しいかは自信が無い。
「ナメクジみたい~?」
「ヌルヌルと近づいていたのです! 拙者ナメクジでござる~」
上手く足運びができなかったポチが床に寝そべって、尺取虫のようにクイクイと動いている。それは「ナメクジじゃない」と突っ込んであげるべきなのだろうか?
「ポチちゃん、せっかくの余所行きで、床に転がった悪い子は誰かしらっ!」
「あ、あう、違うのです。ルル、これは違うのです」
「何が違うの? 悪いことをしたら?」
「ごめんなさいなのです」
「ポチ、反省~」
しまった、怒るところだったのか。ポチが反省のポーズをして謝る。
タマはちゃっかりと、ルルに便乗して怒る側に回っている。今、しゃがむ寸前だったよね? オレの目線と合うと、タマがワタワタと慌てた後に、ポチと同じ「反省」のポーズをしていた。
「マスター、飛空艇に幼生体が産まれています。アリサ、至急、あの形のクッションの作成を!」
「え~、またぁ~。もう飽きた~、やり方を教えてあげるから自分で作りなよ」
「妙案です。アリサ、指南をお願いします」
ナナの指差す先には、小型の飛空艇が停泊している。王都からやってきた高速艇だ。乗っているのは国王――では無く、その影武者さんだ。一緒に来ている大臣2名は、本物のようだ。
ナナが裁縫を覚えたら、馬車が縫いぐるみで一杯になりそうな予感がする。
アリサがナナに裁縫を覚えさせようとする横で、オレは鎧井守の皮と翠絹を使った革鎧と靴を作成していた。魔法剣士が着ていた鎧が、魔物の素材製で対衝撃や防刃性能が普通の鋼鉄の鎧より性能が高かったのを見て真似しようと思ったからだ。翠絹を裏地に使ったせいか「裁縫スキル」を取得できた。スキルを最大にして、皆のインナーを作ろう。
そういえば、たしか盗賊のアジトで手に入れたユリハ繊維とかいう素材の服もあったな。これを加工してアリサとミーアのローブに仕立て直すか。SEX DROPS
その日の晩、夜なべして皆の装備と、ポチ達の新しい靴を作った。
御伽噺の妖精さんにでもなった気分だ。
あの舞踏会の翌日から、多忙な日々が始まった。
予定していた工房見学のスケジュールはそのままに、貴族のお嬢様方からお茶会のお誘いを受けれるだけ受けて訪問している。
もちろん、ローティーンの貴族の少女達が目的なのではない。もしそうなら、アリサを同行させたりしていないだろう。
あの王子からは、意外に根に持ちそうな小物感を感じたので、今後も絡まれそうな気がしている。
なので、何か変な陰謀に巻き込まれた時に、味方になってくれそうな人脈を増やそうとアリサに提案されたので、それに乗ったわけだ。
お茶会には、クレープでは無く冷めても美味しいモノを選択した。薄いパンケーキに生クリームとグルリアンの粒餡や漉し餡をサンドした、洋風の餡巻きを作って持っていく事にした。餡巻きは、ムーノ市の新銘菓という触れ込みにしてある。レシピは、ムーノ男爵宛に手紙をしたためてカリナ嬢に預けてある。ゲルトさんならレシピの再現もできるだろう。ムーノ市で入手し辛い材料については、行商人を雇って配達を依頼してある。
毎回、同じものを持っていくわけにも行かないので、オレとアリサの記憶からスイーツをメモに書き出して作れそうな品を試作して良さそうなモノを選んでいる。試作品の試食はアリサ達だけでなく、お世話になっているウォルゴック前伯爵一家にも頼んでいるのだが、なかなか好評だ。試食のし過ぎでアリサがポッチャリして来た様なのが少し心配だ。
お茶会には、カリナ嬢も連れて行こうと思ったのだが、リザ達と修行に励んでいて取り付く島もなかった。せっかくカリナ嬢に貴族の友人を作ってもらおうと思ったのだが、なかなか上手く行かないものだ。
カリナ嬢やリザ達の訓練には、トルマの紹介で軍の教練をやっていたアラサーの女性教官を雇ってある。闇雲に組み手をするよりは、修行になるだろう。オレも偶に見学させて貰っている。もちろん、カリナ嬢の特定部位では無く、訓練の仕方をだ。
お茶会の余禄として、見学を断られていた工房の見学の口利きをしてもらったり、お菓子のお礼に珍しい食材を分けてもらったりとなかなか想定外のメリットがあった。
工房見学も順調に消化して、残りは巻物工房と結界柱工房の2箇所だけだ。
昨日見学させてもらった、翠絹(かわせみきぬ)の工房は、子犬ほどもあるイモムシが吐く糸から絹糸を作っていた。このイモムシの吐く絹糸が名前の通り光の反射で翠がかっており、この糸で織った布は鉄製の鎖帷子並みの防刃性能があるらしい。
こっそりAR表示で解析させてもらった所、イモムシの餌に秘密があるようだ。主食は、普通の葉っぱだが、他にミスリル・スラグ――ミスリルを精錬した後に出る屑――を食べさせていた。翠絹の緑色の成分は、ミスリルなのかも知れない。同じ種類のイモムシは、森の奥地にそれなりに居るみたいだから、一度試してみるのもいいかもしれない。
「へ~、なかなか良い席ね」
「そうだな、闘技場の一般席の混み方を見ると、貴賓席は天国だな」
せっかく貴賓席を確保してもらっているのに一度も使わないのは悪いので、今日は初めて利用させて貰っている。闘技場は予想より広く、東京ドームの倍くらいはあるだろう。集団での馬上試合を開催する事もあるので、それなりの広さが必要なのだろう。福源春
本来なら貴賓席付きの使用人が付くらしいのだが、自前の使用人がいるから、と言って断った。
「マスター、狙撃対象を確認しました。許可を」
「ダメ」
「再考を要求します」
ナナの視線を追うと、闘技場に入場してきた選手の片方だった。
ああ、前にアシカ人族の子供を蹴っていたヤツらの兄貴分みたいな白い虎人族の男だ。いや、あいつ自身はオレに斬りかかっただけで、子供には何もしていないだろう?
対戦相手は人族で、タンという美味しそうな名前の探索者の魔法剣士だ。オレと同じミスリルの剣とバックラーの様な小盾を持っている。本戦出場枠をかけた試合だけあって、双方レベルが高い。タン氏が42レベル、白虎人が37レベルだ。戦いの水準(レベル)も高いのを期待したい。
「う~ん、この距離だとステータスが見えないわね。前評判だと魔法が使えるタンの方が勝ちそうよね」
「アリサ、そうとも言えません。白虎殿の巨躯に加え、あの巨大な大剣の射程と威力は侮れません。虎人族は、素早さと力強さを兼ね備えた武闘派の種族です。魔法を使わせて貰えるかで、勝負の行方が決まるでしょう」
おお、リザが饒舌だ。
白虎君の武器は、リザと同じような魔物の部位を使った大剣だ。攻撃力はリザの槍に劣る。前から少し疑問だったのだが、リザの槍は即席で作ったにしては強力過ぎる気がしてならない。素材がレアだったのか、場所がレアだったのか、その両方だったのかもしれない。
「サトゥー、あ~ん」
ミーアが両手に抱えていたおやつの1つをオレの口に入れてくれる。
これは、細いステック状のアメかな? この公都は砂糖が安い、ここの砂糖は黒砂糖だ。クハノウ伯領の街で買ったウギ砂糖の半額くらいだ。大河の下流でサトウキビを栽培しているので安価らしい。それでも市民に手が出せる価格ではなかったりする。
「どうしたんだ、これ?」
「買った」
「貴賓席向けに売り子の方が来ていたんです」
ミーアの小遣いの使い道は飲食関係ばかりだな。
ルルに続いてポチとタマも帰ってきた。
「タコ串~」
「イカ串も買って貰ったのです」
2人とも両手に3本ずつ持っている。ちゃんと皆の分もあるらしく、1本ずつ配っていっている。
そろそろ試合が始まるみたいだ。
あ、目が合った。
闘技場の白虎人が、大剣をこちらに向けて伸ばして睨み付けて来る。よく覚えているもんだ。本戦に出場できた亜人はいないそうだから、是非とも頑張って欲しい。
闘技場の中央付近に1メートルほどの円が50メートルほど離れた場所に2つ描いてあり、それぞれに対戦者が入る事で試合開始の合図が出るらしい。魔法自体は使用が禁止されている訳ではないが、あくまで「武闘大会」なので、遠距離から魔法で一撃で倒すとかは反則になるらしい。勃動力三体牛鞭
2人が円の中に入った所で、係員が開幕を知らせる角笛を吹く。
「白い人が突撃したのです!」
「むぐむぐ~」
「タマちゃん、食べ終わってから喋りましょうね」
ポチが食べ終わった串を振りながら解説し、タマは口の中を一杯にしたまま何か言って、ルルに怒られている。
「人族の方はバフ系の魔法で強化してから戦うみたいね」
「牽制」
「ん~、あの大剣だったら、ヘタな牽制くらい切り裂いて突っ込んでくるんじゃないかな~」
「膨張」
「あの体重と速度なら止められるか微妙ね」
「むぅ」
アリサとミーアは、魔法使いとしての視点からの考察みたいだ。
お、魔法剣士は水系の身体強化みたいだ。3秒で唱え終わったみたいだが、あの呪文は普通に唱えたら倍くらい時間が掛かるはずなんだが、標準の呪文よりも詠唱が短くなるようにアレンジしてあるみたいだな。あとは「詠唱短縮」のスキルのお陰だろう。
「ご主人様、ごーっと来て、ガツンとあたったのです」
「リザなら勝てる~?」
「むざむざ殺られるつもりはありませんが、真正面からでは、ちょっと勝てる気がしませんね」
ポチとタマがエキサイトしすぎているので、リザの両脇に縫いぐるみみたいに抱えられている。2人は抱えられた状態でも気にせずに、グリングリンと顔を動かして観戦している。振り回している尻尾と腕が千切れそうだ。
「う~ん、凄いわね、あの大剣を捌きながら呪文の詠唱を一度もしくじってないわよ」
「冷静沈着」
ミーアの買ってきたお菓子をボリボリ食べながら魔法剣士の闘い方を観察している2人。こぼれた菓子屑は、ルルが丁寧に掃除してあげている。
「マスター、私もあのような動きが出来るのでしょうか?」
「身体強化を上手く使えば出来るんじゃないかな。カリナ様も、似たような動きをしていただろう?」
「タマならできる~」
「ポチも頑張るのです!」
2人の戦いは、一見、白虎さんが優勢に見えるが、有効打が全て防がれている。魔法剣士は防戦一方だが、徐々に強化魔法(バフ)が揃ってきている。あとは纏わり付く霧(ステッキーミスト)あたりで、白虎の動きを遅くすれば勝負アリだろう。蒼蝿水
そのまま予想通りの展開で、魔法剣士の勝ちで勝負は終わった。ただ、白虎の動きを遅くしたのは、水魔法ではなく、雷の魔法付与(エンチャント)を武器に付与した一撃による麻痺だった。
その後も3試合ほど行われたが、戦士同士の地味な立会いだったのでミーアとアリサの2人は、早々に飽きて寝落ちしてしまった。玄人好みだったらしく、年配の観客が野太い声援を送っていた。
「あのハカマでしたか? あの装備は素晴らしいですね。あれほど足運びが隠せるとは思いませんでした」
リザが先ほどの試合に出ていた和装の美女の事をしきりに褒めている。
地面に下ろして貰ったポチとタマが、2人して羽織袴の剣士の真似をしていたが、上手く出来ないようだ。羽織袴の人は黒髪だったが、特に日本人とかでは無いらしい。
靴を脱いで足運びを実演してみせる。前にマンガで読んだ記憶なので、正しいかは自信が無い。
「ナメクジみたい~?」
「ヌルヌルと近づいていたのです! 拙者ナメクジでござる~」
上手く足運びができなかったポチが床に寝そべって、尺取虫のようにクイクイと動いている。それは「ナメクジじゃない」と突っ込んであげるべきなのだろうか?
「ポチちゃん、せっかくの余所行きで、床に転がった悪い子は誰かしらっ!」
「あ、あう、違うのです。ルル、これは違うのです」
「何が違うの? 悪いことをしたら?」
「ごめんなさいなのです」
「ポチ、反省~」
しまった、怒るところだったのか。ポチが反省のポーズをして謝る。
タマはちゃっかりと、ルルに便乗して怒る側に回っている。今、しゃがむ寸前だったよね? オレの目線と合うと、タマがワタワタと慌てた後に、ポチと同じ「反省」のポーズをしていた。
「マスター、飛空艇に幼生体が産まれています。アリサ、至急、あの形のクッションの作成を!」
「え~、またぁ~。もう飽きた~、やり方を教えてあげるから自分で作りなよ」
「妙案です。アリサ、指南をお願いします」
ナナの指差す先には、小型の飛空艇が停泊している。王都からやってきた高速艇だ。乗っているのは国王――では無く、その影武者さんだ。一緒に来ている大臣2名は、本物のようだ。
ナナが裁縫を覚えたら、馬車が縫いぐるみで一杯になりそうな予感がする。
アリサがナナに裁縫を覚えさせようとする横で、オレは鎧井守の皮と翠絹を使った革鎧と靴を作成していた。魔法剣士が着ていた鎧が、魔物の素材製で対衝撃や防刃性能が普通の鋼鉄の鎧より性能が高かったのを見て真似しようと思ったからだ。翠絹を裏地に使ったせいか「裁縫スキル」を取得できた。スキルを最大にして、皆のインナーを作ろう。
そういえば、たしか盗賊のアジトで手に入れたユリハ繊維とかいう素材の服もあったな。これを加工してアリサとミーアのローブに仕立て直すか。SEX DROPS
その日の晩、夜なべして皆の装備と、ポチ達の新しい靴を作った。
御伽噺の妖精さんにでもなった気分だ。
2014年4月14日星期一
参戦
出発して3日経過した。
森を抜けたら湿地帯という所まで、来る事が出来た。
途中で水の補給する場所が無かったので、俺の胃袋から水を出して水筒に補給してやったのだが、皆力が漲ってきたとか言っていた。男宝
考えてみれば、魔素を濃厚に含んでいるので、その影響かも知れない。
荷物を最小限にし、速度重視で移動して来たのだ。
そのおかげで、予想よりも大分早く着く事が出来たのだと言える。
このまま進むより、一旦状況の確認を行いたい。
蜥蜴人族(リザードマン)の首領との会談予定日は明日である。ここまでくると、慌てる事も無い。
という事で、皆に待機を命じる。ここで陣を張り、休息するように場所を確保させた。
さて、偵察するとなると・・・
「リムル様、自分が見て参ります。」
すかさず、ソウエイが発言した。
彼だけは鎧を着用していない。代わりに、俺の鋼糸で編みこんだ鎖帷子を着用している。
身軽なのは間違いない。
彼曰く、当たらないから必要ない! だと。イケメンが言うと、キザを通り越して清々しかった。
そうか、としか返答しようもないのだ。
今回も自信たっぷりな彼に任せよう。
「よし、ではソウエイ。行って、周辺の状況を確認して来てくれ。
可能なら、ブタの親玉の能力がどんなものか判ると尚良し!」
そう言って、彼を送り出した。
きっと、その高すぎる調査能力で色々掴んで来てくれるだろう。
「リムル様、今回俺達は好きに暴れても構わないか?」
ベニマルが問いかけてきた。
ぶっちゃけ、状況が判らないだけに答えようもない。なので、
「ん? 構わないけど、撤退の合図出したらちゃんと退けよ?」
と言っておいた。
ベニマルは不敵な笑顔を浮かべ、
「その合図、必要ないと思うぜ? どうせ出すなら、殲滅しろ! だろ?」
などと、自信満々である。お前もか! そう思った。
いい男だと、こういう自信満々な態度が様になる。勝てればね・・・。
これだけ格好つけて、いざ負けました! とか、恥ずかしくて堪らないと思うのだが。
コイツ等には、そう言った心配は無いのだろうか?
まあいい。
「油断は、するなよ?」
そう言って、肩を竦めて話を打ち切る。
シオンなんて、自分の刀をうっとり眺めて、もうすぐ好きなだけ暴れさせてあげる! 的な笑顔を浮かべている。
ドジっ子属性が無ければ、クールなシオン。
その彼女が、刀を眺めてウットリしていると、とても危険な絵面になっていた。
見なかった事にしよう。俺の精神衛生上、その方が良いだろう。
ハクロウは流石に、普段通り落ち着いている。
明鏡止水とでも言おうか、流石は熟練者と言った貫禄であった。
もっとも、
「歯ごたえのある相手はおらんじゃろうな・・・」
ボソッと呟いたのを、俺の耳は聞き逃さなかった。
本当に、この鬼人共は自信過剰過ぎやしないだろうか?
一度負けた相手に挑むのだ、それなりに警戒心を持つ必要があると思うのだが。
俺はそんな心配をしつつ、溜息をついた。
しかし・・・。俺のそうした心配は、全くの杞憂であった事が、この直後に証明される事となる。
2時間後。
(今、宜しいですか?)
陣を確保し、休息している俺に念話が届いた。
(なんだ? もう何か掴めたのか?)
(いえ、リザードマンが一匹、此方に向けて走って来ております)
(何? 何かあったのか判るか?)
(はい。分身体の話では、湿地帯にて既に戦が始まっている様子。先走るなと念を押したのですが…)三體牛鞭
(ああ、ガビルとか言うリザードマンが先走ったんじゃないか? あいつも無駄に自信ありげだったし…)
(その可能性が高いかと。して、このリザードマンは如何致しましょう?)
ふーむ。戦が始まってたか。だが、まだ局面が動く程では無いのか?
むしろ、タイミング的には絶妙な状況に間に合ったのかも知れない。上空から、戦局の確認をすべきだろう。
さて、リザードマンだが・・・
(話を聞いてみろ。戦が首領の判断では無かったとしても、どちらにせよ、真意を確認する必要がある。)
(御意!)
念話を打ち切った。
そうか、始まっていたか。せっかく休憩して状況調査をと思ったが、そんな暇はないらしい。
俺は皆に、
「聞け! 休憩は終わりだ。戦が始まっているらしい。
俺は今より、上空より指示を出す!
お前達は、俺の指示に合わせ、速やかに参戦出来るように構えておくように!」
俺の言葉に、皆顔を引き締めた。
「了解。では、ご武運を!」
シオンが返答し、ベニマルも目で頷きかけてきた。
ハクロウは普段通り。
俺は背中から翼を出す。翼に併せて服に穴が開き、翼が出たら、また閉じる。
自分の意思で、服と防具の構造を多少なら弄れる。とても便利であった。
「命令だ。死にそうな行為は慎め! この戦は、決戦では無い。間違えるなよ!」
俺の言葉に、
「「「オオオオォォォォォォ!!!」」」
という鬨の声で返答を返してくる。
頷くと、俺は空へと舞い上がる。
上空より俯瞰し、戦況を眺める。
肉眼では見分けつかなくとも、『魔力感知』の応用を使えば、ハッキリと視認出来た。
まるで、高高度から衛星による監視を行っているかの様である。
状況は、リザードマンにとって分が悪い。
明らかに、囲まれてしまって身動き取れない状況に陥っている。
何とか保っているのは、指揮官の必死の鼓舞による影響であろう。それも、何時まで持つか判らない状況だった。
あの指揮官は、見覚えがある。ガビルだ。単なる馬鹿かと思っていたのだが、ヤツを見縊っていたようだ。
指揮官としては、大局を見る目が備わっていないのが致命的ではある。
しかし、若く経験も乏しい状況で、全てを見通す目を持つ事など誰にでも出来る事では無いのだ。
古今東西、全ての指揮官が優れている訳では無い。
もし、今回ヤツが生き延びてその事を学べたならば、優秀な指揮官になる可能性もあるのだ。
死なせるのは惜しい。ふと、そう思った。
俺は命令を下す。
(ベニマル、俺の思念と連携しろ。先ず、リザードマン達が窮地だ。助け出せ!
その後は、お前の好きにしろ。細かい指揮はハクロウに任せても良い)
俺の思念に、嬉しそうな返答。
(了解! 先にランガを向かわせてもいいよな?)
(任せる!)
そして、戦況は動き出す。
しかしこうして考えて見ると、飛行により両軍の動きを俯瞰で把握出来るのって、圧倒的に優位だわ。
尚且つ、俯瞰して得た情報を『思念伝達』により、各兵士に伝達可能とか・・・
近代戦の情報化戦術を、ファンタジー世界で実現するようなものか。
本来の軍隊同士と異なり、伝達出来る情報量が圧倒的に違う。これなら、少数で上手く立ち回るのも可能だろう。
というより、少数をこの上なく上手く動かすのに適しているのか。
そんな事を考えていると、狼1号
(リムル様、どうやら裏が取れました。首領の息子、ガビルが謀反を起こした模様です。
尚、首領達は地下の大広間に閉じ込められている様子。
そこへもオーク共の侵攻があり、戦力的に不安があるようです)
なるほど、息子だったのか。しかし、首領に何かあっても具合が悪い。
ふと思いつき、
(ソウエイ、お前首領の元へ影移動出来るのか?)
問うてみた。一度会っていれば出来るとか言っていたが・・・
(可能です。向かいましょうか?)
(任せる。首領達に協力し、洞窟内部のオーク共を好き勝手させるな!)
(御意! ・・・・・・少々宜しいですか?)
影移動、この戦が落ち着いたら練習しよう。そう思っていた俺に、ソウエイが話しかける。
用事があった様子。
(なんだ? 何かあったか?)
(は! 分身体からの報告に、怪しい魔物が湿地帯の四方に存在する様子・・・
そこそこの魔力を持つ、上位個体であるとの事です。如何致しましょう?)
なんだと?
罠か何かだろうか? だとしても、どう言った罠かも判らないな。
(何体居るか判るか?)
(は! 現在確認出来ているのは、4体です。恐らく、4体のみだと思われます。
他に怪しい気配は感じておりません)
(なるほど・・・。始末出来そうか?)
(同時にとなると、自分の分身で2体しか・・・。時間をかけてもよければ、全て始末可能です!)
そうか。本当に優秀なヤツ。
なんとなく、同時に始末した方が良い気がするな・・・。一体何者なのか、不明だが。
しかし、殺すのも不味いか? 明確に敵かどうかも判らないのだし・・・。
(2体同時に、殺さず無力化は可能か?)
(問題ありません。可能です)
(では、位置情報を送ってくれ。シオンとハクロウに向かって貰う)
(では、此方で連絡を行い、同時に無力化致します)
(頼む)
俺は、シオンとハクロウにもこの事を伝えた。
なるべく殺さず、意識を奪うように! と厳命する。
何者か知らないが、上位の魔物など知り合いは居ない。
四方にいるのなら、罠か偵察。俺達に気付いている様子も無く、リザードマン側にはその余力は無い。
既に偵察を行っている場合では無いのだし・・・。では、オーク軍?
それにも疑問が残るのだ。意味が無い様な気がする。
第三者? ふと、そう思った。
俺達のように、状況を確認している存在がいるのかも知れない、と。
まあ、上手く捕らえる事が出来たら、聞いてみよう。口を割るかどうか判らないが、その時考えればいい。
魔物という時点で人間側とは考えにくいし、嫌な予感しかしない。
考えても仕方ないので、その問題は後回しである。
指示を出し終え、戦況を確認する。
リザードマンサイドが押され始めていた。
そんなに長くは持たないだろう。この様子では、首領のいる洞窟内部も追い詰められているかも知れない。
ソウエイは分身を放ったようだが、そんな事をして本体は大丈夫なのだろうか?
そんな心配も頭を過ぎったが、今更である。
俺は命令を出し、彼等はそれを引き受けた。
出来もしない事を引き受ける奴は無能である。
かつて、会社で新人だった頃、当時の所長に怒られたものだ。自分に出来ない量の仕事を請け負うな! と。
請け負った者が仕事をこなさずに滞ると、全員が迷惑するのである。
それ以来、俺は無茶である無し関係なく、出来る事しか請け負わないよう心掛けて来たのだ。
今回は、あいつ等の能力が把握出来ていない。俺の割り振った仕事が無茶であるかどうか、判断出来ないのだ。
彼等が無能では無い事を祈る。そして、俺が無能な主という謗りを受ける事が無いように。
今は、状況を確認しようと思う。巨根
もし、どこかで苦戦したとしても、直ぐに手助けに入れるように。
さて、と。
念話を終え、ソウエイは薄く笑みを浮かべた。
自らが、主の役に立てている事を実感して。
ソウエイにとって、ベニマルは主君の息子ではあっても、主では無かった。
同年代であり、ライバル。いつかは、その配下になると考えてはいたが、結局その時は訪れなかった。
代わりに、リムルという主を得たのだ。
自分は幸運であると思う。
戦乱など無い平和が続いていた。大鬼族(オーガ)という強者に対し、森の魔物は相手として不足であった。
最近では、下位竜(レッサードラゴン)が暴れるといった事も起きていない。
その事自体は良い事であると思う。しかし、自らが鍛えた技術を使ってみたいというのも、偽らざる本音であった。
そんな中、オークの軍勢に襲われた。
何も出来なかった自分。このまま、主君の仇を討つこと無く、滅びるものと思われたのに…。
自分は幸運である。
新たな主君の下で、かつての主君の仇を討つ機会を与えられた。
慢心による油断。今の自分にそれは無い。
主の為に技術(ワザ)を磨き、その敵を排除するのだ。
命令される事こそ、至上の快楽。
ソウエイは冷静に、自らの分身を2体作り出す。
そして、
(遠方の2体は俺が捕らえる。ハクロウ、シオンはそれぞれ、南と西を頼む)
念話にて確認を行い、了承の返事を受ける。
それぞれの分身を、北と東に放った。
そして自らは、影に沈みこみ消える。リザードマンの首領と合流する為に。
上位の魔物とは言え、今のソウエイの敵では無い。
彼はその事を十分に把握していたのだ。
ソウエイとの念話を終え、ハクロウとシオンは顔を見合わせた。
どちらからともなく頷きあうと、
「じゃあ、私は西ね。」
「良かろう。わしが南に行こう。」
軽く打ち合わせ、散開した。
その場から消えたように見える程の速度で、駆ける。
その様子を横目に、
「俺達もいくぞ!」
ベニマル率いる本隊も動き出した。
風のように音も無く、速やかに疾走する嵐牙狼達。
それを駆るゴブリン達にも気負いは無い。
速やかに、リムルの命に従い動く。その事に喜びを感じ、血が滾るのを感じていた。
お前達も同じか…
ベニマルは思う。自分は気ままな性格であると承知していた。
だからこそ、大鬼族(オーガ)の里長を継ぐ事に躊躇いを覚えていたのだ。今となっては、どちらにしろ叶わぬ事であるけれども。
故に、今の自分の立場は気に入っていた。リムルを主とし、仕えるのだ。
一人の武将として、自分の思いのままに暴れられるように。
里長ともなれば、自ら死地に立つ等許されなかった。しかし、今は違う。
思う存分に活躍出来る。
ベニマルは疾走する。
血の滾りを抑えられるのも、もう後僅かであった。勃動力三體牛鞭
森を抜けたら湿地帯という所まで、来る事が出来た。
途中で水の補給する場所が無かったので、俺の胃袋から水を出して水筒に補給してやったのだが、皆力が漲ってきたとか言っていた。男宝
考えてみれば、魔素を濃厚に含んでいるので、その影響かも知れない。
荷物を最小限にし、速度重視で移動して来たのだ。
そのおかげで、予想よりも大分早く着く事が出来たのだと言える。
このまま進むより、一旦状況の確認を行いたい。
蜥蜴人族(リザードマン)の首領との会談予定日は明日である。ここまでくると、慌てる事も無い。
という事で、皆に待機を命じる。ここで陣を張り、休息するように場所を確保させた。
さて、偵察するとなると・・・
「リムル様、自分が見て参ります。」
すかさず、ソウエイが発言した。
彼だけは鎧を着用していない。代わりに、俺の鋼糸で編みこんだ鎖帷子を着用している。
身軽なのは間違いない。
彼曰く、当たらないから必要ない! だと。イケメンが言うと、キザを通り越して清々しかった。
そうか、としか返答しようもないのだ。
今回も自信たっぷりな彼に任せよう。
「よし、ではソウエイ。行って、周辺の状況を確認して来てくれ。
可能なら、ブタの親玉の能力がどんなものか判ると尚良し!」
そう言って、彼を送り出した。
きっと、その高すぎる調査能力で色々掴んで来てくれるだろう。
「リムル様、今回俺達は好きに暴れても構わないか?」
ベニマルが問いかけてきた。
ぶっちゃけ、状況が判らないだけに答えようもない。なので、
「ん? 構わないけど、撤退の合図出したらちゃんと退けよ?」
と言っておいた。
ベニマルは不敵な笑顔を浮かべ、
「その合図、必要ないと思うぜ? どうせ出すなら、殲滅しろ! だろ?」
などと、自信満々である。お前もか! そう思った。
いい男だと、こういう自信満々な態度が様になる。勝てればね・・・。
これだけ格好つけて、いざ負けました! とか、恥ずかしくて堪らないと思うのだが。
コイツ等には、そう言った心配は無いのだろうか?
まあいい。
「油断は、するなよ?」
そう言って、肩を竦めて話を打ち切る。
シオンなんて、自分の刀をうっとり眺めて、もうすぐ好きなだけ暴れさせてあげる! 的な笑顔を浮かべている。
ドジっ子属性が無ければ、クールなシオン。
その彼女が、刀を眺めてウットリしていると、とても危険な絵面になっていた。
見なかった事にしよう。俺の精神衛生上、その方が良いだろう。
ハクロウは流石に、普段通り落ち着いている。
明鏡止水とでも言おうか、流石は熟練者と言った貫禄であった。
もっとも、
「歯ごたえのある相手はおらんじゃろうな・・・」
ボソッと呟いたのを、俺の耳は聞き逃さなかった。
本当に、この鬼人共は自信過剰過ぎやしないだろうか?
一度負けた相手に挑むのだ、それなりに警戒心を持つ必要があると思うのだが。
俺はそんな心配をしつつ、溜息をついた。
しかし・・・。俺のそうした心配は、全くの杞憂であった事が、この直後に証明される事となる。
2時間後。
(今、宜しいですか?)
陣を確保し、休息している俺に念話が届いた。
(なんだ? もう何か掴めたのか?)
(いえ、リザードマンが一匹、此方に向けて走って来ております)
(何? 何かあったのか判るか?)
(はい。分身体の話では、湿地帯にて既に戦が始まっている様子。先走るなと念を押したのですが…)三體牛鞭
(ああ、ガビルとか言うリザードマンが先走ったんじゃないか? あいつも無駄に自信ありげだったし…)
(その可能性が高いかと。して、このリザードマンは如何致しましょう?)
ふーむ。戦が始まってたか。だが、まだ局面が動く程では無いのか?
むしろ、タイミング的には絶妙な状況に間に合ったのかも知れない。上空から、戦局の確認をすべきだろう。
さて、リザードマンだが・・・
(話を聞いてみろ。戦が首領の判断では無かったとしても、どちらにせよ、真意を確認する必要がある。)
(御意!)
念話を打ち切った。
そうか、始まっていたか。せっかく休憩して状況調査をと思ったが、そんな暇はないらしい。
俺は皆に、
「聞け! 休憩は終わりだ。戦が始まっているらしい。
俺は今より、上空より指示を出す!
お前達は、俺の指示に合わせ、速やかに参戦出来るように構えておくように!」
俺の言葉に、皆顔を引き締めた。
「了解。では、ご武運を!」
シオンが返答し、ベニマルも目で頷きかけてきた。
ハクロウは普段通り。
俺は背中から翼を出す。翼に併せて服に穴が開き、翼が出たら、また閉じる。
自分の意思で、服と防具の構造を多少なら弄れる。とても便利であった。
「命令だ。死にそうな行為は慎め! この戦は、決戦では無い。間違えるなよ!」
俺の言葉に、
「「「オオオオォォォォォォ!!!」」」
という鬨の声で返答を返してくる。
頷くと、俺は空へと舞い上がる。
上空より俯瞰し、戦況を眺める。
肉眼では見分けつかなくとも、『魔力感知』の応用を使えば、ハッキリと視認出来た。
まるで、高高度から衛星による監視を行っているかの様である。
状況は、リザードマンにとって分が悪い。
明らかに、囲まれてしまって身動き取れない状況に陥っている。
何とか保っているのは、指揮官の必死の鼓舞による影響であろう。それも、何時まで持つか判らない状況だった。
あの指揮官は、見覚えがある。ガビルだ。単なる馬鹿かと思っていたのだが、ヤツを見縊っていたようだ。
指揮官としては、大局を見る目が備わっていないのが致命的ではある。
しかし、若く経験も乏しい状況で、全てを見通す目を持つ事など誰にでも出来る事では無いのだ。
古今東西、全ての指揮官が優れている訳では無い。
もし、今回ヤツが生き延びてその事を学べたならば、優秀な指揮官になる可能性もあるのだ。
死なせるのは惜しい。ふと、そう思った。
俺は命令を下す。
(ベニマル、俺の思念と連携しろ。先ず、リザードマン達が窮地だ。助け出せ!
その後は、お前の好きにしろ。細かい指揮はハクロウに任せても良い)
俺の思念に、嬉しそうな返答。
(了解! 先にランガを向かわせてもいいよな?)
(任せる!)
そして、戦況は動き出す。
しかしこうして考えて見ると、飛行により両軍の動きを俯瞰で把握出来るのって、圧倒的に優位だわ。
尚且つ、俯瞰して得た情報を『思念伝達』により、各兵士に伝達可能とか・・・
近代戦の情報化戦術を、ファンタジー世界で実現するようなものか。
本来の軍隊同士と異なり、伝達出来る情報量が圧倒的に違う。これなら、少数で上手く立ち回るのも可能だろう。
というより、少数をこの上なく上手く動かすのに適しているのか。
そんな事を考えていると、狼1号
(リムル様、どうやら裏が取れました。首領の息子、ガビルが謀反を起こした模様です。
尚、首領達は地下の大広間に閉じ込められている様子。
そこへもオーク共の侵攻があり、戦力的に不安があるようです)
なるほど、息子だったのか。しかし、首領に何かあっても具合が悪い。
ふと思いつき、
(ソウエイ、お前首領の元へ影移動出来るのか?)
問うてみた。一度会っていれば出来るとか言っていたが・・・
(可能です。向かいましょうか?)
(任せる。首領達に協力し、洞窟内部のオーク共を好き勝手させるな!)
(御意! ・・・・・・少々宜しいですか?)
影移動、この戦が落ち着いたら練習しよう。そう思っていた俺に、ソウエイが話しかける。
用事があった様子。
(なんだ? 何かあったか?)
(は! 分身体からの報告に、怪しい魔物が湿地帯の四方に存在する様子・・・
そこそこの魔力を持つ、上位個体であるとの事です。如何致しましょう?)
なんだと?
罠か何かだろうか? だとしても、どう言った罠かも判らないな。
(何体居るか判るか?)
(は! 現在確認出来ているのは、4体です。恐らく、4体のみだと思われます。
他に怪しい気配は感じておりません)
(なるほど・・・。始末出来そうか?)
(同時にとなると、自分の分身で2体しか・・・。時間をかけてもよければ、全て始末可能です!)
そうか。本当に優秀なヤツ。
なんとなく、同時に始末した方が良い気がするな・・・。一体何者なのか、不明だが。
しかし、殺すのも不味いか? 明確に敵かどうかも判らないのだし・・・。
(2体同時に、殺さず無力化は可能か?)
(問題ありません。可能です)
(では、位置情報を送ってくれ。シオンとハクロウに向かって貰う)
(では、此方で連絡を行い、同時に無力化致します)
(頼む)
俺は、シオンとハクロウにもこの事を伝えた。
なるべく殺さず、意識を奪うように! と厳命する。
何者か知らないが、上位の魔物など知り合いは居ない。
四方にいるのなら、罠か偵察。俺達に気付いている様子も無く、リザードマン側にはその余力は無い。
既に偵察を行っている場合では無いのだし・・・。では、オーク軍?
それにも疑問が残るのだ。意味が無い様な気がする。
第三者? ふと、そう思った。
俺達のように、状況を確認している存在がいるのかも知れない、と。
まあ、上手く捕らえる事が出来たら、聞いてみよう。口を割るかどうか判らないが、その時考えればいい。
魔物という時点で人間側とは考えにくいし、嫌な予感しかしない。
考えても仕方ないので、その問題は後回しである。
指示を出し終え、戦況を確認する。
リザードマンサイドが押され始めていた。
そんなに長くは持たないだろう。この様子では、首領のいる洞窟内部も追い詰められているかも知れない。
ソウエイは分身を放ったようだが、そんな事をして本体は大丈夫なのだろうか?
そんな心配も頭を過ぎったが、今更である。
俺は命令を出し、彼等はそれを引き受けた。
出来もしない事を引き受ける奴は無能である。
かつて、会社で新人だった頃、当時の所長に怒られたものだ。自分に出来ない量の仕事を請け負うな! と。
請け負った者が仕事をこなさずに滞ると、全員が迷惑するのである。
それ以来、俺は無茶である無し関係なく、出来る事しか請け負わないよう心掛けて来たのだ。
今回は、あいつ等の能力が把握出来ていない。俺の割り振った仕事が無茶であるかどうか、判断出来ないのだ。
彼等が無能では無い事を祈る。そして、俺が無能な主という謗りを受ける事が無いように。
今は、状況を確認しようと思う。巨根
もし、どこかで苦戦したとしても、直ぐに手助けに入れるように。
さて、と。
念話を終え、ソウエイは薄く笑みを浮かべた。
自らが、主の役に立てている事を実感して。
ソウエイにとって、ベニマルは主君の息子ではあっても、主では無かった。
同年代であり、ライバル。いつかは、その配下になると考えてはいたが、結局その時は訪れなかった。
代わりに、リムルという主を得たのだ。
自分は幸運であると思う。
戦乱など無い平和が続いていた。大鬼族(オーガ)という強者に対し、森の魔物は相手として不足であった。
最近では、下位竜(レッサードラゴン)が暴れるといった事も起きていない。
その事自体は良い事であると思う。しかし、自らが鍛えた技術を使ってみたいというのも、偽らざる本音であった。
そんな中、オークの軍勢に襲われた。
何も出来なかった自分。このまま、主君の仇を討つこと無く、滅びるものと思われたのに…。
自分は幸運である。
新たな主君の下で、かつての主君の仇を討つ機会を与えられた。
慢心による油断。今の自分にそれは無い。
主の為に技術(ワザ)を磨き、その敵を排除するのだ。
命令される事こそ、至上の快楽。
ソウエイは冷静に、自らの分身を2体作り出す。
そして、
(遠方の2体は俺が捕らえる。ハクロウ、シオンはそれぞれ、南と西を頼む)
念話にて確認を行い、了承の返事を受ける。
それぞれの分身を、北と東に放った。
そして自らは、影に沈みこみ消える。リザードマンの首領と合流する為に。
上位の魔物とは言え、今のソウエイの敵では無い。
彼はその事を十分に把握していたのだ。
ソウエイとの念話を終え、ハクロウとシオンは顔を見合わせた。
どちらからともなく頷きあうと、
「じゃあ、私は西ね。」
「良かろう。わしが南に行こう。」
軽く打ち合わせ、散開した。
その場から消えたように見える程の速度で、駆ける。
その様子を横目に、
「俺達もいくぞ!」
ベニマル率いる本隊も動き出した。
風のように音も無く、速やかに疾走する嵐牙狼達。
それを駆るゴブリン達にも気負いは無い。
速やかに、リムルの命に従い動く。その事に喜びを感じ、血が滾るのを感じていた。
お前達も同じか…
ベニマルは思う。自分は気ままな性格であると承知していた。
だからこそ、大鬼族(オーガ)の里長を継ぐ事に躊躇いを覚えていたのだ。今となっては、どちらにしろ叶わぬ事であるけれども。
故に、今の自分の立場は気に入っていた。リムルを主とし、仕えるのだ。
一人の武将として、自分の思いのままに暴れられるように。
里長ともなれば、自ら死地に立つ等許されなかった。しかし、今は違う。
思う存分に活躍出来る。
ベニマルは疾走する。
血の滾りを抑えられるのも、もう後僅かであった。勃動力三體牛鞭
2014年4月11日星期五
謁見する魔物達
俺が魔王に就任し、一ヶ月半経過した。
闘技場の建設は順調である。
ゲルドの指揮は素晴らしく、順調に計画通り進んでいる。
更に、ドワーフ三兄弟末弟のミルドが俺の設計図に手を加え、美術的価値すらも持つ美麗な建築物へと様変わりしていた。流石は芸術家、見事なものである。狼1号
これならば、各国の王族も満足する出来栄えになりそうである。
俺には芸術性が乏しいから、非常に助かった。
ミルドの付加した部分に関しても、お披露目ついでの武闘会開催には、十分に間に合いそうだ。
地下迷宮(ダンジョン)については、ある程度目処がついた時点で、ラミリスとヴェルドラに残りを任せていた。
俺も携わりたい気持ちはあったが、そんな暇が無くなったのである。
俺の就任を祝う、或いは見極める為に、各種族の代表が続々と魔物の国(テンペスト)へ集結し始めていたのだ。
彼等は魔王への忠誠を誓い、加護を得る。
だが、魔王にその実力が無いならば、自分達の繁栄どころか滅亡への道を突き進む事になってしまう。
今までジュラの大森林は、ヴェルドラの絶大な加護の下に不可侵領域を守ってきた場所である。
その不可侵領域を支配下に治める、新たな魔王。
しかも、成り立て魔王だという。各種族の代表が不安に思うのも、無理の無い話なのだ。
今日も今日とて正装して、祭られる俺。
スライムの姿で。
最早、置物のようであり、神棚に飾られた鏡餅のような扱いになっている。
分身を置いておいたらいいんじゃね? と言ってみたのだが、笑顔で却下された。
こういう時の幹部達の連携は、素晴らしいものがある。
俺を除け者にして、思念リンクしてるとしか思えない。
仕方なく、飾り付けられて身動きも取れない(わざわざその為だけに、スライム用の魔法装備(マジックアイテム)の服を用意していたのには呆れたものだ)俺に対して跪き、謁見を願う魔物達を見やる。
こんな事をしなくてもいいと思うのだが、威厳があるように見せるのが大切なのだと……
つまり、普段のスライム形態(バージョン)には威厳が無いって言われたようなものだがね。
まあいいけど。
しかし、面白いのは各種族の反応である。
する事もないので、置物らしく黙って口上を述べる魔物達を眺めているのだが……
その反応は三つに分かれるのだ。
崇拝、観察、恐怖である。
観察する者共の中に、ほんの僅かに見下す者もいるようだが、これは都合が良いかもしれない。
問題は、怯える者達なんだよな。
そう思いつつ、謁見に応じているのだ。
一つ目の、俺を敬い信奉する者達は、以前俺と関わりがあった者達である。
ガビルの父親である、蜥蜴人族(リザードマン)の首領や、猪人族(ハイオーク)の各氏族長がこの反応であった。
「お久しぶりで御座います、リムル殿、いや魔王リムル様。この度は御目出度く、ワタクシどもも……」
ガチガチに緊張している様子だったので、
「あ、お久しぶりです、首領。堅苦しく言わなくてもいいですよ。
同盟でもお世話になってますし、今後とも宜しくお願いします」
と、言葉をかけた。
その一言で色々な不安や心配が解けたのだろう、本来の豪胆な性格に戻ったようだ。
「いやいや、かないませぬな、リムル様には。ガビルめは、お役に立っておりますか?
本当に、どうしようも無い息子でして……」
建前上は破門扱い。おおっぴらには言え無い事を思い出したようだ。
生真面目な人物である。だが、そこが好感が持てる所だった。
ふと思い立ち、
「そうそう、首領。"アビル"と、名乗る事を許します。ガビルの父だし、名前無しは不便なので」
と、久々に名前を付けた。
父という部分を強調し、そろそろ勘当を解いてやれ! と、暗に諭すのも忘れない。
俺の思いに気付いたのか、感謝を込めて頷く首領。いや、アビル。
「御意! この名に誓って、リムル様への忠誠、片時も忘れませぬ!!」
そう、力強く頷いて、その場を後にした。
ガビルの所に案内するように、控えているリグルに目配せする。
リグルは頷き、アビルを連れて去って行った。
ちなみに、アビルは龍人族(ドラゴニュート)に進化するのは間違いないだろう。
加護と若干の力を与えたのみなのだが、この名付け、軽々しく行うのも問題だ。
デスマーチは勘弁して貰いたいし、何より意味なくするものでもない。
今回、首領に名付けたのは、ガビルの働きへの感謝の意味もある。
今後は気軽に名付けも出来ないだろうけど……
続いて、猪人族(ハイオーク)の各氏族長が、数名の者のみを連れて挨拶に訪れた。
俺達を信頼しているのだろう、護衛もつけていない。
その数名は、子や孫達。
食料事情の改善は当然、暮らし向きも良くなったとの事。
何より、子供が生まれ、その子達も猪人族(ハイオーク)だった事に驚きと喜びを感じて、俺に直々に報告したかったのだそうだ。
子供が猪人族(ハイオーク)になるのは当然だろ? と、俺は思っていたけど、案外そうでも無いとの事。
一代限りの変異が当たり前だったのだそうだ。sex drops 小情人
出生率が下がった分、育児に力を注げるようにもなるだろう。今後の労働力として、大切に育てるように言い聞かせる。
子は宝、それは世界や種族が違っても、変わること無き真理だろうから。
心配だった、名前の継承も上手くいってるらしい。
適当につけてる分、ややこしそうだけど、本人達にとっては自然な事のようだ。
良かった。まあ、慣れかも知れないな。普段から、その名で呼べば定着するのだろう。
元々名前無しでも問題なかったのだし、俺の心配し過ぎかもしれない。
ジュラの森大同盟の構成メンバーとして、最後の一角。
樹人族(トレント)も挨拶に来てくれた。
まあ、動けないから、実際に来てくれたのは樹妖精(ドライアド)のトレイニーさんである。
相変わらず、大きな魔力を感じる。
「お久しぶりです、リムル様。魔王襲名、おめでとう御座います」
気兼ねするでもなく、挨拶してくれる。
俺もその方が助かるというもの。お互いに近況を話し合った。
今現在、目だった不都合は無いそうだけど、移動に不便なのが目下の悩みらしい。
実際に、目の前のトレイニーさんは、身体が薄くなっている。
「それもこれも、妖精女王が転生してしまわれて、我等は置いてけぼりだからなのです。
下手に移動も出来ないので、こればかりはどうしようも……」
気になる事を言いましたよ?
妖精女王……いや、まさか、な。
あのちびっ子が、そんな大それた者の筈……
俺の脳裏に、ラミリスの無邪気な笑い顔が思い出される。
「へ、へえ。妖精女王ですか。名前とかって判ります?」
「ええ、偉大なるラミリス様です。
何千年も前に、邪悪な者共の調停を行い、それ以降お姿がお隠れになり……」
聞かなかった事にしたい。
俺のイメージと、トレイニーさんのイメージ、絶対に一致しないだろう。自信がある。
だが……。ずっと、待っているのだろう。
その妖精女王が、魔王の一柱になっているなんて、思いもしないのだろうし……
知ってて俺の配下に加えるのも、如何なものか。
「あの、その人物に心当たりがあるんだけど……」
「え? それは、本当ですか!?」
物凄い勢いで反応された。
紹介するだけしよう。あのちびっ子を見て、幻滅する可能性もある。あるけど、ラミリスは案外大物だ。
そんな程度でへこたれはしないだろう。
俺は意を決し、トレイニーさんをラミリスに会わせて見る事にしたのだ。
結果。
大泣きし、感動するトレイニーさん。
マジで、ラミリスが妖精女王の生まれ変わった(?)姿だったようだ。
「ああ、変わりなく美しく、気品あるその姿……」
感涙に咽びながら褒め称えるトレイニーさん。
一体誰の事を言っているのか、俺には良く判らない。
特に、気品とか、ラミリスの何処を探しても見当たらないんだけど……
「聞いた!? ねえ、ちょっと今の聞いたでしょ! アンタ、アタシの事を見直したでしょ?」
鼻高々で、俺に自慢してくるラミリス。
ウザイ。
俺の周りを飛び回り、
「どーよ!」
という感じで、大喜びしている。
まあ、いいか。
仲間に巡り合えるのは、嬉しいものだろうし。
一頻り喜びあい、ひと段落した所で、俺はまたしても思いつきを口にした。
「どうせなら、迷宮内に引っ越して貰ったらどうだ?
あそこからなら、魔物の国(テンペスト)も近いし、ラミリスのお膝元だぞ?」
「あ! それ、いいかもよ?
階層の拡張は出来るし、空いてる階層あるから、樹林(ジャングル)階層もアリだし!」
俺の提案に頷くラミリス。
何より、迷宮内では配下は不滅。本来の主に仕えるのが良いだろうし、俺はそう提案してみた。
「しかし、ジュラの森に生きる者として、リムル様の傘下に加わるべきでは……?」
トレイニーさんは、生真面目にそんな心配をしているけど。
実際の所、迷宮設置を許した時点で、そこは治外法権も発生する。
迷宮内部は、俺の管理とラミリスの管理、両方発生する特殊地帯になるのだ。
その事を説明し、今なら移住を不問にすると付け加えた。
トレイニーさんは迷っていたが、取り急ぎ戻って、樹人族(トレント)の長老達と相談する事にしたようだ。
瞬間移動で戻って行った。
流石は実体を具象化して操る程の魔力の持ち主である。便利な能力をお持ちだ。
空間移動に似てるけど、発動が早い。俺の能力で解析しているので、その内使えるようになるだろうけど。曲美
三日後、速やかに相談を終えてトレイニーさんが戻って来た。
即座に謁見を申し込んで来て、開口一番、
「我等、樹人族(トレント)及び樹妖精(ドライアド)は、ラミリス様の庇護下に移住したいと存じます。
許可をお許し願えませんでしょうか?」
そう願いを述べて来た。
当然、許可を出す。
「ありがとうございます!」
そう言って、喜ぶトレイニーさん。
しかし、問題はどうやって大木の移住を行うか、という点だ。
だがそれも、案外あっさりと解決した。
ラミリスが、迷宮の扉を向こうで出して、そのまま中に移動して貰ったのだ。
こうして、思わぬ所で樹人族(トレント)の引越しが行われたのである。
だが、この事はラミリスの配下の増加を意味し、迷宮内部の安定化にも繋がる事になる。
魔素と空調の管理が、格段にやりやすくなったのだ。
そして、数が少ないけれども樹妖精(ドライアド)は、迷宮内の案内人に打って付けであった。
95階層を樹人族(トレント)達の住む場所に設定し、ラミリスとヴェルドラの設定した階層と入れ替えた。
こうして出来たのが、樹木生い茂る階層(ステージ)である。
もっとも広い面積を持つその階層は、直径5kmの真円であった。
そして、96階層へといたる扉の周辺に、最後の記録地点(セーブポイント)と宿屋等を配置しておく事にした。
ここでしか買えない、貴重な武器防具を店先に並べた武具店も営業させる。
客は滅多に来ないだろうけどね。間違いなく、趣味の店である。
その場所を囲むように、樹人族(トレント)の集落も出来上がった。
魔素濃度が濃いお陰で、皆活き活きと生活出来るようになったそうだ。
樹妖精(ドライアド)の皆さんには、迷宮管理を手伝って貰う約束も取り付けたようだ。
というより、向こうから望んで役立ちたいと言って来たらしい。
思わぬ所で協力者が得られたものである。
後に、この階層は、一つの森林型都市を形成する事になる。
密林迷宮(ジャングル)を突破して辿り着いた者に、癒しを与える都市。
その名を、"迷宮都市(ラビリンス)"と称され、繁栄する事になる幻想の都。
その場所に辿り着ける者にしか、恩恵を与えぬ町。
だが……それはまだ未来の話であり、今の俺にはそこまでの想像は出来ていないのだった。
さて、二つ目に俺を観察する者達だ。
この者達は、ジュラの大森林の上位種族の者達である。
内訳は、長鼻族(テング),牛頭族(ゴズ),馬頭族(メズ)といった種族が代表格だ。
長鼻族(テング)は、猪人族(ハイオーク)が住み着いた山に連なる山々の、更に立ち入れぬ程の頂上に異界への結界門を通って進んだ先に集落を設けていたらしい。
誰も住んでいないと思っていたのだが、上位種族たる彼等には苦にならぬ環境だったようだ。
長老の代理として、孫娘のモミジという少女がやって来て、俺に挨拶の口上を述べた。
鼻が長いから長鼻族(テング)と言うらしいけど、女性は普通の鼻だった。
目立つのは、若干、肌の色が赤みがかっているくらいか?
というか、男も思っているほど長くない。余り長いと色々邪魔になりそうだったし、そんなものかもしれない。
ただ、この種族。驚く程プライドが高いのだ。
開口一番、
「ふん。低級なスライム如きが、我等の上に君臨する時代が来るなんてね。
笑えない冗談だわ……でもまあ、仕方ないでしょう。
この森を支配する事は認めて差し上げます。ただし、我等への干渉は許しません」
と、幹部達も居る前で言い放ったのだ。
ピクリ、とシオンが反応しかけたけど、驚く事に自重した。
何らかの変化が彼女の中で起きたらしく、小さな事には目くじらを立てなくなったのだ。
いい傾向なのだが、ちょっと不気味でもある。
纏めて爆発したりしなければいいんだけど。
シオンが行動に移すのを止めたのを見て、K-Y
「なるほど、長鼻族(テング)の意向は理解した。
其方への干渉を行うなという事ならば、此方も其方への支援は行わないが、それで良いのだな?」
ベニマルが代表して問いただす。
前も言った通り、魔王の支配を受けないなら受けないでそれで良いのだ。
魔王によっては、不敬だから滅ぼすという行動に出る者もいるだろうけど、俺はその辺は寛容だ。
というか、面倒だ。
なので、そういう反応をする種族は好きにさせると皆には伝えている。
ベニマルはその事を受けて、そう確認したに過ぎない。
「ええ、それでいいわ」
その返事を聞いて、俺は頷く。
そして、ベニマルの話を引き継いで、
「判った。じゃあ、お互いに不干渉でいこう。
ただし、山に住みついた猪人族(ハイオーク)の権利は認めてやってくれ。
食料などの取引は好きに行うという事でいいか?」
「そうね。山の恵みに対しての権利は主張しない。
鉱石に関しても、実際我等には不要なモノだしね。
猪人族(ハイオーク)が住み着いた山に関しては口出ししないでおきましょう。
我等は干渉を嫌う、ただそれだけよ。
我等を軍事目的で招集しようとしないならば、それでいいわ」
「了解。それについては、問題ない。軍事力として、君達に関わらせるつもりはない。
軍は、志願制が望ましいと考えているんでね。
話は終わりだ。
ただまあ、せっかく遠くまで来てくれたんだし、ゆっくりして行ってくれ
この国の強者が、力試しをする大会を予定している。
見世物というか、娯楽にもなるだろうし、滅多に見れるものじゃないと思う。
ぜひ楽しんでいってくれ」
そんな感じで話を終えた。
志願制という言葉が聞きなれなかったのか、少し驚いた表情をしていたのが印象的だ。
友好的に交流出来るのが望ましいし、せっかく来たのだから武闘会でも見て、この国を楽しんでから帰ってくれたらいいと思ったのだ。
モミジという長鼻族(テング)の長老の孫娘は、
「ふふ。スライムに仕える者がどの程度のものか、見せて貰うわ。
どうせ、魔王になったのも運が良かっただけなのでしょうし、ね」
そんな事を抜け抜けと言い放って、その場を去って行った。
だが、その言葉は俺の申し出を受け入れたという意思表示。素直じゃない性格なのかもしれない。
モミジが去った後、
「我慢しましたが、アレは言いすぎでは?」
と、シオンが言い出す。
「だよな、ちょっとカチンと来たよ、俺も」
と、ベニマルまで。
まあ、上位種族と言うだけあって、Aランクには到達していた。
確かに、強いのだろう。だからまあ、不干渉でいたいというならば、無理に謙る事も無いだろう。
そう思ったので、
「あんなもんじゃねーの? 配下になりたい訳でも無いらしいし、敵対のつもりもないそうだし。
むしろ、山の権利を譲ってくれて良かったと思うよ?
鉱石とか、採取しまくってるじゃん。今更返せって言われたら、戦争になりかねないしね。
対等では無いし、向こうに困った事があったら態度も変わるんじゃないの?」
気楽に二人を諭す事にした。
厄介なのが、鉱山の権利である。まあ、元々、誰の山でも無いから問題ないのだ。
今回俺の物と正式に決定し、それを周知させるのが目的なのだから、もし文句を言うならその種族は敵対行動を取ると見做す事になる。
なので、不干渉で良かったのだ。
潰す事は出来るだろうけど、なるべくは友好的にやりたいと願うからなんだけどね。
多少生意気な対応は、目を瞑る事で話を締めくくったのだった。
続いてやってきた、二つの種族。
牛頭族(ゴズ)と馬頭族(メズ)である。
この種族はお互いに仲が悪く、100年戦争を続けているそうだ。
なので、対抗するようにやって来た。
今にも喧嘩に発展しそうな空気を纏わせて、お互いに牽制しまくりつつ俺の前に立つ。
そして、
「おう、魔王様よ。戦に役に立つなら、俺達、牛頭族(ゴズ)だぜ?
貧弱な馬頭族(メズ)を滅ぼすなら、手伝うぜ?」
「ふん、馬鹿め! 魔王というからには、見る目もあるさ。
迷う事は無い、我等、馬頭族(メズ)と組むがいい。SPANISCHE FLIEGE D5
牛頭族(ゴズ)どころか、逆らう魔物ども皆殺しにして見せるぞ!」
闘技場の建設は順調である。
ゲルドの指揮は素晴らしく、順調に計画通り進んでいる。
更に、ドワーフ三兄弟末弟のミルドが俺の設計図に手を加え、美術的価値すらも持つ美麗な建築物へと様変わりしていた。流石は芸術家、見事なものである。狼1号
これならば、各国の王族も満足する出来栄えになりそうである。
俺には芸術性が乏しいから、非常に助かった。
ミルドの付加した部分に関しても、お披露目ついでの武闘会開催には、十分に間に合いそうだ。
地下迷宮(ダンジョン)については、ある程度目処がついた時点で、ラミリスとヴェルドラに残りを任せていた。
俺も携わりたい気持ちはあったが、そんな暇が無くなったのである。
俺の就任を祝う、或いは見極める為に、各種族の代表が続々と魔物の国(テンペスト)へ集結し始めていたのだ。
彼等は魔王への忠誠を誓い、加護を得る。
だが、魔王にその実力が無いならば、自分達の繁栄どころか滅亡への道を突き進む事になってしまう。
今までジュラの大森林は、ヴェルドラの絶大な加護の下に不可侵領域を守ってきた場所である。
その不可侵領域を支配下に治める、新たな魔王。
しかも、成り立て魔王だという。各種族の代表が不安に思うのも、無理の無い話なのだ。
今日も今日とて正装して、祭られる俺。
スライムの姿で。
最早、置物のようであり、神棚に飾られた鏡餅のような扱いになっている。
分身を置いておいたらいいんじゃね? と言ってみたのだが、笑顔で却下された。
こういう時の幹部達の連携は、素晴らしいものがある。
俺を除け者にして、思念リンクしてるとしか思えない。
仕方なく、飾り付けられて身動きも取れない(わざわざその為だけに、スライム用の魔法装備(マジックアイテム)の服を用意していたのには呆れたものだ)俺に対して跪き、謁見を願う魔物達を見やる。
こんな事をしなくてもいいと思うのだが、威厳があるように見せるのが大切なのだと……
つまり、普段のスライム形態(バージョン)には威厳が無いって言われたようなものだがね。
まあいいけど。
しかし、面白いのは各種族の反応である。
する事もないので、置物らしく黙って口上を述べる魔物達を眺めているのだが……
その反応は三つに分かれるのだ。
崇拝、観察、恐怖である。
観察する者共の中に、ほんの僅かに見下す者もいるようだが、これは都合が良いかもしれない。
問題は、怯える者達なんだよな。
そう思いつつ、謁見に応じているのだ。
一つ目の、俺を敬い信奉する者達は、以前俺と関わりがあった者達である。
ガビルの父親である、蜥蜴人族(リザードマン)の首領や、猪人族(ハイオーク)の各氏族長がこの反応であった。
「お久しぶりで御座います、リムル殿、いや魔王リムル様。この度は御目出度く、ワタクシどもも……」
ガチガチに緊張している様子だったので、
「あ、お久しぶりです、首領。堅苦しく言わなくてもいいですよ。
同盟でもお世話になってますし、今後とも宜しくお願いします」
と、言葉をかけた。
その一言で色々な不安や心配が解けたのだろう、本来の豪胆な性格に戻ったようだ。
「いやいや、かないませぬな、リムル様には。ガビルめは、お役に立っておりますか?
本当に、どうしようも無い息子でして……」
建前上は破門扱い。おおっぴらには言え無い事を思い出したようだ。
生真面目な人物である。だが、そこが好感が持てる所だった。
ふと思い立ち、
「そうそう、首領。"アビル"と、名乗る事を許します。ガビルの父だし、名前無しは不便なので」
と、久々に名前を付けた。
父という部分を強調し、そろそろ勘当を解いてやれ! と、暗に諭すのも忘れない。
俺の思いに気付いたのか、感謝を込めて頷く首領。いや、アビル。
「御意! この名に誓って、リムル様への忠誠、片時も忘れませぬ!!」
そう、力強く頷いて、その場を後にした。
ガビルの所に案内するように、控えているリグルに目配せする。
リグルは頷き、アビルを連れて去って行った。
ちなみに、アビルは龍人族(ドラゴニュート)に進化するのは間違いないだろう。
加護と若干の力を与えたのみなのだが、この名付け、軽々しく行うのも問題だ。
デスマーチは勘弁して貰いたいし、何より意味なくするものでもない。
今回、首領に名付けたのは、ガビルの働きへの感謝の意味もある。
今後は気軽に名付けも出来ないだろうけど……
続いて、猪人族(ハイオーク)の各氏族長が、数名の者のみを連れて挨拶に訪れた。
俺達を信頼しているのだろう、護衛もつけていない。
その数名は、子や孫達。
食料事情の改善は当然、暮らし向きも良くなったとの事。
何より、子供が生まれ、その子達も猪人族(ハイオーク)だった事に驚きと喜びを感じて、俺に直々に報告したかったのだそうだ。
子供が猪人族(ハイオーク)になるのは当然だろ? と、俺は思っていたけど、案外そうでも無いとの事。
一代限りの変異が当たり前だったのだそうだ。sex drops 小情人
出生率が下がった分、育児に力を注げるようにもなるだろう。今後の労働力として、大切に育てるように言い聞かせる。
子は宝、それは世界や種族が違っても、変わること無き真理だろうから。
心配だった、名前の継承も上手くいってるらしい。
適当につけてる分、ややこしそうだけど、本人達にとっては自然な事のようだ。
良かった。まあ、慣れかも知れないな。普段から、その名で呼べば定着するのだろう。
元々名前無しでも問題なかったのだし、俺の心配し過ぎかもしれない。
ジュラの森大同盟の構成メンバーとして、最後の一角。
樹人族(トレント)も挨拶に来てくれた。
まあ、動けないから、実際に来てくれたのは樹妖精(ドライアド)のトレイニーさんである。
相変わらず、大きな魔力を感じる。
「お久しぶりです、リムル様。魔王襲名、おめでとう御座います」
気兼ねするでもなく、挨拶してくれる。
俺もその方が助かるというもの。お互いに近況を話し合った。
今現在、目だった不都合は無いそうだけど、移動に不便なのが目下の悩みらしい。
実際に、目の前のトレイニーさんは、身体が薄くなっている。
「それもこれも、妖精女王が転生してしまわれて、我等は置いてけぼりだからなのです。
下手に移動も出来ないので、こればかりはどうしようも……」
気になる事を言いましたよ?
妖精女王……いや、まさか、な。
あのちびっ子が、そんな大それた者の筈……
俺の脳裏に、ラミリスの無邪気な笑い顔が思い出される。
「へ、へえ。妖精女王ですか。名前とかって判ります?」
「ええ、偉大なるラミリス様です。
何千年も前に、邪悪な者共の調停を行い、それ以降お姿がお隠れになり……」
聞かなかった事にしたい。
俺のイメージと、トレイニーさんのイメージ、絶対に一致しないだろう。自信がある。
だが……。ずっと、待っているのだろう。
その妖精女王が、魔王の一柱になっているなんて、思いもしないのだろうし……
知ってて俺の配下に加えるのも、如何なものか。
「あの、その人物に心当たりがあるんだけど……」
「え? それは、本当ですか!?」
物凄い勢いで反応された。
紹介するだけしよう。あのちびっ子を見て、幻滅する可能性もある。あるけど、ラミリスは案外大物だ。
そんな程度でへこたれはしないだろう。
俺は意を決し、トレイニーさんをラミリスに会わせて見る事にしたのだ。
結果。
大泣きし、感動するトレイニーさん。
マジで、ラミリスが妖精女王の生まれ変わった(?)姿だったようだ。
「ああ、変わりなく美しく、気品あるその姿……」
感涙に咽びながら褒め称えるトレイニーさん。
一体誰の事を言っているのか、俺には良く判らない。
特に、気品とか、ラミリスの何処を探しても見当たらないんだけど……
「聞いた!? ねえ、ちょっと今の聞いたでしょ! アンタ、アタシの事を見直したでしょ?」
鼻高々で、俺に自慢してくるラミリス。
ウザイ。
俺の周りを飛び回り、
「どーよ!」
という感じで、大喜びしている。
まあ、いいか。
仲間に巡り合えるのは、嬉しいものだろうし。
一頻り喜びあい、ひと段落した所で、俺はまたしても思いつきを口にした。
「どうせなら、迷宮内に引っ越して貰ったらどうだ?
あそこからなら、魔物の国(テンペスト)も近いし、ラミリスのお膝元だぞ?」
「あ! それ、いいかもよ?
階層の拡張は出来るし、空いてる階層あるから、樹林(ジャングル)階層もアリだし!」
俺の提案に頷くラミリス。
何より、迷宮内では配下は不滅。本来の主に仕えるのが良いだろうし、俺はそう提案してみた。
「しかし、ジュラの森に生きる者として、リムル様の傘下に加わるべきでは……?」
トレイニーさんは、生真面目にそんな心配をしているけど。
実際の所、迷宮設置を許した時点で、そこは治外法権も発生する。
迷宮内部は、俺の管理とラミリスの管理、両方発生する特殊地帯になるのだ。
その事を説明し、今なら移住を不問にすると付け加えた。
トレイニーさんは迷っていたが、取り急ぎ戻って、樹人族(トレント)の長老達と相談する事にしたようだ。
瞬間移動で戻って行った。
流石は実体を具象化して操る程の魔力の持ち主である。便利な能力をお持ちだ。
空間移動に似てるけど、発動が早い。俺の能力で解析しているので、その内使えるようになるだろうけど。曲美
三日後、速やかに相談を終えてトレイニーさんが戻って来た。
即座に謁見を申し込んで来て、開口一番、
「我等、樹人族(トレント)及び樹妖精(ドライアド)は、ラミリス様の庇護下に移住したいと存じます。
許可をお許し願えませんでしょうか?」
そう願いを述べて来た。
当然、許可を出す。
「ありがとうございます!」
そう言って、喜ぶトレイニーさん。
しかし、問題はどうやって大木の移住を行うか、という点だ。
だがそれも、案外あっさりと解決した。
ラミリスが、迷宮の扉を向こうで出して、そのまま中に移動して貰ったのだ。
こうして、思わぬ所で樹人族(トレント)の引越しが行われたのである。
だが、この事はラミリスの配下の増加を意味し、迷宮内部の安定化にも繋がる事になる。
魔素と空調の管理が、格段にやりやすくなったのだ。
そして、数が少ないけれども樹妖精(ドライアド)は、迷宮内の案内人に打って付けであった。
95階層を樹人族(トレント)達の住む場所に設定し、ラミリスとヴェルドラの設定した階層と入れ替えた。
こうして出来たのが、樹木生い茂る階層(ステージ)である。
もっとも広い面積を持つその階層は、直径5kmの真円であった。
そして、96階層へといたる扉の周辺に、最後の記録地点(セーブポイント)と宿屋等を配置しておく事にした。
ここでしか買えない、貴重な武器防具を店先に並べた武具店も営業させる。
客は滅多に来ないだろうけどね。間違いなく、趣味の店である。
その場所を囲むように、樹人族(トレント)の集落も出来上がった。
魔素濃度が濃いお陰で、皆活き活きと生活出来るようになったそうだ。
樹妖精(ドライアド)の皆さんには、迷宮管理を手伝って貰う約束も取り付けたようだ。
というより、向こうから望んで役立ちたいと言って来たらしい。
思わぬ所で協力者が得られたものである。
後に、この階層は、一つの森林型都市を形成する事になる。
密林迷宮(ジャングル)を突破して辿り着いた者に、癒しを与える都市。
その名を、"迷宮都市(ラビリンス)"と称され、繁栄する事になる幻想の都。
その場所に辿り着ける者にしか、恩恵を与えぬ町。
だが……それはまだ未来の話であり、今の俺にはそこまでの想像は出来ていないのだった。
さて、二つ目に俺を観察する者達だ。
この者達は、ジュラの大森林の上位種族の者達である。
内訳は、長鼻族(テング),牛頭族(ゴズ),馬頭族(メズ)といった種族が代表格だ。
長鼻族(テング)は、猪人族(ハイオーク)が住み着いた山に連なる山々の、更に立ち入れぬ程の頂上に異界への結界門を通って進んだ先に集落を設けていたらしい。
誰も住んでいないと思っていたのだが、上位種族たる彼等には苦にならぬ環境だったようだ。
長老の代理として、孫娘のモミジという少女がやって来て、俺に挨拶の口上を述べた。
鼻が長いから長鼻族(テング)と言うらしいけど、女性は普通の鼻だった。
目立つのは、若干、肌の色が赤みがかっているくらいか?
というか、男も思っているほど長くない。余り長いと色々邪魔になりそうだったし、そんなものかもしれない。
ただ、この種族。驚く程プライドが高いのだ。
開口一番、
「ふん。低級なスライム如きが、我等の上に君臨する時代が来るなんてね。
笑えない冗談だわ……でもまあ、仕方ないでしょう。
この森を支配する事は認めて差し上げます。ただし、我等への干渉は許しません」
と、幹部達も居る前で言い放ったのだ。
ピクリ、とシオンが反応しかけたけど、驚く事に自重した。
何らかの変化が彼女の中で起きたらしく、小さな事には目くじらを立てなくなったのだ。
いい傾向なのだが、ちょっと不気味でもある。
纏めて爆発したりしなければいいんだけど。
シオンが行動に移すのを止めたのを見て、K-Y
「なるほど、長鼻族(テング)の意向は理解した。
其方への干渉を行うなという事ならば、此方も其方への支援は行わないが、それで良いのだな?」
ベニマルが代表して問いただす。
前も言った通り、魔王の支配を受けないなら受けないでそれで良いのだ。
魔王によっては、不敬だから滅ぼすという行動に出る者もいるだろうけど、俺はその辺は寛容だ。
というか、面倒だ。
なので、そういう反応をする種族は好きにさせると皆には伝えている。
ベニマルはその事を受けて、そう確認したに過ぎない。
「ええ、それでいいわ」
その返事を聞いて、俺は頷く。
そして、ベニマルの話を引き継いで、
「判った。じゃあ、お互いに不干渉でいこう。
ただし、山に住みついた猪人族(ハイオーク)の権利は認めてやってくれ。
食料などの取引は好きに行うという事でいいか?」
「そうね。山の恵みに対しての権利は主張しない。
鉱石に関しても、実際我等には不要なモノだしね。
猪人族(ハイオーク)が住み着いた山に関しては口出ししないでおきましょう。
我等は干渉を嫌う、ただそれだけよ。
我等を軍事目的で招集しようとしないならば、それでいいわ」
「了解。それについては、問題ない。軍事力として、君達に関わらせるつもりはない。
軍は、志願制が望ましいと考えているんでね。
話は終わりだ。
ただまあ、せっかく遠くまで来てくれたんだし、ゆっくりして行ってくれ
この国の強者が、力試しをする大会を予定している。
見世物というか、娯楽にもなるだろうし、滅多に見れるものじゃないと思う。
ぜひ楽しんでいってくれ」
そんな感じで話を終えた。
志願制という言葉が聞きなれなかったのか、少し驚いた表情をしていたのが印象的だ。
友好的に交流出来るのが望ましいし、せっかく来たのだから武闘会でも見て、この国を楽しんでから帰ってくれたらいいと思ったのだ。
モミジという長鼻族(テング)の長老の孫娘は、
「ふふ。スライムに仕える者がどの程度のものか、見せて貰うわ。
どうせ、魔王になったのも運が良かっただけなのでしょうし、ね」
そんな事を抜け抜けと言い放って、その場を去って行った。
だが、その言葉は俺の申し出を受け入れたという意思表示。素直じゃない性格なのかもしれない。
モミジが去った後、
「我慢しましたが、アレは言いすぎでは?」
と、シオンが言い出す。
「だよな、ちょっとカチンと来たよ、俺も」
と、ベニマルまで。
まあ、上位種族と言うだけあって、Aランクには到達していた。
確かに、強いのだろう。だからまあ、不干渉でいたいというならば、無理に謙る事も無いだろう。
そう思ったので、
「あんなもんじゃねーの? 配下になりたい訳でも無いらしいし、敵対のつもりもないそうだし。
むしろ、山の権利を譲ってくれて良かったと思うよ?
鉱石とか、採取しまくってるじゃん。今更返せって言われたら、戦争になりかねないしね。
対等では無いし、向こうに困った事があったら態度も変わるんじゃないの?」
気楽に二人を諭す事にした。
厄介なのが、鉱山の権利である。まあ、元々、誰の山でも無いから問題ないのだ。
今回俺の物と正式に決定し、それを周知させるのが目的なのだから、もし文句を言うならその種族は敵対行動を取ると見做す事になる。
なので、不干渉で良かったのだ。
潰す事は出来るだろうけど、なるべくは友好的にやりたいと願うからなんだけどね。
多少生意気な対応は、目を瞑る事で話を締めくくったのだった。
続いてやってきた、二つの種族。
牛頭族(ゴズ)と馬頭族(メズ)である。
この種族はお互いに仲が悪く、100年戦争を続けているそうだ。
なので、対抗するようにやって来た。
今にも喧嘩に発展しそうな空気を纏わせて、お互いに牽制しまくりつつ俺の前に立つ。
そして、
「おう、魔王様よ。戦に役に立つなら、俺達、牛頭族(ゴズ)だぜ?
貧弱な馬頭族(メズ)を滅ぼすなら、手伝うぜ?」
「ふん、馬鹿め! 魔王というからには、見る目もあるさ。
迷う事は無い、我等、馬頭族(メズ)と組むがいい。SPANISCHE FLIEGE D5
牛頭族(ゴズ)どころか、逆らう魔物ども皆殺しにして見せるぞ!」
2014年4月9日星期三
終末の使徒
本当、冗談は止めて欲しい。
それが、ディーノの偽らざる心境であった。
倒したと思った端から、新手が現れる。しかも、その目的は自分の手の内を曝け出す事にあったらしい。SPANISCHE FLIEGE D6
目的であるラミリスの始末にも失敗するし、自身の脱出すらも困難な状況になった気がする。
監視されていたというのはどうやら本当の事であったらしく、ラミリスを守る者ごと殺すというディーノの思惑すらも読まれていたらしい。
そもそも、一体いつ、ラミリス本人を避難させたのかすらわからなかったのだ。
これは異常な事である。
最初から幻覚と会話していたとでも言うのか?
だが、究極能力(アルティメットスキル)を持つ自分を、まして催眠系を得意としているのにも関わらず騙し通せる程の幻覚をとなると、それは有り得ないだろうと思われる。
ゼギオンと名乗る蟲型魔人の強さは知っている。
迷宮内に帝国軍が侵攻した際、その圧倒的なまでの戦闘力にて、帝国軍の上位者のみを始末した魔人だ。
この、ラミリスの創り出した迷宮内にて、最強と呼べる存在であった。
(だから働くのなんて嫌だったんだよ……)
諦めにも似た思いで溜息を吐きつつ、この場における最善手を模索するディーノ。
そんなディーノにお構いなく、ゼギオンは悠然と歩を進める。
「何か、言い残す事はあるか?」
問うゼギオン。
「俺の手の内を暴く為に、わざと侵入を放置したんだろ?
ふざけるなよ、汚いぞ!」
自分の行いは棚に上げて、取り敢えず文句を言うディーノ。
言っても仕方ないのは理解しているので、単なる八つ当たりに過ぎないのだが。
「笑止。それが戦いだ」
「知ってるよ!」
言葉での遣り取りは終わり、両者の間に緊張が走る。
ディーノはゼギオンの強さを知っている。それはディーノに取って有利な点であり、利用するのは当然の事。
ユニークスキルの段階を超えて、戦闘に特化した能力を保有するゼギオン。
単純な近接戦闘能力のみを比した場合、究極能力(アルティメットスキル)を持つディーノよりもゼギオンの方が強いだろう。
ディーノの能力は精神攻撃に偏っており、直接的な攻撃力とは異なるからだ。
しかしディーノは、『怠惰之王(ベルフェゴール)』の能力を剣技にも織り交ぜた、変幻自在の幻影剣を編み出していた。
相手の認識を阻害し、戦闘を有利に進める事が出来る。
そして、タイミング良く力の解放を行う事で、アルベルトのような超一流の剣士以上の戦闘力を獲得していたのだ。
それでも、近接戦闘でゼギオンに対するのは不安があるとディーノは判断した。
ならば、出し惜しみしている場合ではない。
この場を乗り切る為には、奥の手だろうと最強の攻撃でゼギオンを仕留めるのが最善なのだ。
「はっ! 俺を舐めるなよ。これでも魔王の一柱(ひとり)、永き時を生きているんだ。
喰らえ、そして滅びるがいい! "堕天の一撃(フォールンストライク)"!!」
ディーノの編み出した幻影剣の最強奥義。
『怠惰之王(ベルフェゴール)』の能力解放を最大で行い、全力で放つ最高の一撃。
掠るだけで生きる意志を奪う、負の感情を刺激する波動を秘めている。
この攻撃に耐えうるのは、究極能力(アルティメットスキル)を持ち強い精神力を持つ者のみである。
ギィですら、直撃を喰らえば無事では済まないだろうとディーノは思う。
回避に成功したとしても、負の波動は全方位に放たれており、それを浴びるだけで戦闘力の低下は免れない。返す刀でトドメを刺せば良いのだ。
ディーノが自信を持って放つ、隠し玉であった。
ゼギオンは動かない。
ディーノの剣の軌道を確かめ、何でも無いように究極の金属(ヒヒイロカネ)の材質へと変化した左手の外骨格にてディーノの大剣"崩牙"を受け止めた。
「馬鹿め! 俺の剣は受け止めるだけでも致命傷となる。この勝負貰った!」
ディーノは叫ぶ。
最速攻撃だったが、案の定受け止められた。しかも、他愛ない攻撃だとでも言うように、片手で。
凄まじい衝撃が神話級(ゴッズ)の大剣(グレートソード)から生じているハズだが、小揺るぎもせずに立っている。憎らしい程に平然としていた。
だが、勝負はディーノの勝ちである。
幾らユニークスキルとは思えぬ程の高性能の防御能力をゼギオンが備えているとしても、究極能力(アルティメットスキル)による精神系攻撃の効果までは防げない。
剣による攻撃と思わせて油断させ、精神系の致死攻撃を放ったディーノの作戦は成功したようだった。SPANISCHE FLIEGE D9
ディーノはゼギオンが強いという事を知っていたが故に、得意とする近接攻撃を回避する事は無いと読みきったのだ。
「ふん。いい加減にして欲しいぜ、全く。
数分で復活してしまうんだろうし、さっさとラミリスを始末しねーとな……」
そう呟き、眠るラミリスを抱くソウエイに向き直るディーノ。
ディーノの『魔力感知』には、ソウエイの存在は希薄に感じられた。つまりは、このソウエイは分身体の一つであるという事。
分身の戦闘力は、本体に比べると脆弱なもの。
しかも、ソウエイは究極能力(アルティメットスキル)を持たない上に、ラミリスの"蘇生の腕輪"を所持していない事は把握している。
目の前に立つ者が本体だったとしても、脅威ではないのだ。
とは言え、奥の手を全て曝け出してしまった上に、残りの魔素量(エネルギー)も少なくなっている。
幹部を次々にぶつけられたのは、ディーノからしても想定外だった。
取っておきの切り札でゼギオンを倒せたのだから、復活して来る前に脱出すべきなのだ。
ディーノはソウエイに向けて歩き出そうとして……
強烈な悪寒を感じ、ゼギオンを振り向いた。
「問うが、貴様の攻撃は遅効性なのか?
この、痛痒も感じぬ微風(そよかぜ)のような攻撃で、オレを倒せるというのか?
この状況下ならば、そのような温い手段ではなく、即効性の攻撃を放つべきであろうよ」
先程までと変わらずに静かに立つゼギオンがそう告げるなり、握り締めた左手を前に突き出し手を開く。
放たれる五条の閃光。ゼギオンの次元等活切断波動(ディメンションレイ)である。
咄嗟の回避行動により、致命傷を避ける事に成功するディーノ。しかし、黒い翼と右腕を切断されてしまう。
「痛ってぇっ……」
ディーノは痛みに呻き蹲りたくなるが、それどころでは無い。
このままでは本当に危険だ、と本能が警告を発しているのを黙殺し、ディーノは叫ぶ。
「手前、何でだ。何で"死への催眠誘導(フォールンタナトス)"が効かない?
仮に仮想体であったとしても、だ……
離れた場所にいる本体へさえも影響を及ぼす、逃げ場の無い技なんだぞ!?」
叫ぶようなディーノの問いに、
「それに答える義理はオレには無い」
無情なまでに冷たいゼギオンの声が応えた。
しかし続けて、
「――だが、哀れな貴様(オマエ)に答えてやろう。
夢幻にして、幽玄。最初(・・)から、貴様はオレの能力の支配下にある。
幻想世界の王たる"幽幻王(ミストロード)"を名乗るこのオレに、精神攻撃は通じぬと知れ!」
慈悲を与える強者の声で、ゼギオンがディーノの問いに答えた。
それにより、ディーノはゼギオンが今の(・・)自分と同等の存在、いや或いは遥か格上になっている存在(モノ)なのだと気付く。
それはつまり――
(嘘だろ!?
繭になっているヤツや深い眠りに落ちているヤツ等を見たが、アレは進化の際に見られる現象……
まさか、魔王への進化(ハーベストフェスティバル)か? 全員、それで低位活動状態(スリープモード)に!?
だとしても……コイツは一体、どこまで強くなりやがったんだ!!)
何らかの現象による進化なのは把握していたディーノ。
しかし、覚醒魔王であるリムルの配下達が、主であるリムルと同等の存在まで進化するなど想像も出来ない事である。
これは、永き時を生きるディーノにさえも予想も付かない現象であった。
いや、そもそも、悪魔公(デーモンロード)級が数体居る時点で異常なのだ。
最強の精神生命体である悪魔達(デーモン)の最上位存在である彼等ならば、ディーノを止める事も可能な戦力となる。SPANISCHE FLIEGE
そう、先程のベレッタやアダルマン達のように。旧魔王に匹敵するか上回る戦力であると言えるのだ。
下手すれば、力だけならば覚醒魔王に匹敵する程の……
だが、目の前のゼギオンは、それどころの話では無いと理解した。
明らかに、異質。
覚醒魔王級であり、その能力は果てしなき力を感じさせた。
ディーノと同等、それはつまりは、究極能力(アルティメットスキル)を獲得している可能性を示唆する。
そして何より、自分の能力を無効化されたという事は、相手の能力の方が強いという事。
(馬鹿な……俺の能力は大罪系。究極能力(アルティメットスキル)の中でも上位能力なんだぞ!?)
普段から能力を隠して生きているディーノだったが、それは能力を完全に使いこなしているという事でもある。
決して弱い訳では無いのだ。
ただ相手が悪かった、いや、悪過ぎただけ……
最初から、この場はゼギオンの支配空間である。
それはつまり、一つの事実を指し示す。
「祈るが良い。罪の深淵に触れし者よ! 幻想次元波動嵐(ディメンションストーム)!!」
ゼギオンが、ディーノよりも強者であるという事実を。
虹色の嵐がディーノを飲み込み、ディーノの存在は無かったものへと掻き消された。
それは、正に次元の異なる高エネルギーの嵐。
ディーノは防御の術もなく、肉片一欠けらも残す事なく消滅――する筈だった。
「ほう、祈りが通じたか。悪運だけは良かったようだな」
ゼギオンが呟く。
どこかで何か(・・・)が壊れる小さな音が響き、ディーノの掻き消された筈の存在が再生される。
ゼギオンは、正しく状況を把握していた。
その声は落ち着いており、全ては予想の範囲内の出来事であったのだ。
そう、ディーノはありふれた腕輪(・・・)を左手に装備していた。
迷宮の前の露店で購入出来る、安物である。そう、それは"蘇生の腕輪"だった。
ラミリスが大量に作製した商品である。
迷宮内幹部が付けている本物と違い、一回だけしか使用出来ない粗悪品であったけれど。
ディーノは念の為に、休日にこの腕輪を購入していたのだった。幹部達が付けている本物は支給して貰えなかったからだ。
それを付けていると、位置も会話も全て筒抜けになると考えて、内心では安堵してもいたのだが。
ともかく、ディーノは粗悪品を準備して今回それを装備していたのである。
アイテムを生み出したラミリスを殺しに行くのに、その生み出したアイテムを保険に持つ。そんな節操のない事を平気で出来るのが、ディーノがディーノたる所以なのだ。
ディーノが腕輪を付けている事に、当然ゼギオンは気付いていた。
気付いた上で見逃したのである。
もっとも、それは一つの実験であった。
ラミリスに対し敵対意志を持つ者に対しても、ラミリスの加護が発動するのかどうか。
結果は御覧の通り。
ディーノが賭けに勝ったようだ。
ゼギオンにとっては、どちらに転んでも大した違いは無い。
この実験結果を得る事はついでであり、ラミリスを守り抜いた時点で勝利条件を満たすのだから。
ゼギオンは地面に横たえられたラミリスを抱き上げ、そっと長椅子へと寝かせる。
ソウエイは地上への応援へと向ったようだ。Motivator
ゼギオンも戦いに加わる予定であったが、どうやらその必要は無さそうである。
逃がしたディーノが撤退を主張するだろうし、すぐに片がつきそうだ。
逃げる気配が無いのなら、潰すまでである。
この場所の安全は確保された。もう直ぐベレッタやアダルマン達も復活するだろう。
ゼギオンはラミリスの無事をもう一度確認すると、静かに地上へと向けて歩き出すのだった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
本当に嫌になる。
ディーノは生き残った事を喜ぶよりも、作戦が失敗した事に憂鬱な気分になった。
というか、ゼギオンがあれほどの化け物になってしまっているのならば、正攻法による迷宮攻略は絶望的であろう。
恐らくは、先程までが最大のチャンスであり、それはもう完全に失われたと理解したのだ。
(って言うか、アイツ、強すぎるだろ!)
自分に対するトドメの攻撃も、理解の範疇から外れるものだった。
ディーノに対し、能力の片鱗を見せつけただけで、それ以外の一切の情報を秘匿してのけたのだ。
左手ではなく右手を切断したのも、見逃してやったぞ、というサインに違いない。
それに気付かない程にディーノは愚か者ではなかった。
何よりも、さっさと逃げなければ、あの化け物が地上にやって来る。
現状の保有戦力では、ゼギオンに勝利出来ないのは理解出来た。だからこそ、さっさと撤退すべきなのだ。
(これも、アイツの思惑通り、って事なんだろうな。
地上の仲間が不利だからこそ、俺に撤退を決意させたんだろう。
てか、腕輪を残したって事は、敵対意志を持つ者にもラミリスの能力が残っているのかの実験だろ?
そんな実験をする理由となると……
アイツ等、状況によっては、ラミリスを始末して迷宮を奪う事も視野に入れているって事か。
その実験に、俺が利用されたのか……ったく。
恐ろしく考えていやがる。
魔王リムル、本当に油断ならねー野郎だぜ……)
自分の考え付いた恐ろしい想像に、ディーノは魔王リムルへの評価を数段上方修正する事になった。
仲間のラミリスさえも利用し、必要なくなれば全てを奪い去るつもりなのだろう、と。
そんな、悪魔以上に恐るべき策謀を企てる者ならば、他にもどんな罠が張り巡らされているかわかったものではない。
ディーノは、地上の仲間の下へと急ぎ向ったのだった。蒼蝿水(FLY D5原液)
それが、ディーノの偽らざる心境であった。
倒したと思った端から、新手が現れる。しかも、その目的は自分の手の内を曝け出す事にあったらしい。SPANISCHE FLIEGE D6
目的であるラミリスの始末にも失敗するし、自身の脱出すらも困難な状況になった気がする。
監視されていたというのはどうやら本当の事であったらしく、ラミリスを守る者ごと殺すというディーノの思惑すらも読まれていたらしい。
そもそも、一体いつ、ラミリス本人を避難させたのかすらわからなかったのだ。
これは異常な事である。
最初から幻覚と会話していたとでも言うのか?
だが、究極能力(アルティメットスキル)を持つ自分を、まして催眠系を得意としているのにも関わらず騙し通せる程の幻覚をとなると、それは有り得ないだろうと思われる。
ゼギオンと名乗る蟲型魔人の強さは知っている。
迷宮内に帝国軍が侵攻した際、その圧倒的なまでの戦闘力にて、帝国軍の上位者のみを始末した魔人だ。
この、ラミリスの創り出した迷宮内にて、最強と呼べる存在であった。
(だから働くのなんて嫌だったんだよ……)
諦めにも似た思いで溜息を吐きつつ、この場における最善手を模索するディーノ。
そんなディーノにお構いなく、ゼギオンは悠然と歩を進める。
「何か、言い残す事はあるか?」
問うゼギオン。
「俺の手の内を暴く為に、わざと侵入を放置したんだろ?
ふざけるなよ、汚いぞ!」
自分の行いは棚に上げて、取り敢えず文句を言うディーノ。
言っても仕方ないのは理解しているので、単なる八つ当たりに過ぎないのだが。
「笑止。それが戦いだ」
「知ってるよ!」
言葉での遣り取りは終わり、両者の間に緊張が走る。
ディーノはゼギオンの強さを知っている。それはディーノに取って有利な点であり、利用するのは当然の事。
ユニークスキルの段階を超えて、戦闘に特化した能力を保有するゼギオン。
単純な近接戦闘能力のみを比した場合、究極能力(アルティメットスキル)を持つディーノよりもゼギオンの方が強いだろう。
ディーノの能力は精神攻撃に偏っており、直接的な攻撃力とは異なるからだ。
しかしディーノは、『怠惰之王(ベルフェゴール)』の能力を剣技にも織り交ぜた、変幻自在の幻影剣を編み出していた。
相手の認識を阻害し、戦闘を有利に進める事が出来る。
そして、タイミング良く力の解放を行う事で、アルベルトのような超一流の剣士以上の戦闘力を獲得していたのだ。
それでも、近接戦闘でゼギオンに対するのは不安があるとディーノは判断した。
ならば、出し惜しみしている場合ではない。
この場を乗り切る為には、奥の手だろうと最強の攻撃でゼギオンを仕留めるのが最善なのだ。
「はっ! 俺を舐めるなよ。これでも魔王の一柱(ひとり)、永き時を生きているんだ。
喰らえ、そして滅びるがいい! "堕天の一撃(フォールンストライク)"!!」
ディーノの編み出した幻影剣の最強奥義。
『怠惰之王(ベルフェゴール)』の能力解放を最大で行い、全力で放つ最高の一撃。
掠るだけで生きる意志を奪う、負の感情を刺激する波動を秘めている。
この攻撃に耐えうるのは、究極能力(アルティメットスキル)を持ち強い精神力を持つ者のみである。
ギィですら、直撃を喰らえば無事では済まないだろうとディーノは思う。
回避に成功したとしても、負の波動は全方位に放たれており、それを浴びるだけで戦闘力の低下は免れない。返す刀でトドメを刺せば良いのだ。
ディーノが自信を持って放つ、隠し玉であった。
ゼギオンは動かない。
ディーノの剣の軌道を確かめ、何でも無いように究極の金属(ヒヒイロカネ)の材質へと変化した左手の外骨格にてディーノの大剣"崩牙"を受け止めた。
「馬鹿め! 俺の剣は受け止めるだけでも致命傷となる。この勝負貰った!」
ディーノは叫ぶ。
最速攻撃だったが、案の定受け止められた。しかも、他愛ない攻撃だとでも言うように、片手で。
凄まじい衝撃が神話級(ゴッズ)の大剣(グレートソード)から生じているハズだが、小揺るぎもせずに立っている。憎らしい程に平然としていた。
だが、勝負はディーノの勝ちである。
幾らユニークスキルとは思えぬ程の高性能の防御能力をゼギオンが備えているとしても、究極能力(アルティメットスキル)による精神系攻撃の効果までは防げない。
剣による攻撃と思わせて油断させ、精神系の致死攻撃を放ったディーノの作戦は成功したようだった。SPANISCHE FLIEGE D9
ディーノはゼギオンが強いという事を知っていたが故に、得意とする近接攻撃を回避する事は無いと読みきったのだ。
「ふん。いい加減にして欲しいぜ、全く。
数分で復活してしまうんだろうし、さっさとラミリスを始末しねーとな……」
そう呟き、眠るラミリスを抱くソウエイに向き直るディーノ。
ディーノの『魔力感知』には、ソウエイの存在は希薄に感じられた。つまりは、このソウエイは分身体の一つであるという事。
分身の戦闘力は、本体に比べると脆弱なもの。
しかも、ソウエイは究極能力(アルティメットスキル)を持たない上に、ラミリスの"蘇生の腕輪"を所持していない事は把握している。
目の前に立つ者が本体だったとしても、脅威ではないのだ。
とは言え、奥の手を全て曝け出してしまった上に、残りの魔素量(エネルギー)も少なくなっている。
幹部を次々にぶつけられたのは、ディーノからしても想定外だった。
取っておきの切り札でゼギオンを倒せたのだから、復活して来る前に脱出すべきなのだ。
ディーノはソウエイに向けて歩き出そうとして……
強烈な悪寒を感じ、ゼギオンを振り向いた。
「問うが、貴様の攻撃は遅効性なのか?
この、痛痒も感じぬ微風(そよかぜ)のような攻撃で、オレを倒せるというのか?
この状況下ならば、そのような温い手段ではなく、即効性の攻撃を放つべきであろうよ」
先程までと変わらずに静かに立つゼギオンがそう告げるなり、握り締めた左手を前に突き出し手を開く。
放たれる五条の閃光。ゼギオンの次元等活切断波動(ディメンションレイ)である。
咄嗟の回避行動により、致命傷を避ける事に成功するディーノ。しかし、黒い翼と右腕を切断されてしまう。
「痛ってぇっ……」
ディーノは痛みに呻き蹲りたくなるが、それどころでは無い。
このままでは本当に危険だ、と本能が警告を発しているのを黙殺し、ディーノは叫ぶ。
「手前、何でだ。何で"死への催眠誘導(フォールンタナトス)"が効かない?
仮に仮想体であったとしても、だ……
離れた場所にいる本体へさえも影響を及ぼす、逃げ場の無い技なんだぞ!?」
叫ぶようなディーノの問いに、
「それに答える義理はオレには無い」
無情なまでに冷たいゼギオンの声が応えた。
しかし続けて、
「――だが、哀れな貴様(オマエ)に答えてやろう。
夢幻にして、幽玄。最初(・・)から、貴様はオレの能力の支配下にある。
幻想世界の王たる"幽幻王(ミストロード)"を名乗るこのオレに、精神攻撃は通じぬと知れ!」
慈悲を与える強者の声で、ゼギオンがディーノの問いに答えた。
それにより、ディーノはゼギオンが今の(・・)自分と同等の存在、いや或いは遥か格上になっている存在(モノ)なのだと気付く。
それはつまり――
(嘘だろ!?
繭になっているヤツや深い眠りに落ちているヤツ等を見たが、アレは進化の際に見られる現象……
まさか、魔王への進化(ハーベストフェスティバル)か? 全員、それで低位活動状態(スリープモード)に!?
だとしても……コイツは一体、どこまで強くなりやがったんだ!!)
何らかの現象による進化なのは把握していたディーノ。
しかし、覚醒魔王であるリムルの配下達が、主であるリムルと同等の存在まで進化するなど想像も出来ない事である。
これは、永き時を生きるディーノにさえも予想も付かない現象であった。
いや、そもそも、悪魔公(デーモンロード)級が数体居る時点で異常なのだ。
最強の精神生命体である悪魔達(デーモン)の最上位存在である彼等ならば、ディーノを止める事も可能な戦力となる。SPANISCHE FLIEGE
そう、先程のベレッタやアダルマン達のように。旧魔王に匹敵するか上回る戦力であると言えるのだ。
下手すれば、力だけならば覚醒魔王に匹敵する程の……
だが、目の前のゼギオンは、それどころの話では無いと理解した。
明らかに、異質。
覚醒魔王級であり、その能力は果てしなき力を感じさせた。
ディーノと同等、それはつまりは、究極能力(アルティメットスキル)を獲得している可能性を示唆する。
そして何より、自分の能力を無効化されたという事は、相手の能力の方が強いという事。
(馬鹿な……俺の能力は大罪系。究極能力(アルティメットスキル)の中でも上位能力なんだぞ!?)
普段から能力を隠して生きているディーノだったが、それは能力を完全に使いこなしているという事でもある。
決して弱い訳では無いのだ。
ただ相手が悪かった、いや、悪過ぎただけ……
最初から、この場はゼギオンの支配空間である。
それはつまり、一つの事実を指し示す。
「祈るが良い。罪の深淵に触れし者よ! 幻想次元波動嵐(ディメンションストーム)!!」
ゼギオンが、ディーノよりも強者であるという事実を。
虹色の嵐がディーノを飲み込み、ディーノの存在は無かったものへと掻き消された。
それは、正に次元の異なる高エネルギーの嵐。
ディーノは防御の術もなく、肉片一欠けらも残す事なく消滅――する筈だった。
「ほう、祈りが通じたか。悪運だけは良かったようだな」
ゼギオンが呟く。
どこかで何か(・・・)が壊れる小さな音が響き、ディーノの掻き消された筈の存在が再生される。
ゼギオンは、正しく状況を把握していた。
その声は落ち着いており、全ては予想の範囲内の出来事であったのだ。
そう、ディーノはありふれた腕輪(・・・)を左手に装備していた。
迷宮の前の露店で購入出来る、安物である。そう、それは"蘇生の腕輪"だった。
ラミリスが大量に作製した商品である。
迷宮内幹部が付けている本物と違い、一回だけしか使用出来ない粗悪品であったけれど。
ディーノは念の為に、休日にこの腕輪を購入していたのだった。幹部達が付けている本物は支給して貰えなかったからだ。
それを付けていると、位置も会話も全て筒抜けになると考えて、内心では安堵してもいたのだが。
ともかく、ディーノは粗悪品を準備して今回それを装備していたのである。
アイテムを生み出したラミリスを殺しに行くのに、その生み出したアイテムを保険に持つ。そんな節操のない事を平気で出来るのが、ディーノがディーノたる所以なのだ。
ディーノが腕輪を付けている事に、当然ゼギオンは気付いていた。
気付いた上で見逃したのである。
もっとも、それは一つの実験であった。
ラミリスに対し敵対意志を持つ者に対しても、ラミリスの加護が発動するのかどうか。
結果は御覧の通り。
ディーノが賭けに勝ったようだ。
ゼギオンにとっては、どちらに転んでも大した違いは無い。
この実験結果を得る事はついでであり、ラミリスを守り抜いた時点で勝利条件を満たすのだから。
ゼギオンは地面に横たえられたラミリスを抱き上げ、そっと長椅子へと寝かせる。
ソウエイは地上への応援へと向ったようだ。Motivator
ゼギオンも戦いに加わる予定であったが、どうやらその必要は無さそうである。
逃がしたディーノが撤退を主張するだろうし、すぐに片がつきそうだ。
逃げる気配が無いのなら、潰すまでである。
この場所の安全は確保された。もう直ぐベレッタやアダルマン達も復活するだろう。
ゼギオンはラミリスの無事をもう一度確認すると、静かに地上へと向けて歩き出すのだった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
本当に嫌になる。
ディーノは生き残った事を喜ぶよりも、作戦が失敗した事に憂鬱な気分になった。
というか、ゼギオンがあれほどの化け物になってしまっているのならば、正攻法による迷宮攻略は絶望的であろう。
恐らくは、先程までが最大のチャンスであり、それはもう完全に失われたと理解したのだ。
(って言うか、アイツ、強すぎるだろ!)
自分に対するトドメの攻撃も、理解の範疇から外れるものだった。
ディーノに対し、能力の片鱗を見せつけただけで、それ以外の一切の情報を秘匿してのけたのだ。
左手ではなく右手を切断したのも、見逃してやったぞ、というサインに違いない。
それに気付かない程にディーノは愚か者ではなかった。
何よりも、さっさと逃げなければ、あの化け物が地上にやって来る。
現状の保有戦力では、ゼギオンに勝利出来ないのは理解出来た。だからこそ、さっさと撤退すべきなのだ。
(これも、アイツの思惑通り、って事なんだろうな。
地上の仲間が不利だからこそ、俺に撤退を決意させたんだろう。
てか、腕輪を残したって事は、敵対意志を持つ者にもラミリスの能力が残っているのかの実験だろ?
そんな実験をする理由となると……
アイツ等、状況によっては、ラミリスを始末して迷宮を奪う事も視野に入れているって事か。
その実験に、俺が利用されたのか……ったく。
恐ろしく考えていやがる。
魔王リムル、本当に油断ならねー野郎だぜ……)
自分の考え付いた恐ろしい想像に、ディーノは魔王リムルへの評価を数段上方修正する事になった。
仲間のラミリスさえも利用し、必要なくなれば全てを奪い去るつもりなのだろう、と。
そんな、悪魔以上に恐るべき策謀を企てる者ならば、他にもどんな罠が張り巡らされているかわかったものではない。
ディーノは、地上の仲間の下へと急ぎ向ったのだった。蒼蝿水(FLY D5原液)
2014年4月7日星期一
最後の秘策
自分の名を呼んだ俺を一瞥して、しかしヒサメは何も言わずに自分の倒したゴールデンはぐれノライムのいた場所に向かった。花痴
大して気のないそぶりながら、その場にかがんで何かを拾い上げる。
「まさか……」
俺は信じられない思いで、ヒサメの拾い上げた物を見た。
それは、見覚えのある、いや、ありすぎるキラキラと光る金色の何か。
その答えを、あっさりと彼女は口にした。
「また、ノライム金貨ですか」
そしてそれを聞いて、俺は答えが分かっていたにもかかわらず不思議な衝撃を受けた。
ノライム金貨はゴールデンはぐれノライムのドロップアイテムであり、納品依頼、そして今回の討伐大会の納品可能アイテムでもある。
ただしそのドロップ率は低く、たったの10%。
しかしその小さな金貨が、この大会では大きな意味を持つ。
基本的に、討伐も納品も、一匹当たりの報酬の期待値は同じになるように出来ている。
ノライム金貨のドロップ率は10%で、単純に倒すことと比べると、その入手難度は実に10倍。
だからもらえる報酬の額も、ノライム討伐の10倍になる。
しかし、そうは言っても10%のドロップ率のアイテムだから、そう簡単には手に入らないはずだが……。
(そうか、クリティカルポイント…!)
ヒサメがノライムを真ん中から二つに斬ったのは、俺に自分の実力を見せつけるためだと思っていた。
しかし、それだけではない。
真ん中から斬るということは、額の急所を、つまりクリティカルポイントを斬るということ。
クリティカル補正によって、ヒサメが倒した敵からドロップアイテムを手に入れられる確率は倍になる。
そしてそれは、納品での報酬の合計が二倍になり、結果的に一匹当たりの報酬額も普通に倒した場合の1.5倍になることを意味している。
(しまったな。完全に想定外だ)
クリティカルポイントでのドロップ率アップのシステムは、完全にプレイヤーのための物だというゲームからの先入観があった。
しかし、急所でトドメを刺せばアイテムを落としやすくなるというのは作中のキャラも話していた。
ゲームシステムの中でも、この世界の住人にも浸透している、冒険者の常識なのだ。
なのに他の人間がそれを狙ってくると考えなかったのは、どうしてもこの世界に生きている人間をNPCのように考えてしまう悪癖がまだ抜けていなかったということか。
(いや、でもそんなこと、普通は考えないだろ)
無数のスキルを駆使する俺だって、動いているゴールデンはぐれノライムのクリティカルポイントに攻撃するなんて離れ業はまだ出来ていない。
というか、おそらくそんなことが出来るのは、『猫耳猫』キャラの中でもヒサメくらいだ。
数ある有名キャラクターの中で、なぜよりにもよってこいつがやってくるのか。
世の中の理不尽さを感じる。
(考えてみれば、ヒサメってまさにこの大会のためにいるようなキャラじゃないか……)
防御力の高いゴールデンを一撃で倒せるだけの高い攻撃力。
逃げるゴールデンに追いつき、そのクリティカルポイントを正確に狙えるだけの速度と技量。
そして、無数に存在するポップポイントを素早く回れるだけの移動速度。福源春
この三つがそろったヒサメなら、俺の予想をはるかに超えた高得点を出してくる可能性がある。
50匹倒せれば大丈夫なんて言ったが、とんでもない。
80匹で盤石というのも、もはや怪しい。
確実にヒサメに勝とうと思ったら、100匹、いや120匹くらいは倒さなければ無理ではないかと思ってしまった。
「貴方に真剣勝負を挑むような事はもうしません」
その時、コインを袋にしまったヒサメが突然そんな言葉を口にした。
あいかわらず気のない雰囲気を見せているが、これは、もしかして……。
「けれど、貴方は他人と何かを競う事までは禁じはしなかったはずです。
ですからこれは、貴方との約束を破った事には……」
「もしかしてあんた、俺に負けたことをまだ気にしてるのか?」
ミツキであればゴールデンはぐれノライムよりも簡単にレベル上げの出来る敵がいるだろうし、転移石を使い捨てに出来る彼女がお金を欲しがっているとも思えない。
まさか、彼女がこの大会に参加したのは、俺への……。
「……貴方も何やら、隅の方で細々と狩りを楽しんでいたようですね」
露骨に話を逸らした!
まさか本当に、俺に負けたのが悔しくてリベンジしに来たのか?
しかし、そんな俺の疑惑の眼差しにもヒサメは全くびくともしない。
態度にも顔にも不自然な所は全くなく、完全なポーカーフェイス。
いつもと違う所と言えば、ぴょこぴょこぴょこぴょこと忙しなく動く猫耳くらいだった。
めまぐるしく猫耳を動かしながら、ヒサメは平然と話を続ける。
「けれど、ここから先に行く必要はありません。
もう、大勢は決しています」
しかし、そう口にした時だけは猫耳も誇らしげにぴんと立った。
嫌な予感がする。
「……それは、どうかな?
勝負って奴は、ふたを開けて見るまで分からない物だぞ?」
なんて言ってはみるが、彼女の自信にはちょっと鼻白んだ。
しかも、ゆさぶりをかけたつもりなのに、猫耳はぴんと立ったまま動かない。
本当に動揺していないようだ。
「そう思うのなら、足掻いてみればいいでしょう。
私は、もうすぐ終わります」
「終わる?」
思わず漏らした俺の疑問の声に、少しだけ猫耳を反応させて、
「…私は、あと10分もすれば街に戻るだろうという事です。
街で待っています。
今度はあまり、待たせないで下さい」
それだけを言うと、すぐにヒサメは背を向けた。
現れた時と同じ、目で追うのもやっとという速さで、最初に来た時とは逆の方向に駆け抜けていく。
「……ソーマ」
その消えていった方角を呆然と眺めていた俺は、隣から名前を呼ばれて、はっと我に返った。
やはり不安げなリンゴの瞳が、俺を見上げていた。勃動力三体牛鞭
ゲームの設定のせいか、あるいは記憶と立ち位置を奪われたせいなのか、最初はあまり感情を見せなかったリンゴだが、最近段々と人間らしくなってきたような気がする。
ここは一つ、俺がしっかりと話して不安を和らげてやらなければ。
「……大丈夫だ、リンゴ」
俺は、しっかりとリンゴと目を合わせ、肩に手を置いて力強く言った。
「2位だって、賞金3倍もらえるから!」
なぜか、凄く嫌そうな顔をされた。
そうは言ったものの、やっぱり順位は出来るだけ上げたいし、お金だって出来るだけ稼ぎたい。
そこから俺たちは、今までの計画を全部白紙にして、ヒサメの存在を意識した新しい方針を考えた。
まず、ヒサメと張り合うことはやめる。
どう考えてもヒサメの殲滅速度と移動速度に追いつけるとは思えない。
今後はとにかく、ヒサメとかち合わないように動くべきだ。
ヒサメと遭遇したのは、マップ中央よりいくらか南に進んだ辺り。
そこに彼女は北東方向からやってきて、やや南寄りの西方面に走り去った。
そこから彼女の動きはある程度予想出来る。
ヒサメは俺に、『隅の方で細々と狩りを楽しんでいる』と言った。
つまりヒサメは、俺の動きを探索者の指輪で把握していたと想像出来る。
彼女はそれ以前に俺に会おうと思えば会えた。
なのにこれまで遭遇しなかったのは、彼女にその気がなかったからだ。
では逆に、なぜこのタイミングで俺に遭遇したのか。
それはおそらく、俺とは逆側、北の方からゴールデンを倒していき、この場所より北はある程度回り尽くしてしまったのではないかという仮説が立つ。
一人ローラー作戦、あるいは一人絨毯爆撃とでも言うべきか。
いや、彼女以外の誰かだったらそんな恐ろしいことは考えないのだが、ヒサメの機動力ならあるいは、と思わされてしまうから不思議だ。
その仮説からすると、彼女は東西にジグザグに移動しながら、少しずつ北から南に進んできたのではないだろうか。
少なくともそう考えると、彼女が北東からやってきて、南西に走り去ったという動きの意味が分かる。
根拠はほとんどないが、ヒサメがそう動いてきたという前提で考えてみよう。
その場合、俺はどうやって動くべきか。
選択肢の一つとして、まず全力で北に抜けるという作戦が挙げられる。
いくら彼女でもポップしていない敵を倒すことは不可能だ。
ローラー作戦を最初に始めた一番北側であれば、ヒサメが回った時点でまだモンスターがほとんどポップしていなかったという可能性はある。
10匹残っているポップポイントはなくても、6匹程度残っているポップポイントなら大量に見つけられるかもしれない。
しかし、それは下策だろう。
北側はヒサメ以外の参加者も多いし、そもそもヒサメが討ち漏らしを気にして戻っていた可能性もある。
移動にも時間がかかるだろうし、それで成果がなしとなれば目も当てられない。
ならいっそ逆に、南に戻るというのはどうだろうか。
ヒサメは南西に進んでいったものの、彼女の動きが今まで通りだとしたら、南の端に来るまでには時間がかかるだろう。
それに俺たちは南、やや東寄りから回り始め、南西の方を経由して反転、中央寄りにやってきた。
ヒサメの動きが俺の想像した通りなら、という前提だが、南東の端の方は俺もヒサメもまだ手をつけていないことになる。
こっちに進んだ欠点を言えば、端狙いの参加者とかち合う可能性があること。
それに、南東を回っている内に他の全ての地域をヒサメに押さえられてしまい、他からの得点が望めなくなる危険性があることだろうか。蒼蝿水
(いや、それでもこれで行こう)
ヒサメと正面からやり合ったりはしないともう決めた。
なら現時点で一番ポイントを獲得出来そうな南東に向かうのが上策だろう。
「リンゴ、南に戻ろう。
南なら、まだ誰も手を付けてないポイントがあるかもしれない」
俺がそう言うとリンゴは小さくうなずいた。
さらに、
「…てわけ、する?」
ヒサメの存在に危機感を覚えたのか、そんな提案までしてきた。
だが、それには俺はすぐに首を横に振った。
「いや、倒し方自体は変えない。
たぶん、今のやり方が最善だと思う」
一瞬だけ、効率を上げるために二手に分かれることも考えたが、それは逆効果だろう。
というか少なくとも俺は、一人でゴールデンはぐれノライムを倒せる気がしない。
「…ん」
今の俺たちの連携がうまくいっていることは、リンゴも分かってはいたようだ。
すぐに納得してくれた。
「とりあえず、ゴールデンを探すことより移動を優先しよう。
全力で移動するぞ」
リンゴがもう一度うなずいたのを確認すると、俺は神速キャンセル移動で南東に向けて移動を始めた。
そして、大会開始から1時間が過ぎた。
30分時点では22匹だった狩りの成功数は、なんと3倍の66匹まで伸びた。
作戦が図に当たり、南東の端で手つかずのポップポイントをいくつも見つけたことが勝因だった。
まとまった数のゴールデンはぐれノライムをどうやって仕留めるかというのが次の課題になったが、そこは逃亡系モンスターの習性をうまく利用した。
逃亡系モンスターは近付いても攻撃を受けても逃げるが、攻撃された場合と違い、近付いた場合は一定距離を逃げるとそこで一度逃亡をやめる。
それに、大量発生したモンスターはエリア外には出ないというルールも利用した。
俺たちは少しずつゴールデンに接近して群れを分散させ、ばらついた所を各個撃破、あるいはエリアの南端まで追い込み、そこで一体ずつ確実に仕留めていった。
もちろんたくさんを相手にすると失敗も多くなる訳で、2、3匹仕留め損ねた奴はいたが、ここで大量にポイントを獲得することが出来た。
南端につくまで脇目も振らずに走ったこと。
リンゴの全力疾走が俺よりも速く、休みを挟んだ俺の神速キャンセル移動についてきたこともこの作戦が成功した要因と言えるだろう。
それに、意外にも南東の端以外にもゴールデンが残っているポイントがあった。
なぜだか知らないが、ヒサメも南の端の辺りまでは来なかったらしい。
南東のように一気に10匹だとか9匹だとかは行かなかったが、そこで地味に何匹分か、追加でスコアを増やすことが出来た。SEX DROPS
大して気のないそぶりながら、その場にかがんで何かを拾い上げる。
「まさか……」
俺は信じられない思いで、ヒサメの拾い上げた物を見た。
それは、見覚えのある、いや、ありすぎるキラキラと光る金色の何か。
その答えを、あっさりと彼女は口にした。
「また、ノライム金貨ですか」
そしてそれを聞いて、俺は答えが分かっていたにもかかわらず不思議な衝撃を受けた。
ノライム金貨はゴールデンはぐれノライムのドロップアイテムであり、納品依頼、そして今回の討伐大会の納品可能アイテムでもある。
ただしそのドロップ率は低く、たったの10%。
しかしその小さな金貨が、この大会では大きな意味を持つ。
基本的に、討伐も納品も、一匹当たりの報酬の期待値は同じになるように出来ている。
ノライム金貨のドロップ率は10%で、単純に倒すことと比べると、その入手難度は実に10倍。
だからもらえる報酬の額も、ノライム討伐の10倍になる。
しかし、そうは言っても10%のドロップ率のアイテムだから、そう簡単には手に入らないはずだが……。
(そうか、クリティカルポイント…!)
ヒサメがノライムを真ん中から二つに斬ったのは、俺に自分の実力を見せつけるためだと思っていた。
しかし、それだけではない。
真ん中から斬るということは、額の急所を、つまりクリティカルポイントを斬るということ。
クリティカル補正によって、ヒサメが倒した敵からドロップアイテムを手に入れられる確率は倍になる。
そしてそれは、納品での報酬の合計が二倍になり、結果的に一匹当たりの報酬額も普通に倒した場合の1.5倍になることを意味している。
(しまったな。完全に想定外だ)
クリティカルポイントでのドロップ率アップのシステムは、完全にプレイヤーのための物だというゲームからの先入観があった。
しかし、急所でトドメを刺せばアイテムを落としやすくなるというのは作中のキャラも話していた。
ゲームシステムの中でも、この世界の住人にも浸透している、冒険者の常識なのだ。
なのに他の人間がそれを狙ってくると考えなかったのは、どうしてもこの世界に生きている人間をNPCのように考えてしまう悪癖がまだ抜けていなかったということか。
(いや、でもそんなこと、普通は考えないだろ)
無数のスキルを駆使する俺だって、動いているゴールデンはぐれノライムのクリティカルポイントに攻撃するなんて離れ業はまだ出来ていない。
というか、おそらくそんなことが出来るのは、『猫耳猫』キャラの中でもヒサメくらいだ。
数ある有名キャラクターの中で、なぜよりにもよってこいつがやってくるのか。
世の中の理不尽さを感じる。
(考えてみれば、ヒサメってまさにこの大会のためにいるようなキャラじゃないか……)
防御力の高いゴールデンを一撃で倒せるだけの高い攻撃力。
逃げるゴールデンに追いつき、そのクリティカルポイントを正確に狙えるだけの速度と技量。
そして、無数に存在するポップポイントを素早く回れるだけの移動速度。福源春
この三つがそろったヒサメなら、俺の予想をはるかに超えた高得点を出してくる可能性がある。
50匹倒せれば大丈夫なんて言ったが、とんでもない。
80匹で盤石というのも、もはや怪しい。
確実にヒサメに勝とうと思ったら、100匹、いや120匹くらいは倒さなければ無理ではないかと思ってしまった。
「貴方に真剣勝負を挑むような事はもうしません」
その時、コインを袋にしまったヒサメが突然そんな言葉を口にした。
あいかわらず気のない雰囲気を見せているが、これは、もしかして……。
「けれど、貴方は他人と何かを競う事までは禁じはしなかったはずです。
ですからこれは、貴方との約束を破った事には……」
「もしかしてあんた、俺に負けたことをまだ気にしてるのか?」
ミツキであればゴールデンはぐれノライムよりも簡単にレベル上げの出来る敵がいるだろうし、転移石を使い捨てに出来る彼女がお金を欲しがっているとも思えない。
まさか、彼女がこの大会に参加したのは、俺への……。
「……貴方も何やら、隅の方で細々と狩りを楽しんでいたようですね」
露骨に話を逸らした!
まさか本当に、俺に負けたのが悔しくてリベンジしに来たのか?
しかし、そんな俺の疑惑の眼差しにもヒサメは全くびくともしない。
態度にも顔にも不自然な所は全くなく、完全なポーカーフェイス。
いつもと違う所と言えば、ぴょこぴょこぴょこぴょこと忙しなく動く猫耳くらいだった。
めまぐるしく猫耳を動かしながら、ヒサメは平然と話を続ける。
「けれど、ここから先に行く必要はありません。
もう、大勢は決しています」
しかし、そう口にした時だけは猫耳も誇らしげにぴんと立った。
嫌な予感がする。
「……それは、どうかな?
勝負って奴は、ふたを開けて見るまで分からない物だぞ?」
なんて言ってはみるが、彼女の自信にはちょっと鼻白んだ。
しかも、ゆさぶりをかけたつもりなのに、猫耳はぴんと立ったまま動かない。
本当に動揺していないようだ。
「そう思うのなら、足掻いてみればいいでしょう。
私は、もうすぐ終わります」
「終わる?」
思わず漏らした俺の疑問の声に、少しだけ猫耳を反応させて、
「…私は、あと10分もすれば街に戻るだろうという事です。
街で待っています。
今度はあまり、待たせないで下さい」
それだけを言うと、すぐにヒサメは背を向けた。
現れた時と同じ、目で追うのもやっとという速さで、最初に来た時とは逆の方向に駆け抜けていく。
「……ソーマ」
その消えていった方角を呆然と眺めていた俺は、隣から名前を呼ばれて、はっと我に返った。
やはり不安げなリンゴの瞳が、俺を見上げていた。勃動力三体牛鞭
ゲームの設定のせいか、あるいは記憶と立ち位置を奪われたせいなのか、最初はあまり感情を見せなかったリンゴだが、最近段々と人間らしくなってきたような気がする。
ここは一つ、俺がしっかりと話して不安を和らげてやらなければ。
「……大丈夫だ、リンゴ」
俺は、しっかりとリンゴと目を合わせ、肩に手を置いて力強く言った。
「2位だって、賞金3倍もらえるから!」
なぜか、凄く嫌そうな顔をされた。
そうは言ったものの、やっぱり順位は出来るだけ上げたいし、お金だって出来るだけ稼ぎたい。
そこから俺たちは、今までの計画を全部白紙にして、ヒサメの存在を意識した新しい方針を考えた。
まず、ヒサメと張り合うことはやめる。
どう考えてもヒサメの殲滅速度と移動速度に追いつけるとは思えない。
今後はとにかく、ヒサメとかち合わないように動くべきだ。
ヒサメと遭遇したのは、マップ中央よりいくらか南に進んだ辺り。
そこに彼女は北東方向からやってきて、やや南寄りの西方面に走り去った。
そこから彼女の動きはある程度予想出来る。
ヒサメは俺に、『隅の方で細々と狩りを楽しんでいる』と言った。
つまりヒサメは、俺の動きを探索者の指輪で把握していたと想像出来る。
彼女はそれ以前に俺に会おうと思えば会えた。
なのにこれまで遭遇しなかったのは、彼女にその気がなかったからだ。
では逆に、なぜこのタイミングで俺に遭遇したのか。
それはおそらく、俺とは逆側、北の方からゴールデンを倒していき、この場所より北はある程度回り尽くしてしまったのではないかという仮説が立つ。
一人ローラー作戦、あるいは一人絨毯爆撃とでも言うべきか。
いや、彼女以外の誰かだったらそんな恐ろしいことは考えないのだが、ヒサメの機動力ならあるいは、と思わされてしまうから不思議だ。
その仮説からすると、彼女は東西にジグザグに移動しながら、少しずつ北から南に進んできたのではないだろうか。
少なくともそう考えると、彼女が北東からやってきて、南西に走り去ったという動きの意味が分かる。
根拠はほとんどないが、ヒサメがそう動いてきたという前提で考えてみよう。
その場合、俺はどうやって動くべきか。
選択肢の一つとして、まず全力で北に抜けるという作戦が挙げられる。
いくら彼女でもポップしていない敵を倒すことは不可能だ。
ローラー作戦を最初に始めた一番北側であれば、ヒサメが回った時点でまだモンスターがほとんどポップしていなかったという可能性はある。
10匹残っているポップポイントはなくても、6匹程度残っているポップポイントなら大量に見つけられるかもしれない。
しかし、それは下策だろう。
北側はヒサメ以外の参加者も多いし、そもそもヒサメが討ち漏らしを気にして戻っていた可能性もある。
移動にも時間がかかるだろうし、それで成果がなしとなれば目も当てられない。
ならいっそ逆に、南に戻るというのはどうだろうか。
ヒサメは南西に進んでいったものの、彼女の動きが今まで通りだとしたら、南の端に来るまでには時間がかかるだろう。
それに俺たちは南、やや東寄りから回り始め、南西の方を経由して反転、中央寄りにやってきた。
ヒサメの動きが俺の想像した通りなら、という前提だが、南東の端の方は俺もヒサメもまだ手をつけていないことになる。
こっちに進んだ欠点を言えば、端狙いの参加者とかち合う可能性があること。
それに、南東を回っている内に他の全ての地域をヒサメに押さえられてしまい、他からの得点が望めなくなる危険性があることだろうか。蒼蝿水
(いや、それでもこれで行こう)
ヒサメと正面からやり合ったりはしないともう決めた。
なら現時点で一番ポイントを獲得出来そうな南東に向かうのが上策だろう。
「リンゴ、南に戻ろう。
南なら、まだ誰も手を付けてないポイントがあるかもしれない」
俺がそう言うとリンゴは小さくうなずいた。
さらに、
「…てわけ、する?」
ヒサメの存在に危機感を覚えたのか、そんな提案までしてきた。
だが、それには俺はすぐに首を横に振った。
「いや、倒し方自体は変えない。
たぶん、今のやり方が最善だと思う」
一瞬だけ、効率を上げるために二手に分かれることも考えたが、それは逆効果だろう。
というか少なくとも俺は、一人でゴールデンはぐれノライムを倒せる気がしない。
「…ん」
今の俺たちの連携がうまくいっていることは、リンゴも分かってはいたようだ。
すぐに納得してくれた。
「とりあえず、ゴールデンを探すことより移動を優先しよう。
全力で移動するぞ」
リンゴがもう一度うなずいたのを確認すると、俺は神速キャンセル移動で南東に向けて移動を始めた。
そして、大会開始から1時間が過ぎた。
30分時点では22匹だった狩りの成功数は、なんと3倍の66匹まで伸びた。
作戦が図に当たり、南東の端で手つかずのポップポイントをいくつも見つけたことが勝因だった。
まとまった数のゴールデンはぐれノライムをどうやって仕留めるかというのが次の課題になったが、そこは逃亡系モンスターの習性をうまく利用した。
逃亡系モンスターは近付いても攻撃を受けても逃げるが、攻撃された場合と違い、近付いた場合は一定距離を逃げるとそこで一度逃亡をやめる。
それに、大量発生したモンスターはエリア外には出ないというルールも利用した。
俺たちは少しずつゴールデンに接近して群れを分散させ、ばらついた所を各個撃破、あるいはエリアの南端まで追い込み、そこで一体ずつ確実に仕留めていった。
もちろんたくさんを相手にすると失敗も多くなる訳で、2、3匹仕留め損ねた奴はいたが、ここで大量にポイントを獲得することが出来た。
南端につくまで脇目も振らずに走ったこと。
リンゴの全力疾走が俺よりも速く、休みを挟んだ俺の神速キャンセル移動についてきたこともこの作戦が成功した要因と言えるだろう。
それに、意外にも南東の端以外にもゴールデンが残っているポイントがあった。
なぜだか知らないが、ヒサメも南の端の辺りまでは来なかったらしい。
南東のように一気に10匹だとか9匹だとかは行かなかったが、そこで地味に何匹分か、追加でスコアを増やすことが出来た。SEX DROPS
2014年4月3日星期四
その名を呼んで
「――もしかして魔王さん、さっき溺れて死んじゃったんじゃないかな?」
あまりに突拍子もない真希の言葉に、束の間息が止まった。三便宝
一瞬脳裏に『ポセイダルの悲劇』という文字列が浮かび、だがすぐに俺は首を横に振った。
いや、いくら何でも魔王がそんなギャグ漫画みたいな死に方をするはずがない。
「まさか、流石にそんなことはないって。
第一、もし魔王が死んじゃったなら今頃呪いだって解けて……」
そう、俺が言いかけた時だった。
突然耳の奥に直接響くように、聞き慣れた声が飛び込んでくる。
『最後にソーマさんと結婚できて、わたし――って、ど、どこですかここ!!』
「え?! イーナ!?」
猫耳屋敷で固まっていたはずのイーナの声に、俺は思わず叫んでいた。
そんな俺に、イーナは切羽詰まった声で話し出して、
『そ、ソーマさんですか!? へ、変なんです!!
わたし、さっきまで木の上にいたはずなのに、いきなりお屋敷みたいな部屋にいて……。
それにこの、ジリリリリって音……ひゃっ!
壁! 壁に赤い手形が! どんどん、どんどん近付いて……。
きゃ、きゃああああ!! 箱の中から女の人が!!
あ、ああぁ……。今度は外から、外からたくさんの、に、人形が!!
な、何ですか!? 何なんですか、これ!!
たす、助けて! 助けてください、ソーマさ――』
そこで、イーナからの通信は途絶えた。
(……しまった。屋敷の奴らにイーナをおどかさないように注意しとくの忘れてた)
どっと冷や汗が噴き出す。
今頃恐怖体験をしているイーナのこともそうだが、何より俺に向けられる仲間たちの視線が痛い。
「え、えっと……」
通信リングの声はほかの人には届かない。
イーナの声を聞いたのは俺だけのはずだが、途中で俺がイーナの名前を呼んだせいで、通信の相手が彼女だというのはもう仲間にはばれてしまっただろう。
全員が、説明を求めるように俺を見てくる。
その圧力に耐え切れず、俺は仕方なく拳を突き上げて、言った。
「……よし、作戦成功だ!!」
火山に、冷たい視線のブリザードが吹き荒れた。
――『ポセイダルの悲劇』。
後になってそんな風に呼ばれることになった、事件とも言えない事件がかつて『猫耳猫』にはあった。
舞台は俺たちが水龍の指輪を取りに訪れた海底都市。
この海底都市について、「宝物庫を守るボスモンスターがいる」という情報が確かにあったのに、プレイヤーが実際に訪れてみると宝物庫の前は無人だったという報告が、『猫耳猫』関連のネット掲示板に何件も寄せられた。巨人倍増枸杞カプセル
それどころか、このボスについて情報を募ったところ、その時点で海底都市のボスに出会ったというプレイヤーは一人もいなかったのだ。
……明らかなバグ。
だがそれだけなら、ボスモンスターを設定し忘れた、あるいは海底都市に関する情報を間違って載せただけ、とも考えられる。
ただ、これが大きく話題になったのは、その宝物庫の前、ちょうどボス戦が行えそうな大きな広間には、初回に限り必ずマジックシードが落ちていることが原因だった。
一度しか出てこないユニークボスは、そのボスの種類に応じ、必ずパワー・マジック・ディフェンス・マインドシードのどれかを落とす。
逆に言えば、これらのシード系アイテムがそれ以外の方法で手に入ることは滅多にない。
このことから、『猫耳猫』プレイヤーたちは海底都市にはボスモンスターがいるが、何らかの原因でプレイヤーが辿り着く前に死んでしまっている、と推論を立てた。
もちろん無駄に探究心旺盛な『猫耳猫』プレイヤーたちのことだ。
彼らは当然のようにこの謎に興味を示し、その理由を解明せんと動き出した。
ただ、どんなに早く海底都市を見つけ、どんなに早く宝物庫に向かっても、そこでボスモンスターに遭遇することは出来なかった。
確認出来ない以上、噂は噂でしかない。
海底都市のボスモンスターの話は時と共に風化していったのだが、その後、新しいパッチが当てられたことによって真実は明らかになった。
ver1.03のパッチを当てて以降、海底都市にポセイダルというボスモンスターが出現するようになり、そのボスがマジックシードを落とすことが判明したのだ。
ある意味では『猫耳猫』スタッフより粘着質でしつこい『猫耳猫』プレイヤーたちはその原因の特定に動き、そしてパッチにあった更新情報からその一文を見つけた。
・一部のボスに水棲属性が正しく適用されていなかった不具合を修正
水棲属性とはつまり水中適性のことで、正しく適用されていなかったとか言っているが、要は「ボスに水中適性をつけるの忘れてた」という告白だと『猫耳猫』プレイヤーは判断した。
水中適性がないキャラクターやモンスターは水中で速度が低下し、一定時間ごとに最大HPに比例した割合ダメージを受ける。
この「最大HPに比例した割合ダメージ」というのがミソで、このペナルティの前には最大HPが多かろうが少なかろうが関係ない。
膨大なHPを誇るはずのボスモンスター、ポセイダルも、水棲属性の設定忘れのためにこの継続ダメージで死んでしまっていたらしいということが判明したのだ。
そして、これが俺の違和感の原因。
俺が作戦を立てる上で見逃してしまった要素であり、今回の魔王の死因でもある。
魔王は完全耐性を持っているから、水に沈めてもダメージを受けるはずがない、と考えていたが、それは早合点だった。
よく誤解されるのだが、水棲属性という奴は各種の属性耐性、状態異常耐性とは全く別の物だ。
実際、水棲属性がなくて死んでしまったポセイダルは、水属性に対する耐性は完全だった。
俺もなんとなく、「完全耐性って言うくらいだから水棲属性くらい持ってるだろ」と思って思考停止してしまっていたが、全くそんなことはなかったようだ。
そもそも「魔王城を水に沈める」という戦法自体がこの世界が現実になったから出来たことで、当然ながらゲームの中では魔王が水の中に沈んでしまう事態などありえない。
普通に考えて、水中に行くはずもないモンスターに水中での適性をつけるというのもおかしな話だ。
これをバグと言って責めるのは、流石に酷というものだろう。中絶薬RU486
と、ここまで理屈をつけても魔王が溺死なんてやっぱり信じがたいのだが、残念ながらそう考えるとさっき起こった様々な異変に説明がつけられてしまう。
まず、俺が魔王城に乗り込もうとした時に感じた悪寒。
あれは、魔王のHPが一割を切ったことによって発動した、魔王の『本気モード』のせいだったのではないかと想像出来る。
流石にあの大きな火山に水を溜めるには、随分な時間がかかった。
魔王城が完全に沈み込む前から魔王の間には水が入り込んでいたはずで、おそらく魔王城が沈んだ時点で、魔王のHPはかなり減っていたのだろう。
そして、魔王はHPが一割以下になると『本気モード』になって攻撃パターンが変わる。
ゲームでもその瞬間には強烈な嫌な予感を覚えたものだが、あれは俺の勘が何かを察知したとかではなく、ゲームシステム側によるイベント演出だったのだろう。
あの不吉な予感が魔王が『本気モード』になった証だとすると、その時点で既に魔王は虫の息。
いくら攻撃力や防御力が上がろうが水による割合ダメージには全く関係ないので、そのすぐ後に魔王は死んでしまったのだと想像出来る。
そうすると、悪寒からほんの少し時間を置いて光の柱が立ち上った理由も分かる。
ゲームで魔王が死んだ時、死亡エフェクトとして強烈な光を発していた。
その時はあまりに近距離だったため、まぶしすぎて直視出来なかったが、たぶんあれが、俺たちが今日目撃した光の柱だ。
通常、魔王を倒した時は魔王城の中にいるから見えないが、魔王の死亡エフェクトの光は魔王城を突き抜けて天に昇り、魔王の力の象徴である雲を消し去ってしまう、という演出がされていたのだろう。
……見えないところにまでこだわっていると言えば聞こえはいいが、そういう無駄なところに凝る暇があったらバグを一個でもなくしてくれればいいのに、とも思う。
まあその辺りが『猫耳猫』クオリティなんて言われる所以なのだろう。
結局スタッフロールは流れなかったし、倒し方が倒し方だけになんとなく腑に落ちない部分もあるが、なんにせよ俺たちの活躍で魔王を倒したことには間違いがない。
魔王や魔王城のアイテムの回収などやらなくてはいけないことはあったが、それは次の機会に回すことにして、俺たちは街に帰ることにした。
転移石を持ったミツキが王への報告のために一足先にもどり、俺は残りのメンバーと一緒にのんびりと来た道をもどっていく。
帰り道を辿る途中、何だか妙な感慨が込み上げてきて、
「終わってみると、何だかあっという間だったなぁ……」
誰に言うともなく、そうつぶやく。
「そうだね。魔王さんを倒すぞーって言って屋敷を出たのが、まるで昨日のことのように思えるよー」MaxMan
しみじみと真希が答えると、
「……僕はツッコまないからな」
なぜか疲れた様子のサザーンがそう言って顔を背け、
「…あ、えだげ」
リンゴがくまの背中を見ながら全く関係ないことを言って、くまがあわててバタバタと逃げ出した。
さっきまで魔王と命懸けの戦いをすると息巻いていたとは思えない、いつも通りの俺たちのゆるいやり取り。
こんな風に過ごしていられることを、心の底から嬉しく思う。
(でも……)
もう少しだけ、欲を言うならば。
ここにミツキと、それからもう一人――
「…ソーマ」
物思いにふけりそうになった俺を、リンゴがそっと呼び起こした。
顔を上げると、もう視界の奥に王都の北門が見えている。
……いや、それだけじゃない。
その大きな門の前に二つ(・・)、人影がある。
一人は、俺のよく知っている、猫耳の少女。
そしてもう一人は……。
「……イーナ」
ずっと、再会を待ち望んでいた相手がそこに立っていた。
しかし、それを見た途端、唐突に俺の足は止まってしまう。
一番会いたかったはずの相手なのに、感情があふれ出しそうになって、どうすればいいか分からない。
だが、そんな俺の背中を押す者がいた。
「…いって、あげて」
リンゴの小さな手が、俺の背中を一生懸命に押していた。
振り向いても、うつむいたリンゴの表情は見えない。
「…はやく」
それでもその言葉に急かされるように、俺はふたたび足を踏み出す。
同時に視界の奥で、小柄な少女が猫耳の少女に背中を押され、おずおずとこちらに向かって歩き出すのが見えた。
だんだんと、イーナの姿が、その顔が、はっきりと見えてくる。
少しずつ、もどかしいくらいに少しずつ、二人の距離が縮まっていく。
その瞬間が待ちきれなくて、歩いていたはずの足はいつの間にか早足に、そしてすぐに駆け足へと変わっていた。威哥王
あまりに突拍子もない真希の言葉に、束の間息が止まった。三便宝
一瞬脳裏に『ポセイダルの悲劇』という文字列が浮かび、だがすぐに俺は首を横に振った。
いや、いくら何でも魔王がそんなギャグ漫画みたいな死に方をするはずがない。
「まさか、流石にそんなことはないって。
第一、もし魔王が死んじゃったなら今頃呪いだって解けて……」
そう、俺が言いかけた時だった。
突然耳の奥に直接響くように、聞き慣れた声が飛び込んでくる。
『最後にソーマさんと結婚できて、わたし――って、ど、どこですかここ!!』
「え?! イーナ!?」
猫耳屋敷で固まっていたはずのイーナの声に、俺は思わず叫んでいた。
そんな俺に、イーナは切羽詰まった声で話し出して、
『そ、ソーマさんですか!? へ、変なんです!!
わたし、さっきまで木の上にいたはずなのに、いきなりお屋敷みたいな部屋にいて……。
それにこの、ジリリリリって音……ひゃっ!
壁! 壁に赤い手形が! どんどん、どんどん近付いて……。
きゃ、きゃああああ!! 箱の中から女の人が!!
あ、ああぁ……。今度は外から、外からたくさんの、に、人形が!!
な、何ですか!? 何なんですか、これ!!
たす、助けて! 助けてください、ソーマさ――』
そこで、イーナからの通信は途絶えた。
(……しまった。屋敷の奴らにイーナをおどかさないように注意しとくの忘れてた)
どっと冷や汗が噴き出す。
今頃恐怖体験をしているイーナのこともそうだが、何より俺に向けられる仲間たちの視線が痛い。
「え、えっと……」
通信リングの声はほかの人には届かない。
イーナの声を聞いたのは俺だけのはずだが、途中で俺がイーナの名前を呼んだせいで、通信の相手が彼女だというのはもう仲間にはばれてしまっただろう。
全員が、説明を求めるように俺を見てくる。
その圧力に耐え切れず、俺は仕方なく拳を突き上げて、言った。
「……よし、作戦成功だ!!」
火山に、冷たい視線のブリザードが吹き荒れた。
――『ポセイダルの悲劇』。
後になってそんな風に呼ばれることになった、事件とも言えない事件がかつて『猫耳猫』にはあった。
舞台は俺たちが水龍の指輪を取りに訪れた海底都市。
この海底都市について、「宝物庫を守るボスモンスターがいる」という情報が確かにあったのに、プレイヤーが実際に訪れてみると宝物庫の前は無人だったという報告が、『猫耳猫』関連のネット掲示板に何件も寄せられた。巨人倍増枸杞カプセル
それどころか、このボスについて情報を募ったところ、その時点で海底都市のボスに出会ったというプレイヤーは一人もいなかったのだ。
……明らかなバグ。
だがそれだけなら、ボスモンスターを設定し忘れた、あるいは海底都市に関する情報を間違って載せただけ、とも考えられる。
ただ、これが大きく話題になったのは、その宝物庫の前、ちょうどボス戦が行えそうな大きな広間には、初回に限り必ずマジックシードが落ちていることが原因だった。
一度しか出てこないユニークボスは、そのボスの種類に応じ、必ずパワー・マジック・ディフェンス・マインドシードのどれかを落とす。
逆に言えば、これらのシード系アイテムがそれ以外の方法で手に入ることは滅多にない。
このことから、『猫耳猫』プレイヤーたちは海底都市にはボスモンスターがいるが、何らかの原因でプレイヤーが辿り着く前に死んでしまっている、と推論を立てた。
もちろん無駄に探究心旺盛な『猫耳猫』プレイヤーたちのことだ。
彼らは当然のようにこの謎に興味を示し、その理由を解明せんと動き出した。
ただ、どんなに早く海底都市を見つけ、どんなに早く宝物庫に向かっても、そこでボスモンスターに遭遇することは出来なかった。
確認出来ない以上、噂は噂でしかない。
海底都市のボスモンスターの話は時と共に風化していったのだが、その後、新しいパッチが当てられたことによって真実は明らかになった。
ver1.03のパッチを当てて以降、海底都市にポセイダルというボスモンスターが出現するようになり、そのボスがマジックシードを落とすことが判明したのだ。
ある意味では『猫耳猫』スタッフより粘着質でしつこい『猫耳猫』プレイヤーたちはその原因の特定に動き、そしてパッチにあった更新情報からその一文を見つけた。
・一部のボスに水棲属性が正しく適用されていなかった不具合を修正
水棲属性とはつまり水中適性のことで、正しく適用されていなかったとか言っているが、要は「ボスに水中適性をつけるの忘れてた」という告白だと『猫耳猫』プレイヤーは判断した。
水中適性がないキャラクターやモンスターは水中で速度が低下し、一定時間ごとに最大HPに比例した割合ダメージを受ける。
この「最大HPに比例した割合ダメージ」というのがミソで、このペナルティの前には最大HPが多かろうが少なかろうが関係ない。
膨大なHPを誇るはずのボスモンスター、ポセイダルも、水棲属性の設定忘れのためにこの継続ダメージで死んでしまっていたらしいということが判明したのだ。
そして、これが俺の違和感の原因。
俺が作戦を立てる上で見逃してしまった要素であり、今回の魔王の死因でもある。
魔王は完全耐性を持っているから、水に沈めてもダメージを受けるはずがない、と考えていたが、それは早合点だった。
よく誤解されるのだが、水棲属性という奴は各種の属性耐性、状態異常耐性とは全く別の物だ。
実際、水棲属性がなくて死んでしまったポセイダルは、水属性に対する耐性は完全だった。
俺もなんとなく、「完全耐性って言うくらいだから水棲属性くらい持ってるだろ」と思って思考停止してしまっていたが、全くそんなことはなかったようだ。
そもそも「魔王城を水に沈める」という戦法自体がこの世界が現実になったから出来たことで、当然ながらゲームの中では魔王が水の中に沈んでしまう事態などありえない。
普通に考えて、水中に行くはずもないモンスターに水中での適性をつけるというのもおかしな話だ。
これをバグと言って責めるのは、流石に酷というものだろう。中絶薬RU486
と、ここまで理屈をつけても魔王が溺死なんてやっぱり信じがたいのだが、残念ながらそう考えるとさっき起こった様々な異変に説明がつけられてしまう。
まず、俺が魔王城に乗り込もうとした時に感じた悪寒。
あれは、魔王のHPが一割を切ったことによって発動した、魔王の『本気モード』のせいだったのではないかと想像出来る。
流石にあの大きな火山に水を溜めるには、随分な時間がかかった。
魔王城が完全に沈み込む前から魔王の間には水が入り込んでいたはずで、おそらく魔王城が沈んだ時点で、魔王のHPはかなり減っていたのだろう。
そして、魔王はHPが一割以下になると『本気モード』になって攻撃パターンが変わる。
ゲームでもその瞬間には強烈な嫌な予感を覚えたものだが、あれは俺の勘が何かを察知したとかではなく、ゲームシステム側によるイベント演出だったのだろう。
あの不吉な予感が魔王が『本気モード』になった証だとすると、その時点で既に魔王は虫の息。
いくら攻撃力や防御力が上がろうが水による割合ダメージには全く関係ないので、そのすぐ後に魔王は死んでしまったのだと想像出来る。
そうすると、悪寒からほんの少し時間を置いて光の柱が立ち上った理由も分かる。
ゲームで魔王が死んだ時、死亡エフェクトとして強烈な光を発していた。
その時はあまりに近距離だったため、まぶしすぎて直視出来なかったが、たぶんあれが、俺たちが今日目撃した光の柱だ。
通常、魔王を倒した時は魔王城の中にいるから見えないが、魔王の死亡エフェクトの光は魔王城を突き抜けて天に昇り、魔王の力の象徴である雲を消し去ってしまう、という演出がされていたのだろう。
……見えないところにまでこだわっていると言えば聞こえはいいが、そういう無駄なところに凝る暇があったらバグを一個でもなくしてくれればいいのに、とも思う。
まあその辺りが『猫耳猫』クオリティなんて言われる所以なのだろう。
結局スタッフロールは流れなかったし、倒し方が倒し方だけになんとなく腑に落ちない部分もあるが、なんにせよ俺たちの活躍で魔王を倒したことには間違いがない。
魔王や魔王城のアイテムの回収などやらなくてはいけないことはあったが、それは次の機会に回すことにして、俺たちは街に帰ることにした。
転移石を持ったミツキが王への報告のために一足先にもどり、俺は残りのメンバーと一緒にのんびりと来た道をもどっていく。
帰り道を辿る途中、何だか妙な感慨が込み上げてきて、
「終わってみると、何だかあっという間だったなぁ……」
誰に言うともなく、そうつぶやく。
「そうだね。魔王さんを倒すぞーって言って屋敷を出たのが、まるで昨日のことのように思えるよー」MaxMan
しみじみと真希が答えると、
「……僕はツッコまないからな」
なぜか疲れた様子のサザーンがそう言って顔を背け、
「…あ、えだげ」
リンゴがくまの背中を見ながら全く関係ないことを言って、くまがあわててバタバタと逃げ出した。
さっきまで魔王と命懸けの戦いをすると息巻いていたとは思えない、いつも通りの俺たちのゆるいやり取り。
こんな風に過ごしていられることを、心の底から嬉しく思う。
(でも……)
もう少しだけ、欲を言うならば。
ここにミツキと、それからもう一人――
「…ソーマ」
物思いにふけりそうになった俺を、リンゴがそっと呼び起こした。
顔を上げると、もう視界の奥に王都の北門が見えている。
……いや、それだけじゃない。
その大きな門の前に二つ(・・)、人影がある。
一人は、俺のよく知っている、猫耳の少女。
そしてもう一人は……。
「……イーナ」
ずっと、再会を待ち望んでいた相手がそこに立っていた。
しかし、それを見た途端、唐突に俺の足は止まってしまう。
一番会いたかったはずの相手なのに、感情があふれ出しそうになって、どうすればいいか分からない。
だが、そんな俺の背中を押す者がいた。
「…いって、あげて」
リンゴの小さな手が、俺の背中を一生懸命に押していた。
振り向いても、うつむいたリンゴの表情は見えない。
「…はやく」
それでもその言葉に急かされるように、俺はふたたび足を踏み出す。
同時に視界の奥で、小柄な少女が猫耳の少女に背中を押され、おずおずとこちらに向かって歩き出すのが見えた。
だんだんと、イーナの姿が、その顔が、はっきりと見えてくる。
少しずつ、もどかしいくらいに少しずつ、二人の距離が縮まっていく。
その瞬間が待ちきれなくて、歩いていたはずの足はいつの間にか早足に、そしてすぐに駆け足へと変わっていた。威哥王
2014年4月2日星期三
奇襲
「えーっと、だからさ。最初に図書館の裏に回っただろ?
あの時に転移バグで地下室に入ってネクラノミコンを取って、もう一度夢幻蜃気楼を使って図書館に入ったんだよ」簡約痩身美体カプセル
俺はみんなと別れて図書館の裏に回る時、「裏に回ってスキルで入った方が百倍早い」と言ったが、あれは必ずしも大げさな表現ではない。
裏から夢幻蜃気楼で入った方が、『智を知るモノ』クエストを回避出来る分、大幅に時間を短縮出来るのだ。
地下室は図書館の一番奥にある。
つまり、図書館の裏から非常に近い場所にあるということ。
図書館の館内ではスキルは使えないが、外、図書館の裏手から夢幻蜃気楼を使えば、ギリギリで地下室に届く。
仮にだが、もし仲間の誰かが俺が夢幻蜃気楼を使う場面を見ていたら、こんな勘違いはしなかっただろう。
俺は図書館の裏で夢幻蜃気楼を使う前に、「呪文を唱え」、「図書館までの距離を調節」していた。
スキル無効の図書館に入るにはプチプロ―ジョンの呪文を詠唱する必要はないし、図書館に入るためなら距離を調節しなくても図書館の壁に出来るだけ近付けばそれで事足りる。
スキルが使える地下室に入るつもりだったからプチプロ―ジョンの詠唱が必要で、間違って図書館に入らないよう距離を測る必要があったのだ。
「じゃ、じゃあつまり、そーまはわたしたちが『智を知るモノ』を始める前に、もうネクラノミコンを持ってたってこと!?」
「ん、ああ。そういうことだな」
俺が肯定の言葉を口にすると、真希ががっくりと肩を落とした。
その落ちた肩をぽんぽんと叩いて慰めながら、ミツキが補足する。
「図書館で合流した時、彼は読んでいた本を鞄の中に(・・・・)しまいました。
ここの本は鞄に入れられませんから、思えばあれがネクラノミコンだったのでしょう。
彼がもう目的の物を手にしたと、その時に気付くべきでした」
猫耳をふにゃんと垂れさせながら、面目なさそうにミツキは続ける。
「私とリンゴさんがそれに気付いたのは、そのもう少し後、貴女達がリドルを解いている時です。
貴女達が必死に頑張っている後ろで、平然とネクラノミコンを読んでいるのですからね。
どういう神経をしているのかと、あの時は流石に驚きました」
「…びっくり、した」
全然びっくりしてない感じにリンゴも言い添える。
それに同調するように猫耳をピコピコさせてから、ミツキは締めくくった。
「彼と行動を共にする以上、こういった事態に遭遇する事はまたあるでしょう。
早めに体験してもらった方が良いかと思って黙っていたのですが、まさかここまで大事になってしまうとは……。
本当に、申し訳ありません」
「…ごめん、なさい」
二人が同時に頭を下げる。
それを真希があわてて止めた。
「い、いいよー。二人のせいじゃないんだし。
それよりわたしは、そーまがどうして黙ってたのか、それを聞きたいなー」
真希が詰め寄ってくる。
のんびりとした口調とは裏腹に、その眼光は鋭い。
「いや、別に俺も、最初は隠すつもりはなかったんだぞ?
実際、こっちに来た時に話そうとしてたしな」
何も悪いことはしていないはずなのだが、その迫力に負けてつい弁解がましい口調になってしまう。
だが、隠すつもりがなかったのは本当だ。
セーリエさんがやってきて入館料がどうこうと言わなければ最初に話していただろう。
「なら、どーして今まで黙ってたの?!
これまでだって、話そうと思えばいつでも話せたはずでしょ!」
しかし、真希の怒りは収まらない。西班牙蒼蝿水
容赦のない言葉で、俺を追い詰めようとする。
「……それは、お前たちが真剣にあのリドルに挑んでいるのを見たからだよ」
俺が、このクエストには誤答問題があると話した時、それでもレイラたちは、このクエストに挑むことをやめなかった。
あの時のレイラたちは、ネクラノミコンがどうとか、アンフェアな仕掛けがどうとか、そんなことは気にせずに純粋に謎解きだけを楽しんでいるように見えた。
それは、ゲーマーとして、もっとも正しい姿勢。
俺が、俺たち『猫耳猫』プレイヤーが失ってしまったもの。
だから――
「――俺には、出来なかったんだ。
そんなみんなに、余計な話をして水を差すなんてことは、さ」
万感の想いを込めたその言葉に、その場にいた全員が感銘を受け、黙り込んだ。
「……そーま」
その中でいち早く立ち直った真希が俺に近寄ると、
「そーまがそんなんだから、わたしはいつも、いつもぉ!」
「うわ、ちょ、真希、やめっ!」
俺の胸元をつかんでぐわんぐわんと揺さぶってきた。
ゲームキャラの馬鹿力のせいか、俺の身体は木の葉のようになすすべなくぐらぐら揺れる。
「落ち、落ち着けって! 話せば、分かる……!!」
「話が分からないのはそーまの方でしょー!」
俺は揺れる視界の中で必死に真希をなだめながらも、この状況にぼんやりと懐かしさを感じていた。
日本でも、こういう風に真希は訳の分からない理由で急に怒り出したり騒ぎ出したりして、俺はいつも振り回されてばかりだった。
俺が一人暮らしをする前は、休みの日に突然押しかけてきては俺を公園だの遊園地だの映画だの買い物だのに連れ回し、家にいる時でもゲームをしている俺の背中に後ろからのしかかってきたり、俺の膝の上に寝転がったり、俺の飲み物を勝手に飲んだり、マッサージしてあげると言いながら俺の肩関節を破壊しかけたりと、散々傍若無人にふるまってきた。
真希が起こしたトラブルのしりぬぐいをしたことも、両手の数では足らないほどだ。
その癖、「そーまはわたしみたいな常識人が傍にいないと、なにするかわからないからねー」と保護者気取り。
違う世界に来てお姫様にまでなったのだから、少しくらい良識というものを身につけてほしいのだが、望み薄のようだ。
「……これが、英雄。常人と同じ思考をしていては、到達出来ない高みということなのですね」
俺が何とか真希を引きはがすと、その奥で眼鏡を光らせたセーリエさんが何か言っていた。
たぶん褒められているように思うのだが、なんとなく居心地が悪い。
ちなみに最後の一人、レイラはどうなのかと俺が首を向けると、
「ソーマ! 私のために、そこまで考えてくれてたなんて……!」
うるうるとした瞳で俺を見上げていた。
真希みたいに突然キレられるのも困るが、これはこれで対処に困る。
俺が助けを求めるようにミツキの方を見たが、procomil spray
「……いい勉強になるかと思ったのですが、案外うまくいかない物ですね」
猫耳を元気なくしおれさせていて、見るからに助けてもらえそうな雰囲気ではない。
「ま、待ってください!!」
しかしその時、思わぬ方向から声があがった。
「……イーナ?」
「だったら、ソーマさんはどうしてあの『智を知るモノ』をクリアする必要があったんですか?」
今まで必死に話についてこようとして頭をひねっていたイーナが、俺を真正面から見ておずおずと尋ねてきた。
「え? あ、ああ。それ、は……」
ちらりと横目にセーリエさんの姿を確認する。
どうして自分に目が行ったのか分からない様子で、セーリエさんは眼鏡の奥の瞳をきょとんとさせていた。
「あの、ソーマさん……?」
不安そうにイーナが言葉を重ねる。
……これは、困った。
どうやって答えようとか考えていると、リンゴがぽつりとつぶやいた。
「…もぐら、さん?」
一見、意味不明な単語。
だが、それだけで察しのいいミツキは気付いた。
気付いてしまった。
「……成程。そういえば、貴方は最初に言っていましたね。
ここの図書館から本を盗む、二つの方法。『瞬足万引きダッシュ』と、もう一つ。
確か……『土竜《もぐら》式転移術』、でしたか?」
反射的に、びくっと肩が跳ねた。
あわててごまかそうとしたが、ミツキの目はそれをしっかり捉えていた。
「ま、まさかそーま! わたしたちに地下室を開けて欲しかったのは、地下室から本を盗むためなの!?」
「ほ、本当なんですか、ソーマさん!」
真希とイーナの視線が痛い。
俺はいたたまれなくなって目を逸らしたが、その先には眼鏡の鬼がいた。
「あ、あの、セーリエさん? 今のは……」
「……ソーマ様? 少々、お話をよろしいでしょうか」
食いしばった歯の間から、押し殺すような声を出すセーリエさん。
入館料を踏み倒しかけた時とは比べ物にならないくらいの怒気を感じる。
……あ、まずい。
これは、なんか駄目な奴だ。WENICKMANペニス増大
走馬灯のように前回の説教を思い出し、俺が半ば死を覚悟したその時、
――ウァアアアアアアン!
思いもかけない方向から、思いもかけない助け船が出た。
「……なんでしょう、今のは」
階上、図書館の方から異様な音が聞こえてきたのだ。
獣の唸り声のような、赤ん坊の泣き声のような、そんな不気味な音だった。
セーリエさんはそれを俺よりも優先するべき案件が出来たと考えたのか、ひとまず俺を解放すると、
「もしかすると、迷子の子供かもしれません。
……少し、様子を見てきますね」
素早く地上へと続く階段を登っていく。
「……これで、済んだと思わないでくださいね」
しかも途中、俺にくぎを刺すことも忘れない。
だがひとまず、セーリエさんが職務熱心な人で助かった。
俺は胸をなでおろしたが、あまり安心ばかりしてもいられない。
「……ミツキ」
「ええ。分かりました」
まだ図書館の中は安全だと決まった訳ではない。
図書館の中は魔法は使えないとはいえ、戦闘行為が出来ない訳ではないのだ。
俺はミツキにセーリエさんの護衛を頼もうと思ったのだが、その必要はなかった。
「――レイラさん! 本を隠して!」
上の様子を見に行ったセーリエさんが、駆けもどってきて叫んだのだ。
どんなに焦っている時でも取り乱すことはなかったセーリエさんが、動揺を隠さず、全力で警告する。
「魔術師ギルドはまだその本をあきらめていません!
すぐそこまで、怪しい魔術師が――あっ!」
しかし、その必死の警告はそれでも遅かった。
セーリエさんの横を、地下室に飛び込んできた漆黒の風が駆け抜ける。Xing霸 性霸2000
あの時に転移バグで地下室に入ってネクラノミコンを取って、もう一度夢幻蜃気楼を使って図書館に入ったんだよ」簡約痩身美体カプセル
俺はみんなと別れて図書館の裏に回る時、「裏に回ってスキルで入った方が百倍早い」と言ったが、あれは必ずしも大げさな表現ではない。
裏から夢幻蜃気楼で入った方が、『智を知るモノ』クエストを回避出来る分、大幅に時間を短縮出来るのだ。
地下室は図書館の一番奥にある。
つまり、図書館の裏から非常に近い場所にあるということ。
図書館の館内ではスキルは使えないが、外、図書館の裏手から夢幻蜃気楼を使えば、ギリギリで地下室に届く。
仮にだが、もし仲間の誰かが俺が夢幻蜃気楼を使う場面を見ていたら、こんな勘違いはしなかっただろう。
俺は図書館の裏で夢幻蜃気楼を使う前に、「呪文を唱え」、「図書館までの距離を調節」していた。
スキル無効の図書館に入るにはプチプロ―ジョンの呪文を詠唱する必要はないし、図書館に入るためなら距離を調節しなくても図書館の壁に出来るだけ近付けばそれで事足りる。
スキルが使える地下室に入るつもりだったからプチプロ―ジョンの詠唱が必要で、間違って図書館に入らないよう距離を測る必要があったのだ。
「じゃ、じゃあつまり、そーまはわたしたちが『智を知るモノ』を始める前に、もうネクラノミコンを持ってたってこと!?」
「ん、ああ。そういうことだな」
俺が肯定の言葉を口にすると、真希ががっくりと肩を落とした。
その落ちた肩をぽんぽんと叩いて慰めながら、ミツキが補足する。
「図書館で合流した時、彼は読んでいた本を鞄の中に(・・・・)しまいました。
ここの本は鞄に入れられませんから、思えばあれがネクラノミコンだったのでしょう。
彼がもう目的の物を手にしたと、その時に気付くべきでした」
猫耳をふにゃんと垂れさせながら、面目なさそうにミツキは続ける。
「私とリンゴさんがそれに気付いたのは、そのもう少し後、貴女達がリドルを解いている時です。
貴女達が必死に頑張っている後ろで、平然とネクラノミコンを読んでいるのですからね。
どういう神経をしているのかと、あの時は流石に驚きました」
「…びっくり、した」
全然びっくりしてない感じにリンゴも言い添える。
それに同調するように猫耳をピコピコさせてから、ミツキは締めくくった。
「彼と行動を共にする以上、こういった事態に遭遇する事はまたあるでしょう。
早めに体験してもらった方が良いかと思って黙っていたのですが、まさかここまで大事になってしまうとは……。
本当に、申し訳ありません」
「…ごめん、なさい」
二人が同時に頭を下げる。
それを真希があわてて止めた。
「い、いいよー。二人のせいじゃないんだし。
それよりわたしは、そーまがどうして黙ってたのか、それを聞きたいなー」
真希が詰め寄ってくる。
のんびりとした口調とは裏腹に、その眼光は鋭い。
「いや、別に俺も、最初は隠すつもりはなかったんだぞ?
実際、こっちに来た時に話そうとしてたしな」
何も悪いことはしていないはずなのだが、その迫力に負けてつい弁解がましい口調になってしまう。
だが、隠すつもりがなかったのは本当だ。
セーリエさんがやってきて入館料がどうこうと言わなければ最初に話していただろう。
「なら、どーして今まで黙ってたの?!
これまでだって、話そうと思えばいつでも話せたはずでしょ!」
しかし、真希の怒りは収まらない。西班牙蒼蝿水
容赦のない言葉で、俺を追い詰めようとする。
「……それは、お前たちが真剣にあのリドルに挑んでいるのを見たからだよ」
俺が、このクエストには誤答問題があると話した時、それでもレイラたちは、このクエストに挑むことをやめなかった。
あの時のレイラたちは、ネクラノミコンがどうとか、アンフェアな仕掛けがどうとか、そんなことは気にせずに純粋に謎解きだけを楽しんでいるように見えた。
それは、ゲーマーとして、もっとも正しい姿勢。
俺が、俺たち『猫耳猫』プレイヤーが失ってしまったもの。
だから――
「――俺には、出来なかったんだ。
そんなみんなに、余計な話をして水を差すなんてことは、さ」
万感の想いを込めたその言葉に、その場にいた全員が感銘を受け、黙り込んだ。
「……そーま」
その中でいち早く立ち直った真希が俺に近寄ると、
「そーまがそんなんだから、わたしはいつも、いつもぉ!」
「うわ、ちょ、真希、やめっ!」
俺の胸元をつかんでぐわんぐわんと揺さぶってきた。
ゲームキャラの馬鹿力のせいか、俺の身体は木の葉のようになすすべなくぐらぐら揺れる。
「落ち、落ち着けって! 話せば、分かる……!!」
「話が分からないのはそーまの方でしょー!」
俺は揺れる視界の中で必死に真希をなだめながらも、この状況にぼんやりと懐かしさを感じていた。
日本でも、こういう風に真希は訳の分からない理由で急に怒り出したり騒ぎ出したりして、俺はいつも振り回されてばかりだった。
俺が一人暮らしをする前は、休みの日に突然押しかけてきては俺を公園だの遊園地だの映画だの買い物だのに連れ回し、家にいる時でもゲームをしている俺の背中に後ろからのしかかってきたり、俺の膝の上に寝転がったり、俺の飲み物を勝手に飲んだり、マッサージしてあげると言いながら俺の肩関節を破壊しかけたりと、散々傍若無人にふるまってきた。
真希が起こしたトラブルのしりぬぐいをしたことも、両手の数では足らないほどだ。
その癖、「そーまはわたしみたいな常識人が傍にいないと、なにするかわからないからねー」と保護者気取り。
違う世界に来てお姫様にまでなったのだから、少しくらい良識というものを身につけてほしいのだが、望み薄のようだ。
「……これが、英雄。常人と同じ思考をしていては、到達出来ない高みということなのですね」
俺が何とか真希を引きはがすと、その奥で眼鏡を光らせたセーリエさんが何か言っていた。
たぶん褒められているように思うのだが、なんとなく居心地が悪い。
ちなみに最後の一人、レイラはどうなのかと俺が首を向けると、
「ソーマ! 私のために、そこまで考えてくれてたなんて……!」
うるうるとした瞳で俺を見上げていた。
真希みたいに突然キレられるのも困るが、これはこれで対処に困る。
俺が助けを求めるようにミツキの方を見たが、procomil spray
「……いい勉強になるかと思ったのですが、案外うまくいかない物ですね」
猫耳を元気なくしおれさせていて、見るからに助けてもらえそうな雰囲気ではない。
「ま、待ってください!!」
しかしその時、思わぬ方向から声があがった。
「……イーナ?」
「だったら、ソーマさんはどうしてあの『智を知るモノ』をクリアする必要があったんですか?」
今まで必死に話についてこようとして頭をひねっていたイーナが、俺を真正面から見ておずおずと尋ねてきた。
「え? あ、ああ。それ、は……」
ちらりと横目にセーリエさんの姿を確認する。
どうして自分に目が行ったのか分からない様子で、セーリエさんは眼鏡の奥の瞳をきょとんとさせていた。
「あの、ソーマさん……?」
不安そうにイーナが言葉を重ねる。
……これは、困った。
どうやって答えようとか考えていると、リンゴがぽつりとつぶやいた。
「…もぐら、さん?」
一見、意味不明な単語。
だが、それだけで察しのいいミツキは気付いた。
気付いてしまった。
「……成程。そういえば、貴方は最初に言っていましたね。
ここの図書館から本を盗む、二つの方法。『瞬足万引きダッシュ』と、もう一つ。
確か……『土竜《もぐら》式転移術』、でしたか?」
反射的に、びくっと肩が跳ねた。
あわててごまかそうとしたが、ミツキの目はそれをしっかり捉えていた。
「ま、まさかそーま! わたしたちに地下室を開けて欲しかったのは、地下室から本を盗むためなの!?」
「ほ、本当なんですか、ソーマさん!」
真希とイーナの視線が痛い。
俺はいたたまれなくなって目を逸らしたが、その先には眼鏡の鬼がいた。
「あ、あの、セーリエさん? 今のは……」
「……ソーマ様? 少々、お話をよろしいでしょうか」
食いしばった歯の間から、押し殺すような声を出すセーリエさん。
入館料を踏み倒しかけた時とは比べ物にならないくらいの怒気を感じる。
……あ、まずい。
これは、なんか駄目な奴だ。WENICKMANペニス増大
走馬灯のように前回の説教を思い出し、俺が半ば死を覚悟したその時、
――ウァアアアアアアン!
思いもかけない方向から、思いもかけない助け船が出た。
「……なんでしょう、今のは」
階上、図書館の方から異様な音が聞こえてきたのだ。
獣の唸り声のような、赤ん坊の泣き声のような、そんな不気味な音だった。
セーリエさんはそれを俺よりも優先するべき案件が出来たと考えたのか、ひとまず俺を解放すると、
「もしかすると、迷子の子供かもしれません。
……少し、様子を見てきますね」
素早く地上へと続く階段を登っていく。
「……これで、済んだと思わないでくださいね」
しかも途中、俺にくぎを刺すことも忘れない。
だがひとまず、セーリエさんが職務熱心な人で助かった。
俺は胸をなでおろしたが、あまり安心ばかりしてもいられない。
「……ミツキ」
「ええ。分かりました」
まだ図書館の中は安全だと決まった訳ではない。
図書館の中は魔法は使えないとはいえ、戦闘行為が出来ない訳ではないのだ。
俺はミツキにセーリエさんの護衛を頼もうと思ったのだが、その必要はなかった。
「――レイラさん! 本を隠して!」
上の様子を見に行ったセーリエさんが、駆けもどってきて叫んだのだ。
どんなに焦っている時でも取り乱すことはなかったセーリエさんが、動揺を隠さず、全力で警告する。
「魔術師ギルドはまだその本をあきらめていません!
すぐそこまで、怪しい魔術師が――あっ!」
しかし、その必死の警告はそれでも遅かった。
セーリエさんの横を、地下室に飛び込んできた漆黒の風が駆け抜ける。Xing霸 性霸2000
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