2013年2月28日星期四

時を超えて

兄貴のおかげで俺達は思わぬ旅行をできるようになった。
 
温泉旅行、それも和歌と唯羽も一緒にだ。
 
けれども、浮かれてばかりもいられない。麻黄
 
赤木影綱という前世についてゆかりがある土地。
 
彼についてを知ると言う事が、椿姫の呪いに何かしらの対処ができるかもしれない。
 
高速道路を走る車内。
 
兄貴が運転手、俺は助手席に座り、和歌たち3人は後ろで楽しく話している。
 
麻尋さんと和歌達は普段から仲が良い。
 
ふたりとっては姉みたいな存在で、麻尋さんにとっては妹達という感じらしい。
 
「ねぇ、ユキ君。そう言えば、ふたりのうち、どちらが本命なの?」
 
「げふっ!?」
 
そのお姉さんがとんでもない手榴弾をこちらに放り込んできた。
 
「あ、え?」
 
「和歌ちゃんも唯羽ちゃんも、2人同時交際中でしょ?世間的に、こんな風に堂々と二股交際してる子は珍しいと思うの。それはお互いに納得してるなら良いと思うし。だけど、気になるじゃない。一体、ユキ君はどちらが本命なのか?」
 
どちらが本命とか、そんな事を言われても困る。
 
「それは私も気になりますね、元雪様」
 
「元雪がどっちを一番に好きか、私も知りたいな」
 
和歌と唯羽も、俺の答えを望んでいる。
 
「……あ、あのですね。その、どちらが、というのは」
 
「はっきりしろー。男らしくないぞ、ユキ君?」
 
人の事だと思ってえらく煽ってくれる。
 
ホントに麻尋さんは……厄介な人だ。
 
俺は内心、呆れながらもピンチな状況に兄貴に救いを求めた。
 
俺の視線に気づいた兄貴は微笑しながら言うのだ。
 
「元雪。男には逃げちゃいけない時ってのがあるものだぞ」
 
兄貴にも見捨てられた!?
 
「「……どっち?」」
 
和歌も唯羽も、なぜか乗り気で俺に迫る。
 
ど、どうすればいいのだ、俺は!?
 
思わぬ大ピンチに車内の俺は心の中で大絶叫していた。
 
 
 
温泉地に着いた頃には、俺はすっかりとぐったりしていた。
 
何とかあいまいな返事で誤魔化し続けました。
 
うぅ、はっきりとしない自分が情けない。
 
「ほら、元雪。温泉地についたよー?楽しもうよ」
 
「……あ、あぁ」
 
車内と言う逃げる事の出来ない密室が怖いと思ったのは初めてだぞ。
 
車から降りると、そこは湯けむりの独特の香りがする温泉街だった。
 
「予約している温泉旅館の部屋は4時から入れるそうだ。それまではしばらく、この辺りを散策するのもいいだろう。温泉地だから色々と楽しめるはずだ。元雪、時間を決めて別れようか?」
 
「うん。それでいいよ。俺達は適当に遊んでおく」
 
「じゃぁね、ユキ君。行きましょう、誠也さん」
 
麻尋さんが兄貴の手を引いて歩きだす。
 
ホント、仲のいい夫婦だよなぁ。
 
兄貴達と別れると俺達も温泉地を歩いてみることにする。
 
「そうだ、唯羽。ここが影綱のゆかりの地だって話らしいが、場所は近いのか?」
 
「少し離れてる。明日でもいいんじゃない?どうせ、お城の跡しか残ってないし。それよりも、私、食べたいものがあるの」
 
「食べたいもの?」
 
唯羽が道沿いを歩いていると、あるお店で目的のものを見つけたらしい。
 
彼女はそれを買ってくると俺と和歌にも手渡した。
 
「温泉たまご♪」
 
「お姉様、好きなんですか?」
 
「卵は大好きだよ。やっぱり、本当の温泉卵が食べたいじゃない」
 
「確かに。美味しそうだな」
 
俺達は街並みを眺めながら、卵を食べる。
 
なるほど、ただのゆで卵とは違う気がする。
 
「温泉のいい匂いがするな。温泉にきたって感じがしていい」
 
「元雪、提案があります。混浴温泉を探して……」
 
「ダメです。認めません」
 
「むぅ、どうしてヒメちゃんが反対するの?」
 
間髪入れずに否定する和歌。
 
「当然です。お姉様、旅行と言えども節度は大事です」
 
「えー。ちょっとくらい、いいじゃん」
 
「いけません。そう言うのは絶対に許しません」
 
「ヒメちゃんだって元雪と一緒にお風呂に入りたいとか思わないわけ?」
 
唯羽に対して彼女は「うっ」と言葉に詰まる。
 
「ほら、ヒメちゃんだってそういう願望あるじゃん」
 
「そ、それとこれとは違いますっ。私は別に……そんなことは……」
 
「ほら、元雪も何か言ってよ」
 
「今の俺に話を振るな。……正直、困るだけだっての」
 
男の願望を刺激しないでくれ。
 
最近の和歌と唯羽は微妙な事で喧嘩をしてる。
 
俺のせいでもあるのだが、俺がどちらかの味方をすることもできず。
 
「あー、そ、そうだ。ソフトクリームでも食べないか?」
 
俺は適当に周りを見渡して、お店を指さした。D9 催情剤
 
どこかの高原の牛乳で作られたソフトクリーム。
 
こういう場所でしか食べられないご当地ものってやつだ。
 
「ソフトクリーム好きだろ?好きに決まってる。よし、俺がふたりにおごってあげるから待っていてくれ。すぐに買ってくる」
 
俺はぽかんっとする2人にそう言って足早に店へと向かう。
 
そんな俺を彼女たちは顔を見合わせてやがて微笑し合っていた。
 
 
 
「足湯が気持ちいい~っ」
 
ソフトクリームを食べ終わり、唯羽が足湯につかる。
 
道沿いにある誰でも入れるタイプの足湯だ。
 
唯羽は体温が低い方なので、温泉とかが好きなようだ。
 
その横で俺と和歌は見てるだけだ。
 
「和歌は見てるだけでいいのか?」
 
「はい。少し、人前で素足をさらすのが抵抗もありますし」
 
さすが、和歌は真面目な大和撫子です。
 
和歌のそう言う所は可愛いと思う。
 
「何か、ヒメちゃんが清楚系を気取ってる」
 
「……へぇ、お姉様。そう言う事を言うんですか?」
 
はっ、またふたりが険悪モードに。
 
「ふたりとも仲良くしようぜ」
 
俺が言うなと言われるかもしれないが、せっかくの旅行で争い事はやめましょう。
 
予想通りに火の粉がこっちに飛んでくる。
 
「元雪様はお姉様を甘やかせしすぎなんですよ」
 
「私は元雪の恋人だから甘やかされてもいいもん」
 
「わ、私の方が先に恋人なんですっ。もうっ」
 
2人に抱きつかれて、周囲の目が気になる。
 
周囲から見れば羨ましがられるシチュではあるが、実際は大変です。
 
「……?」
 
その時だった。
 
俺は妙な違和感を抱いた。
 
『……様と離れたくない……だから……』
 
寂しそうな女の子の声。
 
『忘れないで……の事を、忘れないで』
 
誰かの声が脳内に響く。
 
ハッとした俺は「なんだ、今のは……」と驚いた。
 
誰かが俺を呼んでいた?
 
唯羽がこちらの変化に気付いて声をかける。
 
「どうしたの、元雪?」
 
「分からない。だけど、誰かに呼ばれた気がして」
 
「はい?……私たちの声じゃないんですか?」
 
和歌の言う通りなのかもしれない。
 
けれども、違う気がするんだ。
 
あの声は、誰なんだ……?
 
「呼ばれた……?ヒメちゃん、喧嘩ストップ。それどころじゃないかも」
 
「どうしたんです?」
 
「元雪。今、その声は聞こえる?」
 
「いや、何も聞こえない。はっきりとは聞こえなかったし」
 
これだけ人々で賑わう場所だ。
 
誰かの声を聞いただけなのかもしれない。
 
そう思いこもうとする俺と違い、唯羽は顔色を変えていた。
 
「……私も来た時から薄々感じていたの。元雪まで異変に気付いた。ここはやっぱり、私達に影響のある場所だよ」
 
唯羽が温泉街を見渡しながら呟いた。
 
その顔には先程までの笑顔は消えていた。
 
「元雪様とお姉様は何を感じたんですか?」
 
「……前世の影響。ここは私達にとって因縁の地ってことだよ」
 
前世と現世、時を超えて繋がるモノ。
 
「まぁ、いいや。今は温泉地を楽しもうか」
 
「いいのか?」
 
「いいの。せっかくの旅行を楽しまなきゃ。次は温泉まんじゅうが食べたい」
 
唯羽が感じたのは、俺と似たようなものかもしれない。
 
前世との因縁の地、何かが起きそうな予感がしていた。
兄貴達と合流したあとは予約していた旅館へと着く。
 
思っていた以上に広い旅館で、部屋も立派なものだ。
 
「兄貴、部屋割のことなのだが」
 
「……なんだ?いいじゃないか、これで。それともなんだ?元雪は僕と二人の部屋がいいと?僕は嫌だね、旅行に来てわざわざ弟と同室ってのは勘弁してもらいたい」
 
「俺も同感だっての。でも、ホントにいいのか?」
 
そう、予約してたのは2部屋。
 
兄貴と麻尋さん、俺と唯羽と和歌の部屋割になった。挺三天
 
当然と言えば当然の部屋割なのだが、これでいいのかと戸惑いもある。
 
「元雪はそう言う所が真面目だな。大体、今さら気にする事でもないだろう?元雪達は普段からも一緒の家に暮らしているんだ。彼女達と一緒に寝た経験とかないのか?」
 
「……あるけど」
  
「それに変な意味での心配ならしてない。元雪がその気ならとっくにしてるだろ」
 
「その信頼は、ヘタレの意味も込められて嫌だ」
 
普段と変わらない、そう言われてしまえばそれまでだ。
 
だが、旅行と言うのは普段と違う雰囲気もあるわけで。
 
深く考えずに普通に楽しめばいいか。
 
「元雪~、浴衣に着替え終わったよ」
 
「うぃ。すぐに行く」
 
女性陣が浴衣に着替え終わったらしい。
 
俺達が部屋に入ると、温泉旅館の定番の浴衣姿の唯羽と和歌がいた。
 
まぁ、唯羽は家での普段着が浴衣だったりするので変わった様子がないけどな。
 
……しかし、温泉旅館の薄い浴衣は妙な色っぽさもある。
 
「お祭りの時よりもラフな感じですな」
 
 
「元雪様、ジロジロとみられると恥ずかしいです」
 
俺の視線に気づいてそっと胸元を手で隠す和歌。
 
和歌はスタイルがいいから、つい見ちゃうのは仕方ないんだよ。
 
「こら~っ、元雪。ヒメちゃんばかり見ない。私も見て」
 
「前にも言ったが、唯羽は普段から見慣れてる感があるからな。新鮮味に薄れるんだよ」
 
「えー。私だって特別視してよぉ」
 
不満そうな彼女は唇を尖らせた。
 
唯羽の場合は自堕落な時に、もっと浴衣が着崩れてギリギリできわどかったのを思い出した。
 
……あれは、今思い返すと普通にやばかったよな。
 
「ヒメちゃんにだけ見惚れるなんてずるい」
 
「ふふっ。これはギャップの違いですね、お姉様」
 
「……おにょれ、ヒメちゃんめ。元雪を誘惑するなぁ」
 
険悪モード再び、いつものやり取りになってきた。
 
「はいはい、ふたりとも喧嘩してないで。夕飯にいくよー」
 
ふたりの仲裁に入ったのは麻尋さんだった。
 
夕食の時間になったので呼びに来てくれたらしい。
 
「ユキ君もしっかりしなきゃダメだよ?」
 
「……努力はします」
 
けれど、このふたりの争いにどう入りこめばいいのか分からないのだ。
 
 
 
食堂のテーブル席は5人分の食事がセットされていた。
 
「食事は皆、一緒なんだ」
 
 
「あぁ、そう頼んでおいたんだ」
 
ここは兄貴の友人がやってる旅館だ。
 
今回は団体客のキャンセルで友人達を集めたと言う事もあり、周囲の人々も兄貴の友達ばかりらしい。
 
楽しそうに会話をする兄貴達を見ながら和歌が言う。
 
「元雪様。誠也様は友好関係が広いんですね」
 
「気さくで優しいから友人も多いよ。人気もあったから高校時代も相当、女の子にモテていたような……ハッ!?」
 
「へぇ、そうなんだ?その話、ちょっと興味があるかも」
 
俺の背後に麻尋さんが立っていた。
 
兄貴はそう言う話をあんまり麻尋さんにするはずもなく。
 
「え、えっと……俺は教えづらいかも」
 
「どうして?昔の誠也さんのこと、知りたいと思うのは不思議な事じゃないでしょ?」
 
お姉さんの顔が笑ってないから怖くて言えません。
 
こういうこと、麻尋さんは結構気にするタイプだからな。
 
「そうだけど、あ、そうだ。ほら、皆に聞いてみればいいんじゃないかな?」
 
俺は兄貴の友人達に視線を向けて言うと、麻尋さんは「そうね」と頷いた。
 
結局、食事前に兄貴の友人達に色々と彼女は過去の兄貴について尋ねていた。
 
昔、どういう子と付き合ってたとか面白そうに話す友人達に慌てて兄貴が口止めに走る。
 
「……元雪、頼むから余計な事を麻尋には言わないでくれ。お願いだ」
 
どっと疲れたような顔で兄貴にお叱りを受けました。
 
 
 
旅館の食事も豪華なもので、美味しそうな料理が並ぶ。
 
「おっ、美味そうだな。いただきます」
 
俺はさっそく、刺身に箸を伸ばす。
 
「海も山もあるから食材も豊富なんだってさ」
 
「なるほどねぇ。この刺身も新鮮ですごく美味い」
 
和食好きの俺としてはメニューも大満足だ。
 
食事をしていると、麻尋さんはある事に気付く。
 
「……和歌ちゃんってすごく丁寧な箸使いをするわよね」
 
「私ですか?」
 
「うん。食べ方ひとつにしても上品だもの。さすがは大和撫子って感じだよね」
 
「お褒めていただいて、ありがとうございます」
 
確かに麻尋さんの言う通り、和歌は姿勢もいいし、礼儀正しい。
 
箸使い一つにしても優雅さがあり、清楚なお嬢様っぽい。
 
そう言う仕草を麻尋さんは気にいったらしい。
 
「小さな頃からお父様にしつけられてましたから」
 
「やっぱり小さな頃からの習慣って大事なんだ。私も子供が生まれたらしっかりとしつけようかな。和歌ちゃんみたいに上品な仕草が自然にできる子になってもらいたいし」
 
「麻尋がまず、それを教えるだけの上品さを身につけてからの話だと思うけどね」
 
「うっ、誠也さん。痛い所をつかないでよ」
 
先程の事を根に持ってるのか、兄貴が珍しくチクリと麻尋さんに突っ込む。
 
「ねぇねぇ、元雪。私はどう?」VIVID XXL
 
「まず、唯羽の場合はいつも猫背だし。姿勢を正す所から始めようか」
 
「うーん。自堕落生活のツケがここに。私には大和撫子は無理かぁ」
 
茶色の髪を撫でながら拗ねる。
 
唯羽だって悪いわけじゃないけども、比べる相手が悪い。
 
和歌という、本物の大和撫子は隙がないのだ。
 
「元雪~、これ苦手だからあげる」
  
「トマトか。今の時期が美味しいのに」
 
「酸っぱいのはあんまり好きじゃないんだ」
 
俺の皿に唯羽が苦手なトマトを置く。
 
その代わりに俺は彼女に俺の苦手なエビを箸でつまむ。
 
「代わりにこれをやるよ。俺の天敵だ」
 
「そっか、元雪はエビが苦手だもんね。あーん」
 
「わざわざ、食べさせろってか。しょうがないな、ほら」
 
彼女の開けた口に入れてやると嬉しそうに彼女は微笑んだ。
 
「んー、甘くて美味しい。これが苦手なんて元雪は損してるよ」
 
「嫌いなんだからしょうがないだろ。匂いもダメなんだ」
 
エビだけは俺も本当に苦手なのだ。
 
多分、俺の前世からの因縁でもあるんだろう、そうに違いない。
 
「……」
 
そんな俺と唯羽に他の3人からの微妙な視線を感じる。
 
「何だよ、皆して?」
 
「ユキ君と唯羽ちゃんがまるで長年付き合ってる恋人同士みたいに、自然に甘ったるい事をしてるから、びっくりしただけ」
 
「普通のことなんだけどな」
 
この程度は別に意識する事でもない。
 
ただ、その行為に不満を抱く女の子はいるわけで。
 
「……元雪様、はしたないです」
 
「うぐっ、そうか?」
 
「いいじゃん。ヒメちゃんは行儀が悪い事はできないもんね?羨ましい?」
 
「う、羨ましくはないです」
 
そっぽを向いてしまう和歌。
 
機嫌を損ねてしまうのは困る。
 
「あらら、拗ねちゃった。ユキ君のせいだね」
 
「わ、和歌?」
 
「元雪様っ。お姉様ばかり甘やかせるのはやめてください」
 
和歌は意外と怒らせると怖いんだよ。
 
「和歌も食べるか?」
 
「いいですっ。元雪様、行儀が悪いですよ」
 
「……これはこれで、普通のシチュのひとつだと思うのだが」
 
怒られた俺は黙り込むしかない。
 
むすっと拗ねてしまった彼女の機嫌を取ろうと必死だ。
 
「元雪、3角関係は大変だな。あちらも、こちらも気を配るってのはさ」
 
「……2人を好きになったんだから仕方ないよ」
 
兄貴に俺はそう答えてみせた。
 
仲違いしている時はどちらに肩入れする事もできないけども。
 
俺は2人を愛すると決めたんだからその想いの責任は取る。
 
俺は影綱と違うんだ、と証明してみたい。
 
「ユキ君。純粋で初々しい行為を私もされてみたい。あーん」
 
「事態がこじれるからやめてください。兄貴に頼んでくれ」
 
「えー、誠也さん。そういうこと、全然してくれないし。する歳でもないし。ユキ君にされてみたい~っ」
 
……若干1名、この状況を混乱させようと企むお姉さんがいるのだがどうにかしてくれ。
 
旅行の夕食は慌ただしく過ぎっていった。福潤宝

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