2014年2月3日星期一

魔物とのバトル

このクエストは昨日も確認済みだった。初心者には手ごろで、しかもなかなかに報酬が良い。

 「ゴブリンは最弱級の魔物ですが、群れで襲い掛かって来ますのでご注意下さい」
 「ああ」巨根

  素っ気なく答えるとギルドを出る。そのまま街の外へと向かいたいところだが、購入するものがあるので商業区へと足を運ぶ。

  やって来たのは武器屋である。幾ら最弱級の魔物でも素手では厳しいと判断して武器を買いに来たのだ。手持ちの金額で購入できるものを探す。

  そう考えて見て回ってると、やはり手持ちの金額ではナイフなどの短剣になってしまう。
  その中でも比較的丈夫なものを探していると、刀身も太く持ち手も握り易そうな品に目がいった。

 「コレをくれ」

  そう言って店の親父に見せる。

 「はいよ、ソリッドナイフね。2650リギンね」

  金を手渡して商品を受け取る。鞘はプレゼントだと言われて予想外の好意に感謝した。防具はどうしようかと思い思案する。
  盾でも購入しようかと悩んでいたが、いざとなったら《文字魔法ワード・マジック》を使えばいいかと判断してこのまま出掛けることにした。

  街から出て西にある【クリエールの森】を目指す。【トール街道】という道を真っ直ぐ行けば到着できる。

  昨日宿屋を探している途中に雑貨屋へ行き、一応HP回復薬として《カリカリ豆》を五つに、MP回復薬として《蜜飴みつあめ》を三つ、そしてこの世界の地図を購入した。

  必要経費とは言っても、これでものの見事にすっからかんになってしまった。是が非でもクエストを達成して金を得なければ、野宿になってしまう。それはそれで楽しそうだが、いきなりド級の貧困生活は勘弁してほしかった。

  歩いていると目の前に変な物体があった。

 (何だコレ……?)

  大きさはバレーボールくらいだ。しかし形は決まっていなく、プニプニウネウネして立ち塞がっていた。

 (おいおい、コイツってまさか……?)

  あのRPGで有名な初心者用のレベル上げモンスターである……

「スライムかっ!」

  少し興奮気味に声を発する。するとその声に驚いたのか、急にこちらへ向かって突進してくる。

 「おいおい、いきなり戦闘開始かよ!」

  そう思い鞘からソリッドナイフを抜く。相手の動きは遅い。しかしあんな気味の悪そうな感触で体当たりされたらと思って寒気がする。

  魔物が跳び上がった瞬間、それに目掛けてナイフを振り下ろす。ブシュッとあまり手応えは無かったが、スライムらしきものは真っ二つになった。
  二つになったソレはまだウネウネ動いていた。ハッキリ言って気持ちが悪い。

 「まさか分裂して二体になりましたとかじゃないよな?」

  それだと刃物が効かないということなので、どうしようかと思案していると、魔物は苦しそうに地面の上でウネウネと動き回り、やがて停止した。
  恐る恐るナイフで突いて確かめてみる。狼一号

 (あ、いやそんなことよりもコッチで確かめた方が早いか!)

  そう思い《ステータス》を開く。するとNEXT(レベルアップまでの経験値)が10だったのに、今では8になっている。
  経験値が入っているということは、魔物を仕留めたということだ。

 「おお~、ていうかやはり魔物だったんだな。ゴブリンと同じく最弱級の魔物だろうな。経験値たったの2だし」

  だが初めてのバトルで勝利を収めた感覚は、何だか充実感があった。少しは心が痛むかと思ったが、案外平気だった。

 「……やはりまだゲーム感覚……というかどことなく他人事みたいな感じだな」

  冷静に分析していると、またも背後からガサガサッと音がする。振り向くとそこにはまたもスライムがいた。しかも今度は三匹だ。

 「こりゃ、レベル上げにはもってこいかもな。けどどうせなら四匹出てきてくれよな」

  それならレベルアップできたのにと内心で舌打ちする。するとそれをあざ笑うかのように背後からもスライムが三匹現れる。日色は完全に囲まれてしまった。

 「おいおい、初心者にいきなり挟み撃ちか?」

  嫌味を溢しながらまずは目の前の三匹を倒すことに専念する。一匹、二匹と剣でぶった斬ったところで、ドスッと背中に衝撃が走る。スライムの突進攻撃を受けてしまったようだ。

 「くぅ……案外痛いなこりゃ」

  普通に誰かに殴られたような衝撃である。少し離れて《ステータス》を確認する。するとHPが3も減っていた。

 「こりゃウカウカ遊んでる場合じゃないか」

  気を引き締め直してソリッドナイフを構える。二匹同時に突撃してきたので、それを避けて一匹を即座に斬り裂く。だがまたも背後に他の二匹が迫ってくる。

 「痛いのは勘弁だからな!」

  振り向き様にナイフを振ると、二匹同時に斬ることができた。あと一匹。日色は自分から突っ込み絶命させる。

  すると頭の中でピロロロロ~ンという力が抜ける音がした。《ステータス》を開く。

「やはりさっきの音はレベルアップした音か。それにしてもMPの上がり方がすごいな。一気に25も上がるなんてな。ま、こっちとしては大歓迎だが」

  しかしレベルアップしても全快しないという仕様は少し残念だなと愚痴る。そういうゲームもあるので、できればそちらの仕様なら嬉しかったのだ。

  そのまま現れてくるスライムを倒しつつ【クリエールの森】へと向かった。

  【クリエールの森】に着いたはいいが、どこにゴブリンがいるのか分からなかった。あれから何度かスライムを倒してレベルは3に上がっていた。

  仕方無く警戒しながら森を進んでいく。迷わないように木に傷をつけていく。帰る時はこれを目印にすればいい。

  するとまたガサガサっと茂みが揺れる音がする。ゴブリンかと思い構えたが、またもスライムだった。

 「……またお前か」

  そろそろ飽きたなと思いながらも瞬殺する。もう慣れたもんだった。クエスト内容はゴブリン十体討伐。倒した証拠として《ゴブリンの歯》を持って帰る必要があるのだ。

  ちなみにスライムも一応討伐部位として《スライムの身》があるのだが、そんなものは気持ち悪くて触りたくなかったので放棄した。三體牛鞭

  森を進み、歩いているとまたもスライムが現れる。しつこいなと苛立ちを覚えた瞬間、横の茂みから何かが現れる。そして武器のようなもので殴りかかってくる。

  ブオンッ!

  咄嗟に体を傾けて避けたが、じんわりと冷や汗を流す。

 (あ、危なかったぁ……そうか、あれがゴブリンだな)

  図鑑で見せてもらった魔物の姿と一致した。身形みなりは子供のように小さいが醜悪そうな顔をして、手には棍棒を持っている。

 (アレで殴られたらかなり痛いだろうな……)

  ゴブリンを睨みつけていると、背後にまたも衝撃が走り呻うめき声を上げる。スライムのことを完全に失念していた。しかもその隙にゴブリンも向かって来る。

 (くっそ! 確かゴブリンは群れで行動するんだよな。ノロノロしてられない!)

  ソリッドナイフを構え棍棒を受け切る。ギギギと歯ぎしりするような声を出すゴブリン。その口元から涎が垂れている。絶対に噛みつかれたくないなと強く思った。蹴りを加えてゴブリンを飛ばす。

 (ふぅ、人のような姿をした魔物か……殺れるか……オレに)

  自分に問いかけ目を細めながらゴブリンを見つめる。無論日本にいた時、殺人などしたことはない。虫を殺したことはあっても動物はない。そんな自分が魔物とはいえ、人の姿に似た生物の命を奪うことができるか不安だった。

 「……はぁ、オレはここで生きていくつもりだ」

  自分に言い聞かせるように吐く。

 「悪いな……オレの礎いしずえになってくれ」

  そう言うと、全力のスピードでゴブリンに向かう。何故か知らないが、日色はAGL(素早さ)が高い。ゴブリンはそのスピードに面喰めんくらったかのように動かない。

  ブシュゥゥゥゥゥッ!

  ゴブリンを寸断する。少し吐き気を感じる。しかしそれは胸の中に飲み込みキッとゴブリンを睨む。

 「次はお前だ!」

  そのままスライムも倒す。するとまたもレベルアップの音が頭の中で鳴る。これでレベルは4になった。順調に上がっている。

  だが喜びも束の間、前からぞろぞろとゴブリンが姿を現してくる。どうやら先程の戦闘で気づかれたようだ。

  だが日色はコレを待っていたのだ。魔力を指先に集中する。そして地面に素早く文字を書く。ゴブリンが数体纏めて向かって来る。

 (よし……そのまま来い!)

  すぐ目の前までゴブリンが来た時、

 「発動しろ!」

  叫ぶと文字から放電現象が起きる。そして次の瞬間、地面から鋭いものが複数現れゴブリンの突き刺していく。

 「ハハ、成功したみたいだな」

  ゴブリンは痛みに歯を噛み締めながら必死に動こうとしているが思い通りに動かせない。次第に動きが止まり絶命する。男宝

  日色が書いた文字は『針』。

  範囲は『硬』の時と同じく畳が四畳くらいの大きさだ。そこにゴブリンたちが入ってくるのを待っていた。まるでサボテンのようになった地面は、そこに入って来たゴブリンたちを刺殺した。

 (くぅ……思ったより精神的にきやがるな)

  ゴブリンたちは貫かれた部分から夥しい血液を流している。それを見てこれが実戦だということを強く意識する。これは自分がやったこと。そして下手をすれば自分もこうなる。それを強制的に理解させられる。

 (ふぅ、とにかく今はまずやることをやる!)

  そしてすぐに次の行動に移る。まだまだ周囲にはゴブリンがいる。
  だが日色の奇妙な攻撃に戸惑っているのかなかなか攻めてこない。

 「そんじゃ次の実験だ」

  そう言いながら今度は拾った石に文字を書く。今度は『止』だ。

  上手くいけば相手の動きが止まるかもしれない。その石をゴブリン目掛けて投げつける。それがゴブリンの肩のあたりに当たった瞬間に発動する。しかし止まったのは石だった。石は空中で動きを止めている。

 (なるほどな、魔法を流すことはできないか)

  恐らく石に書いてしまった以上、その石そのものにしか効果は反映されないのだと判断した。

  できるなら石に書いた文字の効果がゴブリンにも効いてほしかったが、そうはいかなかったようだ。石そのものにしか効果は無く、その効果をゴブリンに流すことはできなかった。

 (なら次だ!)

  今度はナイフの刀身に『伸』と書く。そして剣を構えて体をコマのように回転させる。

 「発動!」

  ビュゥゥゥゥゥゥン!

  瞬間、刀身は何倍にも伸びてその刃に、距離を取っていたはずのゴブリンたちは体を斬られる。一気に三体を仕留めた。残りは見たところ三体いる。

 「クエストだと十体だからあと二体でいいが、全員逃がしはしないぞ」

  長くなったナイフを振り回しゴブリンたちを屠ほふっていく。途中でレベルアップの音が鳴り響いたが気にせず倒すことに専念する。

  全て倒し終わった後、《ゴブリンの歯》を回収する。上顎うわあごの一つだけ尖っている歯だけを取ればいいとのことだった。その前に『元』の字を使ってナイフを戻した。

  回収し終わり、途端に全身を脱力感が襲う。MPもすっからかんだ。なのでMP回復薬である《蜜飴》を口にする。

 (そういや、地面も元に戻しておくか)

  回復はしたので『元』の字で直すことができた。しかしこれだけ動いたのも久しぶりだが、やはり魔物とはいえ虐殺に近いことをしたのが堪えている。VVK